般若
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目の前でジュージュー音を立てて焼ける特上カルビを、パイソンさんが器用にトングでひっくり返す。
油の乗ったお肉は光っていて、とても美味しそうだ。
先程ビールが来たタイミングで知ったのだが、パイソンさんの名前は真島さんと言うらしい。
そもそも名前を知らない極道の人と、食事に行こうなんて私もなかなか勇気がある。
「月子チャン、仕事は何しとんのや?」
「ほれ」とこちらに寄せられたカルビを、「頂きます」と皿に移した。
琥珀色のタレに肉の油が浮いて、なんとも食欲をそそる。
「受付嬢ってやつです」
「ほーん、どこの会社や?」
何気ない会話だと思うけれど、この人がヤクザだと思うと口篭ってしまう。
そんなに悪い人じゃないと思うけれど、やっぱり少し怖かった。
「言いたないんやったら言わんくてええで。
俺もこんなんやしな、聞いてすまんかった。
ほら、早よ食いや」
私の様子を見て察したのか、真島さんはニカッと笑ってそう言った。
こんなに優しい人なのに、ヤクザという偏見を持ってしか接することができない自分が、ちょっと腹立たしい。
けれど促されるまま食べたお肉は美味しくて、思わず頬が緩んだ。
そのあと冷たいビールを流し込めば、思わず「クゥー」と言いたくなる。
そう言えばビールを飲んだのも、久しぶりだ。
「んまそうな顔して食うなぁ。
そういう顔して飯食う女が一番好きや」
天然なのか計算なのか、真島さんはこういう女性が意識しそうなことを平気で言う。
さっきだって髪の毛下ろしてるのも可愛いなぁとか、見た目と中身のギャップが堪らないとか、ずっと私は誉め殺しだ。
ギャップで言うなら真島さんだって負けてないと思うけれど。
見た目が派手というか怖い割に、喋ると気さくだし、何よりよく見たらすごく顔も整ってる。
イケオジってやつだ。
「そや、見合いはどうなってん」
「あー...」
バツの悪そうな顔をする私に、真島さんはまた子供みたいに笑った。
「意図にせず上手くいっとるんや?」
「まぁ...そんなとこです。
今日も逃げて来たんですよ」
別に約束していたわけではないが、会社を出たら見覚えのある高級車が停まっていて、すぐにタクシーを拾った。
理由は知らないけれどあのバッティングセンターには入れないと言っていたから、逃げ込んだだけ。
途中一度だけ峯から着信があったけれど、無視した。
見合いから3度食事に行ったけれど、やっぱりなんだか好きになれない。
父が薦める相手だから、余計なんだろう。
「あの...」
「ん、なんや」
「真島さんも、極道...なんですよね」
一瞬躊躇って視線を泳がせるけれど、お酒の力もあって思わず口が滑った。
あっと思うけれど、真島さんは全然気にしていなさそうに見える。
「そら俺こんなやもん。見た目通りやろ。
ちゅーか"も"ってなんやねん、"も"って」
しまったと思うけれど、思えば顔に出てしまうから、それが私の短所だった。
「そらあれか、見合い相手がまさかの極道なんか」
「まぁ、そんなとこです。
見た目は全然ヤクザっぽくないですけど。
表向きは若手青年実業家って感じです」
「あー、おるな。
俺の嫌いなインテリヤクザっちゅーやつや」
まるで苦虫を噛み潰すみたいな顔して、真島さんは牛タンをひっくり返した。
「ヤクザにもタイプがあるんですか」
「そらそやろ。俺みたいなまんまのヤツもおれば、月子チャンの見合い相手みたいなんもおる。
最近はそんなんばっか増えたけどなぁ、俺らみたいなんはもう古いんやろ」
「真島さんは、どんなタイプなんですか」
極道相手に何をずけずけと聞いているんだ、とも思うけれど、真島さんが優しいのでつい口が滑ってしまう。
たぶんこの人は聞き上手。
私が馬鹿なだけかも知れないけれど。
「俺は頭やなくて、どっちかっちゅーと気持ちで動くタイプやな。
今の若いのには笑われるやろうけど、義理人情とか任侠とか、やっぱそんなんが好きやわ。
逆に難しい話やらは嫌い。だるいねん」
「あぁ」
真島さんの言葉に思わず感嘆の声が漏れる。
「どっちに付く方が利口とか、損得とか、そんなん考えへんとアカンってヤツもおるけどな。
俺にはできひん。嫌いなヤツは嫌いやし、好きなヤツは好き、そんだけや」
「わかります、すごく。
任侠とかはわからないけど、私も気持ちで動きたいタイプだから」
峯はお金で何でも買えると言ったけれど、私はそうじゃないと心から思う。
途中から家がお金持ちになって、生活は豊かになった。
でも母と二人で暮らしていた方が気持ちの上では豊かだったのではと、12歳の頃から何度も考えている。
「もう一杯飲むか?」
「はい、頂きます」
今日は父が出張で家にいないから、少し羽を伸ばし過ぎているかも知れない。
