人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

 ロベルトは、実に単純な男だった。

 私をベットに横たえると、おぼつかない手つきで傷の手当てを始めたが、スカートに手を入れる度胸は無かったらしい。

 ロベルトは人命救助の名目があるにも関わらず、決して衣服に手をかけようとはしなかった。
 誠実といえば聞こえは良いが、そこに致命的な傷があったらどうする気だ。

 この様子だと、半年前に流れた不貞の疑惑も、本当は何も無かったに違いない。
 何なら、婚約者にすら手を出していなかったのではないか。

 私はたった今目覚めたという素振りで起き上がる。

 それから目の前の男と向き合い、申し訳程度の手当てに
礼を言った。

 ロベルトに素性を尋ねると、自分は本来子爵家の長男だが、
身に覚えのない罪で廃嫡されたと話した。
 やはり冤罪だったらしい。そこは私と同じだ。

 ロベルトは荒廃した屋敷での生活を嘆いていたが、庶民の私から見れば、十分に大きな住まいを与えられていた。
 この広い庭に、私の生家が何十軒入るのやら。

 無論、それを表に出すことはしない。

「そんな……無実の人を軟禁だなんて。お父様もあんまりです。家族は互いに信頼し合ってこそ成立するものなのに……‼︎」

 さて、とりあえず泣いてみた訳だが、思った以上に効果があった。

 たとえ理不尽に暴力を振るわれても、他人の不幸を自分のことのように悲しめる女。

 ロベルトは私をそのような存在だと解釈した。

 本当に、都合の良い男で助かった。
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