人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

 王の言葉に、我が耳を疑った。

 ロベルトが婚約者以外の女人、それも王女と関係を持ったなどという作り話が、さも真実であるかのように語られたのだ。

 父として断言するが、ロベルトはそのような人間ではない。

 不器用なりにトリトマ嬢と心を交わし、次期当主としての勉学にもよく励んでいた。

 まだまだ未熟者ではあるが、未来のエルフェンバイン子爵として、申し分ない素養があると私は信じている。

 それが、どうしてこのような事態になったのか。

 王は娘の言葉を信じて疑わない。
 同じ親としてその心情は汲むが、あまりに公平性に欠く判断はいただけない。
 ロベルトの話も聞いてやるべきだ。

 だが、子爵の立場で王に意見など出来ようか。

 すでに王はロベルトを罰するつもりでいる。

 王女の婚約者である隣国の王太子からも怒りの言葉が届いており、事は当事者だけの問題ではなくなっていた。

 外交問題に発展しつつあり、国益を大きく損なうのは時間の問題だった。

 最悪の場合、ロベルトが断頭台に上がるという可能性すらある。

 私の振る舞い次第では、一族や領民をも巻き込む事になるだろう。
 

 御前に引き摺り出されたロベルトは、馬鹿正直に無実を訴えているが、王女の証言を覆す力などあるはずもなかった。

 当の王女は自室で悠々と過ごし、こちらには顔すら出さない。

 ならば、私にできる事は。


「このバカ息子‼︎」

 腹の底から声を出し、ロベルトを怒鳴りつける。
 ロベルトは信じられないという顔で私を見上げた。

「お前の不始末でどれだけの損害が出ていると思っているのだ」

 知っている。
 この子が人の道に反するはずが無い事を。

「最早お前を息子とは思わん」

 つり目がちなロベルトの目尻が大きく下がる。

「恥知らずめ。二度と我が屋敷に踏み入るな」

 すまない。本当にすまない。

「陛下。我が領地に捨て置いた館がございます」

 王よ、これで納得してくれ。

「そこに単身でロベルトを軟禁いたしましょう」

 頼む。極刑にだけはしたくない。

「あそこならば、王女殿下との接触も叶いますまい」

 息子も、一族も、領民も、当主である私が守らねば。

「町からも離れていますし、世間知らずな若造には堪えるでしょう。
それに……」

 言え。言うしかない。
 どれだけ己の本心に背こうとも、
 息子の命には代えられない。

「私もこの愚息……失礼、この愚かな『青年』の顔を、
拝まなくて済みます故」

 ロベルトの顔には失望の色が浮かぶ。
 家族の絆とはなんだったのか。

 だが、これで。

「うむ。嫡男の排斥は苦渋の決断であろう。子爵家当主としての覚悟、しかと受け取った。よろしい。ロベルト・ウォルフ・エルフェンバインは家名剥奪の上、指定の場所に軟禁とする」

 ロベルトは、反論する気力すら失っていた。

「……今夜一晩のみ、屋敷への滞在を許可する。朝までに荷物をまとめておきなさい」
「はい」

 これで良い。
 無実のロベルトを、みすみす殺されてたまるか。

 あとは、あの館から一番近い町にある、私の別邸の管理人にロベルトの支援金を渡し、必要なものを運んでくれるよう頼むだけだ。

 当主が代わったら、あるいは王の赦しが出たら、きっと会いに行こう。
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