勝負は1球差で、パイソンさんが勝利した。
私は悔しくて地団駄を踏んだが、彼はそれを見て楽しそうに笑う。


「約束や。この後飯付き合うてくれ」


「...わかりました」


ため息混じりで答えるけれど、パイソンさんには伝わらなかったのか「何食う？」と子供のようにはしゃいでいる。
私よりは随分歳上だろうが、無邪気な人だなと思った。


「うまい店結構知ってんで。
和食か？中華か？イタ飯か？
高いもんでも何でもええで」


「できればフレンチと懐石以外で。
そんな高くなくて、堅苦しくないとこがいいです」


「なんや、欲ないなぁ。
そんなん言うたら、韓来にすんで」


"韓来"という響きに、私は思わず手を挙げた。


「焼肉ですよね？焼肉がいいです！」


韓来もそれなりの値段に違いないが、あの家にいたら滅多に焼肉なんか食べられない。
父は洋服に臭いが付くのが嫌いなのだ。
それに食事は静かに、フルコースで食べる物だと思っている。


「なんや、ええとこのお嬢さん風やのに、
ホンマに風なだけなんやな」


パイソンさんは笑顔で「ほな、行くで」と言った。
その後ろに続いてバッティングセンターを出ると、いかついスーツ姿の男の人が何人もいて、「おつかれさんです」と頭を下げられる。


「ちょっくら韓来まで行ってくるわ。
帰りは電話する。車寄越せや」


右手を挙げてそう言う彼を見て、勝負に乗らなければ良かったと思った。
この人は見た目通り、やっぱりヤクザなんだ。