サン、ハイ!
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「諸君!おはよう!」
朝礼から真島建設の一日は始まる。
メガフォンを片手にする真島さんの「サン、ハイ!」という声に合わせて、
従業員一同元気よく「おはようございます!」と声を上げた。
「ええ挨拶や!最近は現場もまとまってきて、ホンマにええこっちゃ!」
ここ最近現場の士気が高まってきていて、今まではバラバラだった皆の動きが一つになっている。
素人の集まりであるにも関わらず、建設もそこそこ順調で真島さんは機嫌が良い。
彼の機嫌が良いと、私も嬉しかった。
朝礼が終わると私と社長はプレハブ小屋に引っ込む。
私には事務仕事があるし、真島さんには私にちょっかいを掛けるという仕事がある。
本音は物凄く邪魔なんだけれど、私はそれを口にしない。
「美琴チャンの趣味はなんや」
「…読書と料理、ですかね」
「そらえらい地味やのぉ。ショッピングとかせぇへんのかいな」
「しなくはないですけど、贅沢をする習慣がないんです」
「ほうか、そしたらわしとショッピングでも行こか!」
「…今は、仕事中なので」
今すぐにでも行こう!という雰囲気を出されて、私はそれをやんわりと断った。
この会社にまともな事務作業ができる人間は私しかいないので、仕事が山ほどある。
おまけに四六時中こうやって真島さんに話しかけられるのだから、仕事が進まなかった。
「ほんならあれや、終わったら飯でも行こか!」
「今日は残業予定です」
「えらい冷たいのぉ」と不貞腐れる真島さんを見て、まるで子供みたいだなと思った。
この人は子供が大きくなっただけみたいで、この間不覚にもドキドキした自分が恥ずかしい。
「…えらい平和やなぁ」
ポツリ、と呟かれた声にパソコンから顔を上げる。
真島さんの顔を見れば、どこか穏やかな表情で目を瞑っていた。
相変わらずデスクに足は投げ出されているけれど、その顔はいつもと違って少し戸惑う。
またそういう顔をする、と思った。
この人は時々びっくりするくらいまともな顔をしてみたりする。
だからどれが本当の真島さんなのか私には分からない。
「平和なのはええけど、退屈や」
あぁ、私はこの顔に弱いんだ。
ため息を一つ吐くと「いいですよ」と口を開いた。
「今日、ご飯行ってもいいですよ」
「お!どないしたんや」
まるでおやつをもらった子犬みたいに、真島さんはきらきらと目を輝かせた。
「…別に行かなくてもいいですけど」
「冗談やんか!ほな終わったら飯な!」
フンフンと鼻歌を歌い出した真島さんを無視して、私は業務に集中する。
真島さんと食事に行くために、なるべく早く仕事を終わらせなければ。