「今日の美琴ちゃん、弾けてますね」


「…そやな」


韓来を貸し切って行われている俺の快気祝いで、
美琴はやたらと酒を煽っていた。
大ジョッキを片手に特上の肉ばかり頼み、
しまいには焼酎のロックにまで手を出し始めている。
今まで一緒に酒を飲み交わしたことは何度かあるが、
彼女がここまで乱れたことはない。


やっぱりキララがあかんかったんやろか…
せやけど男の性や、しゃぁないやろ


俺はそう自分に言い聞かせてみるが、
美琴が怒っているのは明白だった。


「あっれぇ、西田さん飲んでますぅ？」


もう相当酔っているのか、美琴の目は完全に座っている。
彼女は西田の肩を掴むと「ほら」とジョッキを無理やり握らせた。


「乾杯一気ですよ、イッキ！」


そう言ってグラスをぶつけると、美琴は焼酎を流し込む。


「あぁ、それロックじゃ…」


西田が慌ててその手からグラスを取り上げようとする。
けれど美琴はそれを拒むと、
今度は西田のジョッキに手を伸ばした。



「飲まないなら、私がもらいます」


「あぁ！」


そのまま彼女はビールを一気して
「おかわり！」と元気よく叫んだ。
こりゃ手が付けられんほど荒れとるな、と俺は思った。


「真島社長も飲んで下さいね～、今日は潰しますから」


「お…おう」


凄まれるが恐らく先に美琴が潰れるに違いない。
そう思った矢先、彼女は勢い良くテーブルに突っ伏した。


「もう飲めないし、むかつく！」


そう叫んだ後は静かになるから、たぶん寝たのだろう。
俺と西田は顔を見合わせて苦笑する。


「最近色々ありましたからね、疲れてたんすかね」


「せやな」


「親父が入院したって言った時、
美琴ちゃんめちゃくちゃ心配してましたよ」


西田の言葉に、俺は眠る美琴を見つめた。
随分慌てた様子でやってきたと、柄本にも言われた。


「もの凄い勢いで事務所出て行っちゃって。
親父の事心から心配してるんだなって、俺思いました」


「ほうか」


俺はそう呟いた後、西田の頭を思いきり叩いた。
いつもはパーだが、今日はグーだ。
しかもとびきり力を込めた。


「イタ！なんで？！」


「やっぱりお前やったんか、美琴に言うたの」


「アイタ！」


「言うなってあれほど言ったやろボケ！」


俺の快気祝いは、大盛り上がりだった。