人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー
避難していた住民が村へと戻り、
翌日には王都から使者が到着した。
使者達は当初、にわかには信じられないという様子だった。
けれど、狼の爪によって抉られた地面やロベルトの怪我、
シルバレットが撃った弾などから、信じざるを得なかった。
それから関係者が王宮に集められ、
情報のすり合わせが行われた。
この間、ロベルトも一時軟禁状態を解かれる。
狼に手を貸していたコーディリアは、
重罪であると同時に不当な魔女裁判の被害者であるとして、
慎重に協議が重ねられた結果、
禁固刑の後に修道院へ送られることになった。
ロベルトは何も知らなかったとして、
人形製作を行なった件については不問にされた。
しかし、ビアンカの虚言だけは覆らない。
王は娘を信じ、ロベルトを責め続けた。
これにより、
理不尽に耐え続けていたエルフェンバイン夫妻の我慢は
限界を迎えることとなる。
彼らはロベルトを信じる貴族達と結託し、
王太子の後ろ盾となって王の交代を目論んだ。
その裏では、トリトマがロベルトの無実を証明するために
奔走していた。
結果はというと、
子爵の手足として忙しく働いていたロベルトに、浮気なぞする暇は無く、
ビアンカとの接点も見つからないという、
予想通りのものだった。
ビアンカと婚約を解消したロバートまでもが、
ロベルトの潔白を信じるほどに、
トリトマが集めた証拠は確かなものだった。
それでもビアンカは、自分がロベルトと夫婦同然の仲だと言い張る。
そして王は
「なあロベルトよ。ビアンカには今婚約者がいない。
もし、本当に娘を幸せにしてくれるなら、
お前をエルフェンバインに復籍させてやらんでもないぞ?
私も王である前に父親なのだ。
娘がどうしてもと言う相手であれば、多少身分が低くとも……」
などと言う始末。
ロベルトとトリトマの再婚約が公表されたのは、
その直後の事だった。
「どうして? どうして私じゃないの?」
「ロベルトめ。王女に手を出しておきながら、
他の女を選ぶなど……!」
勘違い親子は婚約式に乗り込むと、
祝いの席で二人を激しく糾弾した。
「ああもう。こっちの身分が下だからって好き勝手言って……!」
「トリトマ、僕なら大丈夫だから落ち着いて」
「ロベルトは黙ってて」
「あ、はい」
内気で大人しいトリトマであったが、
ロベルトを失う恐怖を味わった事で、
何かが吹っ切れたらしい。
王族が相手であっても、臆することはない。
「ビアンカ様。それほどロベルトと仲睦まじいと仰るなら、
何か証拠見せていただけませんか?
彼に貰ったプレゼントとか、あるでしょう?」
「ある訳ないじゃない。彼とは一度しか会ってないんだもの」
ビアンカの言葉に、その場が静まりかえった。
「ビアンカ? お前、何を言っているんだ?」
「一度も会っていないと言うことは、今までの嘘を認めるんですね?」
「? 私、嘘なんて言ってないわよ?」
その場にいる全員が、何を言っているのか理解できなかった。
「私達は前世から結ばれているんだもの。生まれた時から
夫婦だったのよ。そうでしょう?」
ロベルトはおぞましいもの見るような顔で、
この国で最も尊い少女の顔を見た。
否、事実としてこの少女の事が、心底おぞましかった。
「貴女は、一体何をおっしゃっているんですか?」
「え……。もしかして、私が分からないの?
ほら、私よ私。あんなに愛を確かめ合ったじゃない」
まるで、おかしいのはロベルトだと言わんばかりの言い草に、
誰もが言葉を失う。
「前世って貴女。そんなの信じる訳無いじゃない。
そんな事のためにロベルトをあんな目に合わせたの?」
「何よ泥棒猫。ロベルトは渡さないんだから」
娘の妄言の数々に、王は狼狽していた。
確かに娘の言葉に嘘は無かったが、これなら嘘の方がマシである。
「ああもう、いい加減にして」
「トリトマ。もう良いよ。怒ってくれてありがとう」
そう言って、ロベルトはビアンカと向き合った。
「ね、やっぱりこの女との婚約は間違いだったでしょう?」
「……貴女は僕の事を、よく知っているんですか? トリトマよりも?」
「当たり前じゃない。前世からの付き合いだもの。
なんだって知っているわ」
「なら、どうして僕に嫌われるような事ばかりするんですか?
僕の事をよく知っていて、僕との夫婦関係を望んでいるのなら、
嫌われるような事は避けるはずでしょう?」
「私、ロベルトが嫌がる事なんてしてないわ」
「なら、貴女は僕をよく知らないんでしょうね。
僕は貴女の事が大嫌いなので」
「は……?」
「僕が嫌がることをしていない? 冗談でしょう?
