人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

ロベルトの存在は、半年前の一件で初めて知った。

 子爵家の嫡男が婚約中の王女と不貞を働いたと、結構な騒ぎになっていたことを覚えている。

 ロベルトの婚約者は精神を病んだとか、子爵が相当なお金を支払ったとか、嘘か誠か分からない、嘘か誠かどうでもいい。
 そんな話をそこかしこで聞いた。

 ロベルトの人形趣味も、その噂の一つとして上がっていた。

 まさか半年経った今、真偽不明のあの噂を利用する事になるとは思わなかった。

 結果として噂は本当だった訳だが、たとえ嘘でもロベルトなら何とかしてくれただろう。

 ちょっと泣いて見せただけで、簡単に騙せるような男だ。
 適当な理由を付けて頼み込めば、あっさり引き受けたに違いない。

 ともかく、私はロベルトに報復の片棒を担がせる事に成功した。

 妖精を狼の力で眠らせ、ロベルトが作った人形に分割した意識を憑依させる。

 あとは眠ったままの妖精が見つからないよう、屋敷の外に隠しておけばいい。

 ロベルトは暇を持て余している。
 お陰で、人造妖精の素体は面白いように増えた。

 これで、緩やかに人類は衰退する。人造妖精に想像の全てを食べられて。
 私たちの報復はそうやって達成される。

 それまではロベルトの関心を引いておかなくては。

 ロベルトは紳士的な振る舞いこそするが、肉欲というものがない訳ではない。

 私の手当てをした時もそう。
 服を脱がそうとしなかったのは、きっと必要以上にこちらを意識をしていたから。
 もし関心が無いのなら、人命救助と割り切って事務的に対応出来たと私は思う。

 婚約者がいたらしいが、おそらく何もしていない。
 婚前交渉などせず、清らかな関係だった事だろう。

 お陰で、若い男女が二人きりで生活しているというのに、私たちの間には何も起こらない。

 上目遣いで見つめても、胸に顔を埋めて泣いてみても、それはそれは丁重に扱ってくれる。

 本っっ当に何も起こらない。
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