人造妖精と行き止まりの夢/メインストーリー

 傷も癒え、すっかり元気になった彼女に、
僕はコーディリアという偽名を与えた。

 もし追手が来ても、知らぬ存ぜぬで通すつもりだ。

 コーディリアは良く働く人だった。
 使わない部屋は放っておいて良いと言ったが、
「ついでですから」と、手入れを怠らない。

 けれど、心の傷は簡単に消えたりはしない。

 些細な物音に怯えたり、
不意に、不安げな目でこちらを見上げる。

 そして夜になると、彼女の部屋からは
嗚咽が聞こえるのだ。

「……すまない。隠しているようだったから、
そっとしておこうと思っていたのだけれど、
どうしても気になって」

「いえ、こちらこそ気を遣わせてしまってごめんなさい。
その、もしもあの人達がこの場所を知ったら、
旦那様まで酷い目に合うかもしれません。
そうなったら、私、今度こそ居場所が無くなってしまいます」

 あの人達というのは、彼女を暴行した連中だろう。
 よくも、無実の少女にここまで出来たものだ。

「僕のことは気にしなくて良い。
心配事があれば、遠慮なく言って……どうかした?」

 僕の言葉に、彼女は何か躊躇うような顔をした。

「実は、旦那様に隠している事があって。でも、それを話したら、
旦那様も私を魔女だと思うかも……」

「そんな事は絶対に無い‼︎」

 思わず語気を強めてしまった。
 怖がらせたかと心配になったが、
彼女は笑って「よかった」と言う。

 彼女は部屋の奥から小さな籠を持ってくると、
その中身を私に見せた。

「実は私、妖精さんを拾ったんです。ほら」

 折り畳まれたハンカチの上で、すやすやと眠る小さな少女。
 心の美しい者にしか姿を見せないと伝承されているはずだが、
こんなにも無防備に眠っているなんて。

「この子、旦那様のお人形のモデルさんになりませんか?」

 知っていたのか。
 いや、僕のメイドになったのだから当然か。

 貴族の長男としては不適格なのだろうが、
木や布を使っての人形作りが、長年の趣味だった。

 最初は妹達の人形にと服を作っていただけだったが、
妹達が人形遊びをしなくなった頃、
僕は人形そのものを作るようになっていた。

 家族以外には恥ずかしくてとても教えられない趣味だったが、
彼女は少しも笑ったりしなかった。

 僕が手早く妖精のスケッチをすると、
彼女は「では、お外に返して来ますね」と、
妖精を起こさないよう、そっと部屋を後にした。
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