その上、嫌われていることにすら気づかない。
僕は貴女の前世となんら関係ありません。
人違いです。
まぁ、僕は『貴女のおかげ』で民間人になりましたから、
もう会うことは無いでしょうけれど」
その後、王がロベルトを子爵の嫡男に復籍をと提案したが、
「今の王家に仕える価値を見出せない」として、
ロベルトはこれを蹴った。
ビアンカは狂人として貴族の噂に上り、その内、
一般市民にまで広まることとなる。
さて、祝いの場に招かれていた、
正装が馴染まない少年はというと。
「前世かぁ。もし本当なら可哀想な気もするけど、
今は今だし、いつまで引き摺ってもねぇ」
「えーシルバレットは信じるんスかぁ?」
「ツイックラインは信じないんだね」
「そりゃそうっスよ。あまりにも非現実的です」
「妖精に言われてもなぁ。いや、妖精が否定するくらい
突飛な話って事なのか……?」
「例えば、お前さんが嬢ちゃんの立場だったらどうする?
前世の妻が今世で他の男と結婚しようとしたら、
取り返すか?」
「まさか。一番大事なのは、その人が幸せかどうかだろ?
隣にいるのが自分かどうかなんて、どうでも良いよ。
ちょっとは寂しいだろうけど」
「言うねぇ。初恋もまだの坊ちゃんが」
「うるさいな。イエーガーが聞いたんじゃないか」
「あら、私はシルバレットの言う通りだと思うわよ。
結局、あのビアンカって子はそれが分からないから、
妄想に夢を見ただけの愚か者だったって事でしょう?」
「いや、僕はそこまで言ってないからね」
シルバレットは気付いていない。
「シルバレットの言う通り」という赤ずきんからの賛同が、
妖精である彼女からの、最高の信頼であるという事に。
妖精は本来、心が清らかな者の前にしか現れない。
何をもって清らかと言うのかは個々の判断によるが、
少なくとも、赤ずきんはシルバレットをそのような存在だと
認めているのである。
そしてそれは、これからも妖精と関わる人生を歩む事を
意味していた。
つまり。
静かな森の奥でたった一人、という生活は、
彼のこれからの人生に、金輪際訪れることはないのである。
翌日には王都から使者が到着した。
使者達は当初、にわかには信じられないという様子だった。
けれど、狼の爪によって抉られた地面やロベルトの怪我、
シルバレットが撃った弾などから、信じざるを得なかった。
それから関係者が王宮に集められ、
情報のすり合わせが行われた。
この間、ロベルトも一時軟禁状態を解かれる。
狼に手を貸していたコーディリアは、
重罪であると同時に不当な魔女裁判の被害者であるとして、
慎重に協議が重ねられた結果、
禁固刑の後に修道院へ送られることになった。
ロベルトは何も知らなかったとして、
人形製作を行なった件については不問にされた。
しかし、ビアンカの虚言だけは覆らない。
王は娘を信じ、ロベルトを責め続けた。
これにより、
理不尽に耐え続けていたエルフェンバイン夫妻の我慢は
限界を迎えることとなる。
彼らはロベルトを信じる貴族達と結託し、
王太子の後ろ盾となって王の交代を目論んだ。
その裏では、トリトマがロベルトの無実を証明するために
奔走していた。
結果はというと、
子爵の手足として忙しく働いていたロベルトに、浮気なぞする暇は無く、
ビアンカとの接点も見つからないという、
予想通りのものだった。
ビアンカと婚約を解消したロバートまでもが、
ロベルトの潔白を信じるほどに、
トリトマが集めた証拠は確かなものだった。
それでもビアンカは、自分がロベルトと夫婦同然の仲だと言い張る。
そして王は
「なあロベルトよ。ビアンカには今婚約者がいない。
もし、本当に娘を幸せにしてくれるなら、
お前をエルフェンバインに復籍させてやらんでもないぞ?
私も王である前に父親なのだ。
娘がどうしてもと言う相手であれば、多少身分が低くとも……」
などと言う始末。
ロベルトとトリトマの再婚約が公表されたのは、
その直後の事だった。
「どうして? どうして私じゃないの?」
「ロベルトめ。王女に手を出しておきながら、
他の女を選ぶなど……!」
勘違い親子は婚約式に乗り込むと、
祝いの席で二人を激しく糾弾した。
「ああもう。こっちの身分が下だからって好き勝手言って……!」
「トリトマ、僕なら大丈夫だから落ち着いて」
「ロベルトは黙ってて」
「あ、はい」
内気で大人しいトリトマであったが、
ロベルトを失う恐怖を味わった事で、
何かが吹っ切れたらしい。
王族が相手であっても、臆することはない。
「ビアンカ様。それほどロベルトと仲睦まじいと仰るなら、
何か証拠見せていただけませんか?
