人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

 難しい顔をする父の説得には骨が折れたが、近くの街まで行く許可はなんとか取れた。

 父だってロベルトの人柄は知っている。
 何かがおかしいとは思いつつも、立場上動けないでいたのだろう。

 エルフェンバイン子爵によると、軟禁場所に一番近い街にあるどこかの家から、数日おきに食料や日用品が運ばれているらしい。

 子爵の別邸から直接送られていると思ったのだが、頼んでいる管理人は住み込みでないらしく、管理人の自宅から届けているそうだ。

 子爵の別邸であれば場所が分かるのだが、管理人の家は流石に知らない。
子爵も「令嬢が使用人の家に行くのは……」と教えてくれなかった。

 仕方なく、ロベルトの軟禁先に通じる道沿いの宿から、それらしい人物が通りかかるのを待つことにした。

「荷と一緒に手紙を届けて貰いましょう」

 ロベルトと直接会うことは許されていないが、手紙ならば何とかなるかもしれない。
 私は数人の共を連れ、子爵領の街に向かった。

 ロベルトの軟禁場所に向かう道は一本だけ。
 私達はそこに面した宿を借りた。

 朝から何時間も宿ので通りを眺めていたが、それらしい荷馬車は現れない。

「変ね。食料を運ぶのは数日おきなんでしょう?
もう7日経つわ」

「もしかして、別の道から行っているんじゃありませんか?」

「そんなはずないわ。ここを通らなきゃ屋敷に行けないはずだもの」

 その日の晩。
 途方に暮れる私たちを見かねたのか、宿の女将が声をかけてきた。

「あなた達、何日も宿の前に突っ立ってるけど、どうして? 訳ありみたいだし、詮索しないつもりだったけど、流石にこう毎日だと……ねぇ?」

「ごめんなさい。実は……」

 随分迷惑をかけてしまったようだ。
 私は、正直に事情を話した。

「ああ、それで。そう、あの坊ちゃんの」

「何か、ご存知なんでしょうか」

「残念だけど、もう生きちゃいないだろうさ。雪で道が塞がってから、あの屋敷には誰も行っていないはずだから」

 この人が、何を言っているのか分からなかった。
 言葉の意味を飲み込めず、理解することができない。

 頭が理解していないのに、涙だけは素直に溢れていく。

 視界が霞むにつれ、周りの景色が遠くなっていくような感じがした。

「勘違いでは有りませんか? 子爵の計らいで、ロベルト様の生活は最低限保証されているはずですよ」

 連れの一人が、呆然とする私に代わって声を上げた。

「そんな事を言われましても、本当に見かけなくなったんですよ。雪が積もるまでは、しょっちゅう荷馬車を見かけたのに。春になってからも荷馬車は一度も通っていませんよ。だから、もう」

 それからの事は、何も覚えていない

 ただ、家に帰るのが億劫で。
 重い体を当てもなく歩かせていた。

 私を気遣ってか、使用人達も見守るだけで、止めようとはしなかったと思う。私が気づかなかっただけかもしれないけれど。

 そんな私の前に、彼女は不意に現れた。

「人形?」

「いえ、きっと少し前から噂になっている妖精ですよ。最近は王都でも見かけた方がいらっしゃるとか」

 妖精? でも。
 私の中の記憶が、それを人形だと言っている。

『恥ずかしいから、家族以外には内緒なんだ。でも、君はもうすぐ家族になるからね』

 小さな妖精の向こうに、微笑む彼の面影を見た気がした。

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