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「さぁ、紹介しよう」
高級ホテルのフレンチレストラン。
眺めの良い個室の席で、隣に座った父が目の前にいる男性を掌で差した。
「こちらは白峯会会長、峯義孝さんだ。
月子、お前も知っているね」
父の言葉にコクリと頷く。
目の前に座る端正な顔立ちをした男は、投資家として有名で、それ以外にもいくつも会社を経営しているやり手だ。
でもそれは全てただのフロント企業で、実際は極道であることも裏では有名な話だった。
「藤田会長の御息女がご存知とは、光栄ですね」
峯は切れ長の二重の目を細め、笑顔を作る。
薄い唇と皺の無い綺麗な肌が、まるで作られたアンドロイドみたいに感じて、私は居心地が悪くなる。
「月子、きちんとご挨拶なさい」
「...初めまして。藤田 月子です」
父の手前仕方なく自己紹介をするが、正直言えば気乗りしない。
これは体よく言えばお見合いで、実際のところはただの政略だ。
父はこの峯という男の財力と手腕が欲しくて、娘を極道に売り飛ばそうとしている。
父と言っても私とは血が繋がっていないのだから、そうすることへの罪悪感なんてないのだろう。
「すまないね、愛想のない娘で」
「いえ、愛想と言われれば、私も同じですから」
峯の冗談とも取れない発言に、父は困惑したようだが笑うことに決めたらしい。
表面上は和やかなムードで、私たちの初対面は進んだ。
時間が過ぎることだけを考えながら適当に相槌を打つ私は、きっと印象が良くないに違いない。
けれどあろうことか峯は、そんな私を二軒目に誘った。
「月子さんは私が送っていきますから。
良ければ二軒目にお誘いしても?」
「おお、それは良い。
若い二人で積もる話もあるだろう」
初対面の極道と積もる話などある訳ないのだが、答えるのは私ではなく父の役目だ。
溜息を吐きたい気持ちをグッと堪えて、私は父の背中を見送った。
「フレンチはお口に合いませんでしたか」
「え?」
終始上の空だった私に、峯はそう尋ねた。
「いえ、別に...食欲が湧かなくて」
正直に言ってしまってから、しまったと思った。
ハッと我に返って峯の表情を窺うが、彼はフッと笑うだけで怒ったりはしていないようだ。
「正直な人だ。損をするタイプでしょう」
その物言いに私はムッとするが、何も言わないことに決めた。
抑揚のない話し方といい表情と言い、この男はとことん食えない。
「食欲がないなら次は上のバーに行きますか。
お酒を飲めば少しは口数も増えるかも知れない」
私の返事も聞かず峯は歩き出した。
今度はしっかり溜息を吐いて、彼の後ろをついて行く。
高級ホテルのフレンチレストラン。
眺めの良い個室の席で、隣に座った父が目の前にいる男性を掌で差した。
「こちらは白峯会会長、峯義孝さんだ。
月子、お前も知っているね」
父の言葉にコクリと頷く。
目の前に座る端正な顔立ちをした男は、投資家として有名で、それ以外にもいくつも会社を経営しているやり手だ。
でもそれは全てただのフロント企業で、実際は極道であることも裏では有名な話だった。
「藤田会長の御息女がご存知とは、光栄ですね」
峯は切れ長の二重の目を細め、笑顔を作る。
薄い唇と皺の無い綺麗な肌が、まるで作られたアンドロイドみたいに感じて、私は居心地が悪くなる。
「月子、きちんとご挨拶なさい」
「...初めまして。藤田 月子です」
父の手前仕方なく自己紹介をするが、正直言えば気乗りしない。
これは体よく言えばお見合いで、実際のところはただの政略だ。
父はこの峯という男の財力と手腕が欲しくて、娘を極道に売り飛ばそうとしている。
父と言っても私とは血が繋がっていないのだから、そうすることへの罪悪感なんてないのだろう。
「すまないね、愛想のない娘で」
「いえ、愛想と言われれば、私も同じですから」
峯の冗談とも取れない発言に、父は困惑したようだが笑うことに決めたらしい。
表面上は和やかなムードで、私たちの初対面は進んだ。
時間が過ぎることだけを考えながら適当に相槌を打つ私は、きっと印象が良くないに違いない。
けれどあろうことか峯は、そんな私を二軒目に誘った。
「月子さんは私が送っていきますから。
良ければ二軒目にお誘いしても?」
「おお、それは良い。
若い二人で積もる話もあるだろう」
初対面の極道と積もる話などある訳ないのだが、答えるのは私ではなく父の役目だ。
溜息を吐きたい気持ちをグッと堪えて、私は父の背中を見送った。
「フレンチはお口に合いませんでしたか」
「え?」
終始上の空だった私に、峯はそう尋ねた。
「いえ、別に...食欲が湧かなくて」
正直に言ってしまってから、しまったと思った。
ハッと我に返って峯の表情を窺うが、彼はフッと笑うだけで怒ったりはしていないようだ。
「正直な人だ。損をするタイプでしょう」
その物言いに私はムッとするが、何も言わないことに決めた。
抑揚のない話し方といい表情と言い、この男はとことん食えない。
「食欲がないなら次は上のバーに行きますか。
お酒を飲めば少しは口数も増えるかも知れない」
私の返事も聞かず峯は歩き出した。
今度はしっかり溜息を吐いて、彼の後ろをついて行く。
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