彼に貰ったプレゼントとか、あるでしょう?」
「ある訳ないじゃない。彼とは一度しか会ってないんだもの」
ビアンカの言葉に、その場が静まりかえった。
「ビアンカ? お前、何を言っているんだ?」
「一度も会っていないと言うことは、今までの嘘を認めるんですね?」
「? 私、嘘なんて言ってないわよ?」
その場にいる全員が、何を言っているのか理解できなかった。
「私達は前世から結ばれているんだもの。生まれた時から
夫婦だったのよ。そうでしょう?」
ロベルトはおぞましいもの見るような顔で、
この国で最も尊い少女の顔を見た。
否、事実としてこの少女の事が、心底おぞましかった。
「貴女は、一体何をおっしゃっているんですか?」
「え……。もしかして、私が分からないの?
ほら、私よ私。あんなに愛を確かめ合ったじゃない」
まるで、おかしいのはロベルトだと言わんばかりの言い草に、
誰もが言葉を失う。
「前世って貴女。そんなの信じる訳無いじゃない。
そんな事のためにロベルトをあんな目に合わせたの?」
「何よ泥棒猫。ロベルトは渡さないんだから」
娘の妄言の数々に、王は狼狽していた。
確かに娘の言葉に嘘は無かったが、これなら嘘の方がマシである。
「ああもう、いい加減にして」
「トリトマ。もう良いよ。怒ってくれてありがとう」
そう言って、ロベルトはビアンカと向き合った。
「ね、やっぱりこの女との婚約は間違いだったでしょう?」
「……貴女は僕の事を、よく知っているんですか? トリトマよりも?」
「当たり前じゃない。前世からの付き合いだもの。
なんだって知っているわ」
「なら、どうして僕に嫌われるような事ばかりするんですか?
僕の事をよく知っていて、僕との夫婦関係を望んでいるのなら、
嫌われるような事は避けるはずでしょう?」
「私、ロベルトが嫌がる事なんてしてないわ」
「なら、貴女は僕をよく知らないんでしょうね。
僕は貴女の事が大嫌いなので」
「は……?」
「僕が嫌がることをしていない? 冗談でしょう?
その上、嫌われていることにすら気づかない。
僕は貴女の前世となんら関係ありません。
人違いです。
まぁ、僕は『貴女のおかげ』で民間人になりましたから、
もう会うことは無いでしょうけれど」
その後、王がロベルトを子爵の嫡男に復籍をと提案したが、
「今の王家に仕える価値を見出せない」として、
ロベルトはこれを蹴った。
ビアンカは狂人として貴族の噂に上り、その内、
一般市民にまで広まることとなる。
さて、祝いの場に招かれていた、
正装が馴染まない少年はというと。
「前世かぁ。もし本当なら可哀想な気もするけど、
今は今だし、いつまで引き摺ってもねぇ」
「えーシルバレットは信じるんスかぁ?」
「ツイックラインは信じないんだね」
「そりゃそうっスよ。あまりにも非現実的です」
「妖精に言われてもなぁ。いや、妖精が否定するくらい
突飛な話って事なのか……?」
「例えば、お前さんが嬢ちゃんの立場だったらどうする?
前世の妻が今世で他の男と結婚しようとしたら、
取り返すか?」
「まさか。一番大事なのは、その人が幸せかどうかだろ?
隣にいるのが自分かどうかなんて、どうでも良いよ。
ちょっとは寂しいだろうけど」
「言うねぇ。初恋もまだの坊ちゃんが」
「うるさいな。イエーガーが聞いたんじゃないか」
「あら、私はシルバレットの言う通りだと思うわよ。
結局、あのビアンカって子はそれが分からないから、
妄想に夢を見ただけの愚か者だったって事でしょう?」
「いや、僕はそこまで言ってないからね」
シルバレットは気付いていない。
「シルバレットの言う通り」という赤ずきんからの賛同が、
妖精である彼女からの、最高の信頼であるという事に。
妖精は本来、心が清らかな者の前にしか現れない。
何をもって清らかと言うのかは個々の判断によるが、
少なくとも、赤ずきんはシルバレットをそのような存在だと
認めているのである。
そしてそれは、これからも妖精と関わる人生を歩む事を
意味していた。
つまり。
静かな森の奥でたった一人、という生活は、
彼のこれからの人生に、金輪際訪れることはないのである。
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