気をつけていたつもりだけれど、今日4杯目のビールに口をつけてしまった。
油の乗ったお肉は光っていて、とても美味しそうだ。
先程ビールが来たタイミングで知ったのだが、パイソンさんの名前は真島さんと言うらしい。
そもそも名前を知らない極道の人と、食事に行こうなんて私もなかなか勇気がある。
「月子チャン、仕事は何しとんのや?」
「ほれ」とこちらに寄せられたカルビを、「頂きます」と皿に移した。
琥珀色のタレに肉の油が浮いて、なんとも食欲をそそる。
「受付嬢ってやつです」
「ほーん、どこの会社や?」
何気ない会話だと思うけれど、この人がヤクザだと思うと口篭ってしまう。
そんなに悪い人じゃないと思うけれど、やっぱり少し怖かった。
「言いたないんやったら言わんくてええで。
俺もこんなんやしな、聞いてすまんかった。
ほら、早よ食いや」
私の様子を見て察したのか、真島さんはニカッと笑ってそう言った。
こんなに優しい人なのに、ヤクザという偏見を持ってしか接することができない自分が、ちょっと腹立たしい。
けれど促されるまま食べたお肉は美味しくて、思わず頬が緩んだ。
そのあと冷たいビールを流し込めば、思わず「クゥー」と言いたくなる。
そう言えばビールを飲んだのも、久しぶりだ。
「んまそうな顔して食うなぁ。
そういう顔して飯食う女が一番好きや」
天然なのか計算なのか、真島さんはこういう女性が意識しそうなことを平気で言う。
さっきだって髪の毛下ろしてるのも可愛いなぁとか、見た目と中身のギャップが堪らないとか、ずっと私は誉め殺しだ。
ギャップで言うなら真島さんだって負けてないと思うけれど。
見た目が派手というか怖い割に、喋ると気さくだし、何よりよく見たらすごく顔も整ってる。
イケオジってやつだ。
「そや、見合いはどうなってん」
「あー...」
バツの悪そうな顔をする私に、真島さんはまた子供みたいに笑った。
「意図にせず上手くいっとるんや?」
「まぁ...そんなとこです。
今日も逃げて来たんですよ」
別に約束していたわけではないが、会社を出たら見覚えのある高級車が停まっていて、すぐにタクシーを拾った。
理由は知らないけれどあのバッティングセンターには入れないと言っていたから、逃げ込んだだけ。
途中一度だけ峯から着信があったけれど、無視した。
見合いから3度食事に行ったけれど、やっぱりなんだか好きになれない。
父が薦める相手だから、余計なんだろう。
「あの...」
「ん、なんや」
「真島さんも、極道...なんですよね」
一瞬躊躇って視線を泳がせるけれど、お酒の力もあって思わず口が滑った。
あっと思うけれど、真島さんは全然気にしていなさそうに見える。
「そら俺こんなやもん。見た目通りやろ。
ちゅーか"も"ってなんやねん、"も"って」
しまったと思うけれど、思えば顔に出てしまうから、それが私の短所だった。
「そらあれか、見合い相手がまさかの極道なんか」
「まぁ、そんなとこです。
見た目は全然ヤクザっぽくないですけど。
表向きは若手青年実業家って感じです」
「あー、おるな。
俺の嫌いなインテリヤクザっちゅーやつや」
まるで苦虫を噛み潰すみたいな顔して、真島さんは牛タンをひっくり返した。
「ヤクザにもタイプがあるんですか」
「そらそやろ。俺みたいなまんまのヤツもおれば、月子チャンの見合い相手みたいなんもおる。
最近はそんなんばっか増えたけどなぁ、俺らみたいなんはもう古いんやろ」
「真島さんは、どんなタイプなんですか」
極道相手に何をずけずけと聞いているんだ、とも思うけれど、真島さんが優しいのでつい口が滑ってしまう。
たぶんこの人は聞き上手。
私が馬鹿なだけかも知れないけれど。
「俺は頭やなくて、どっちかっちゅーと気持ちで動くタイプやな。
今の若いのには笑われるやろうけど、義理人情とか任侠とか、やっぱそんなんが好きやわ。
逆に難しい話やらは嫌い。だるいねん」
「あぁ」
真島さんの言葉に思わず感嘆の声が漏れる。
「どっちに付く方が利口とか、損得とか、そんなん考えへんとアカンってヤツもおるけどな。
俺にはできひん。嫌いなヤツは嫌いやし、好きなヤツは好き、そんだけや」
「わかります、すごく。
任侠とかはわからないけど、私も気持ちで動きたいタイプだから」
峯はお金で何でも買えると言ったけれど、私はそうじゃないと心から思う。
途中から家がお金持ちになって、生活は豊かになった。
でも母と二人で暮らしていた方が気持ちの上では豊かだったのではと、12歳の頃から何度も考えている。
「もう一杯飲むか?」
「はい、頂きます」
今日は父が出張で家にいないから、少し羽を伸ばし過ぎているかも知れない。
気をつけていたつもりだけれど、今日4杯目のビールに口をつけてしまった。
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