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「ラフロイグの30年をオンザロックで。
こちらの女性には何か飲みやすいものを」
「同じ物でいいです」
ホテルの最上階にあるバーのカウンターに掛けるなり、峯がバーテンダーにオーダーした。
好みを全く聞いてもらえないことにも腹を立てていたが、何より酔いたい気分だったので私も同じ物を頼んだ。
挑むような視線を右横に座る男に向けてみるが、大した反応は返って来ない。
「今日の出会いに」
キザな台詞を吐いてグラスを傾けられるが、こういうのが様になるから余計腹立たしい。
私はそれを無視してグラスを口に付ける。
一口飲んで軽くむせ返り、恥ずかしくなった。
「独特の風味があるでしょう」
「...正露丸みたい」
「正露丸か」
私の例えに峯はハハハと声を出して笑った。
この人が笑うところを、私は今日初めて目にする。
「酷く正直な例えですね。
私はこのスモーキーさが好きですが、
正露丸と言われれば、確かにそうかも知れない」
私は何も言わず、目の前の琥珀色の液体をただ眺めた。
今日の見合いに前向きな気持ちは一つもなかったし、今もそれは同じ。
峯という男の機械的な所も好きになれない。
ただ自分に拒否権も決定権も与えられていないことだけは、少なくとも理解している。
「あの...聞いてもいいですか」
「なんでしょうか」
私は隣に座る峯の顔を見つめた。
色素の薄い瞳がこちらを捉えている。
相変わらずアンドロイドみたいに、人間味を感じない。
けれど目だけは綺麗な人だと思った。
「峯さんはこの見合いをどう思ってるんですか」
「あぁ、そんなことですか」
「そんなことって...」
まるで何でもないみたいに言われて、私の頭に血が昇った。
「ビジネスですよ。藤田と組んで仕事が
やり易くなるなら、私にはメリットしかない。
あなたの父親と同じ考えです」
「だから私を責めるのは間違っている」と続けられ、私は押し黙る。
本当は今すぐにでもこの男の頬を引っ叩きたいし、父にも文句を言ってやりたかった。
でもそれは許されない。
私は両手の拳を握り締めて、ただこの屈辱を耐えた。
目の前にある酒も、この男も、父も、自分も、全部大嫌いだ。
だからトイレに行く振りをして、私は峯の前から逃げ出すことにした。
こちらの女性には何か飲みやすいものを」
「同じ物でいいです」
ホテルの最上階にあるバーのカウンターに掛けるなり、峯がバーテンダーにオーダーした。
好みを全く聞いてもらえないことにも腹を立てていたが、何より酔いたい気分だったので私も同じ物を頼んだ。
挑むような視線を右横に座る男に向けてみるが、大した反応は返って来ない。
「今日の出会いに」
キザな台詞を吐いてグラスを傾けられるが、こういうのが様になるから余計腹立たしい。
私はそれを無視してグラスを口に付ける。
一口飲んで軽くむせ返り、恥ずかしくなった。
「独特の風味があるでしょう」
「...正露丸みたい」
「正露丸か」
私の例えに峯はハハハと声を出して笑った。
この人が笑うところを、私は今日初めて目にする。
「酷く正直な例えですね。
私はこのスモーキーさが好きですが、
正露丸と言われれば、確かにそうかも知れない」
私は何も言わず、目の前の琥珀色の液体をただ眺めた。
今日の見合いに前向きな気持ちは一つもなかったし、今もそれは同じ。
峯という男の機械的な所も好きになれない。
ただ自分に拒否権も決定権も与えられていないことだけは、少なくとも理解している。
「あの...聞いてもいいですか」
「なんでしょうか」
私は隣に座る峯の顔を見つめた。
色素の薄い瞳がこちらを捉えている。
相変わらずアンドロイドみたいに、人間味を感じない。
けれど目だけは綺麗な人だと思った。
「峯さんはこの見合いをどう思ってるんですか」
「あぁ、そんなことですか」
「そんなことって...」
まるで何でもないみたいに言われて、私の頭に血が昇った。
「ビジネスですよ。藤田と組んで仕事が
やり易くなるなら、私にはメリットしかない。
あなたの父親と同じ考えです」
「だから私を責めるのは間違っている」と続けられ、私は押し黙る。
本当は今すぐにでもこの男の頬を引っ叩きたいし、父にも文句を言ってやりたかった。
でもそれは許されない。
私は両手の拳を握り締めて、ただこの屈辱を耐えた。
目の前にある酒も、この男も、父も、自分も、全部大嫌いだ。
だからトイレに行く振りをして、私は峯の前から逃げ出すことにした。