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「今日も逃げられるかと思いましたが」
テーブルの向かいに座る峯が、表情を変えずそう言った。
「できることならそうしたいのですが」
私も彼に習って表情を変えないまま、それだけ答えてワインを口に含んだ。
今日は前回とは違うホテルのフレンチ。
ナイフとフォーク、ワイン、パンとフォアグラ。
金持ちの好きなものって、どうしてこういうのなんだろう。
どうせ水は炭酸水だ。
シュワシュワしてればオシャレなのか。
「随分と嫌われたものですね。
私は月子さんに興味があるというのに」
「父の会社の間違いじゃないですか」
相変わらず峯は私の口撃にも眉一つ動かさない。
それが腹立たしくも、怖くもあった。
「もちろんビジネスという点では。
でも個人的にあなたにも興味がある」
「顔色一つ変えずに言われても」
私の嫌味に、峯がフッと笑った。
それに驚いてしまって、ついナイフとフォークを持つ両手が止まった。
スズキのソテーが、ふんわりと崩れる。
「相変わらず口の減らない人だ。
俺の周りにはいないタイプの女性です」
さっきまで一人称は"私"だったのに。
急に出されたような彼の素に戸惑う。
そう言えばこの間もこんなことがあった。
「...あなたの周りには、さぞ賢くてお淑やかな女性ばかりなんでしょうね」
「確かにバッティングセンターに行くような女はいないな」
峯の言葉に顔が熱くなって、私はついにナイフとフォークを置いた。
「気に障ったなら申し訳ない」
「残念ながら、私はあなたの期待に添えるような女じゃありません」
「俺の期待とは?」
苛々として今にも立ち上がろうとする私に、峯がそう尋ねた。
その目は真っ直ぐで、私はただ固まるしかない。
蛇に睨まれた蛙の気分だった。
冷たくて、鋭くて、でも目が離せない。
「俺はね、月子さん。
金で買えないものはないと思っている。
いい女も、ブランド品も、インテリアも、車も、名声もね」
私の嫌いな、典型的な、金持ち。
「でもあんたは、なんでかな。
そういうのでなびかなさそうだ」
相変わらず瞳は冷たいままなのに、フッと息を漏らす峯が、何故だか少年みたいに見えた。
「謙遜してるようだが、あんたは頭が良い。
そうでなきゃそこまで俺に盾ついたりできない。
減らない口も頭の回転が良い証拠だ」
「...嫌味ですか」
「まぁ、この間のような事をされれば、
俺だって嫌味の一つも言いたくなる」
「一つじゃないと思いますけど」
「面白い女だな」
今度こそ正真正銘、峯が笑った。
目が細められ、口角が上がると年齢よりずっと若く見える。
「私はお金で買えない物も
たくさんあると思っていますよ。
だから私と峯さんは、合わないと思います」
「本当にそんな物があると思うなら、
俺にそれを見せつけてみろよ」
挑むような視線を向けられ、私は思わず生唾を飲んだ。
峯の端正な顔立ちが恨めしい。
「俺に参ったと言わせてみろ。
あんた、負けず嫌いだろう」
「本当、むかつきますね、あなた」
峯はまた表情のない顔に戻る。
ちょっと考えてから、私は答えを口にした。
「さっきみたいに笑ってくれるなら」
「...さっき?」
「そう。さっきみたいに、本当の顔で笑ってくれるなら、考えても良いですよ。
普段の峯さん、表情がなくて苦手です。
笑った顔の方がまだマシ」
私の言葉に、峯はまた笑った。
彼の本当の顔なんて私は知らないけれど、でもあれは本当の笑顔に近いんだと思う。
たぶん、きっと、そうなんだと思いたかった。
テーブルの向かいに座る峯が、表情を変えずそう言った。
「できることならそうしたいのですが」
私も彼に習って表情を変えないまま、それだけ答えてワインを口に含んだ。
今日は前回とは違うホテルのフレンチ。
ナイフとフォーク、ワイン、パンとフォアグラ。
金持ちの好きなものって、どうしてこういうのなんだろう。
どうせ水は炭酸水だ。
シュワシュワしてればオシャレなのか。
「随分と嫌われたものですね。
私は月子さんに興味があるというのに」
「父の会社の間違いじゃないですか」
相変わらず峯は私の口撃にも眉一つ動かさない。
それが腹立たしくも、怖くもあった。
「もちろんビジネスという点では。
でも個人的にあなたにも興味がある」
「顔色一つ変えずに言われても」
私の嫌味に、峯がフッと笑った。
それに驚いてしまって、ついナイフとフォークを持つ両手が止まった。
スズキのソテーが、ふんわりと崩れる。
「相変わらず口の減らない人だ。
俺の周りにはいないタイプの女性です」
さっきまで一人称は"私"だったのに。
急に出されたような彼の素に戸惑う。
そう言えばこの間もこんなことがあった。
「...あなたの周りには、さぞ賢くてお淑やかな女性ばかりなんでしょうね」
「確かにバッティングセンターに行くような女はいないな」
峯の言葉に顔が熱くなって、私はついにナイフとフォークを置いた。
「気に障ったなら申し訳ない」
「残念ながら、私はあなたの期待に添えるような女じゃありません」
「俺の期待とは?」
苛々として今にも立ち上がろうとする私に、峯がそう尋ねた。
その目は真っ直ぐで、私はただ固まるしかない。
蛇に睨まれた蛙の気分だった。
冷たくて、鋭くて、でも目が離せない。
「俺はね、月子さん。
金で買えないものはないと思っている。
いい女も、ブランド品も、インテリアも、車も、名声もね」
私の嫌いな、典型的な、金持ち。
「でもあんたは、なんでかな。
そういうのでなびかなさそうだ」
相変わらず瞳は冷たいままなのに、フッと息を漏らす峯が、何故だか少年みたいに見えた。
「謙遜してるようだが、あんたは頭が良い。
そうでなきゃそこまで俺に盾ついたりできない。
減らない口も頭の回転が良い証拠だ」
「...嫌味ですか」
「まぁ、この間のような事をされれば、
俺だって嫌味の一つも言いたくなる」
「一つじゃないと思いますけど」
「面白い女だな」
今度こそ正真正銘、峯が笑った。
目が細められ、口角が上がると年齢よりずっと若く見える。
「私はお金で買えない物も
たくさんあると思っていますよ。
だから私と峯さんは、合わないと思います」
「本当にそんな物があると思うなら、
俺にそれを見せつけてみろよ」
挑むような視線を向けられ、私は思わず生唾を飲んだ。
峯の端正な顔立ちが恨めしい。
「俺に参ったと言わせてみろ。
あんた、負けず嫌いだろう」
「本当、むかつきますね、あなた」
峯はまた表情のない顔に戻る。
ちょっと考えてから、私は答えを口にした。
「さっきみたいに笑ってくれるなら」
「...さっき?」
「そう。さっきみたいに、本当の顔で笑ってくれるなら、考えても良いですよ。
普段の峯さん、表情がなくて苦手です。
笑った顔の方がまだマシ」
私の言葉に、峯はまた笑った。
彼の本当の顔なんて私は知らないけれど、でもあれは本当の笑顔に近いんだと思う。
たぶん、きっと、そうなんだと思いたかった。