人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

 隣国の王太子、その名はロバート。

 ええ、会わずとも分かるわ。
 彼こそが前世で私の夫だった人に違いない。

 前世では私の方が先に死んでしまったけれど、また同じ時代に生まれ変われて嬉しいわ。

 私もあなたも王族で、身分は釣り合っている。
 今世でも私たちは夫婦になる運命みたいね。
 待っていて。すぐにあなたの花嫁として、会いに行くから。

 あなたとの婚約が決まってからは、嫁ぐ日に向けて慌ただしい毎日だった。
 でも、あなたがとても暖かい手紙をくれたから。私はなんだって頑張れた。

 そして、初めて顔を合わせるはずだった晩餐会。楽しみにしていたのに、嵐で来られなくなったなんてあんまりだわ。
 退屈な貴族達の挨拶だって、あなたと会えると思ったから我慢していたのに。

 一組が退がり、また次の一組がやってくる。中年の男と、黒髪の……。

「お久しぶりですね、殿下。今宵も大輪の薔薇のような……」

 この中年男は誰だったかしら。
 いえ、そんな事はどうでもいいわ。
 中年男の後に控える殿方はもしや……。

「彼は?」
「ああ失礼。倅のロベルトです。ほら、挨拶なさい」

 ああ、なんてことでしょう。

「お初にお目にかかります、殿下。エルフェンバイン子爵家長男のロベルトと申します。本日は拝謁の機会を賜り、光栄に存じます」

 微笑む彼の瞳は、確かに憂いを帯びていた。

 彼だ。彼こそが、かつての夫だったのだ。ロバートがその人だというのは、大いなる勘違いだった。

 ロベルトは私が隣国へ嫁ぐことを知っているはず。だから、こんなにも悲しそうな顔をしているに違いない。

 私は彼の愛を裏切ってしまった。

 けれど、彼にも婚約者がいるらしい。
 ええ、言わずともわかるわ。

 貴族の長男ですもの。周囲の人間が勝手に婚約を決めてしまったのね。

 なんて酷い運命の悪戯かしら。
 私達がもっと早く出会えていたなら、こんなことにはならなかったのに。

 そして、運命の被害者は私達だけじゃない。
 愛の無い婚約を強いられたのは、ロベルトの婚約者も同じこと。

 もしかしたら、彼女はロベルトを愛しているのかもしれない。
 なんて可哀想なの。
 ロベルトが私だけを一途に愛しているとも知らないで。
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