西田さんから聞いた病院へと、私はひたすら走った。
彼の話によると3日前、関西の極道組織が
神室町に乗り込んできたらしい。
真島さんは何十人というヤクザと、
たった一人で死闘を繰り広げたという事だった。
どうしてそんな無謀なことをするのか、
私の心は怒りで一杯になる。
もしあの人の身に何か起こってしまったら、
もし死んでしまったら…
そう思うといても立ってもいられず、事務所を飛び出していた。
だから神室町にある柄本医院に辿り着いた時、
私は完全に冷静さを失っていたと思う。


「真島さん！」


扉を開け、名前を叫んだ。


「なんだ、どうした」


医者と思われる男の人に制されるが、それを振り解く。
困惑した表情の医者に、私は詰め寄った。


「ここに真島さんはいますか？真島吾朗って人、入院してますか？」


掴みかかる勢いでそう聞く私の両肩を、
医者が宥めるように押さえた。


「落ち着け、奥のベッドにいる」


「真島さん！」


差された場所にはカーテンが引かれていて、中の様子が伺えない。
私は彼が重症であることを想像して、恐る恐るそこに近付いた。
頭の中を不安が支配していて、全身が冷たい。
勇気を振り絞って、カーテンを開いた。


「どないしてん」


「…え……」


そこにいたのは紛れもなく真島さんそのもので、
意識もちゃんとあった。
しかも手には大人の雑誌が握られていて、私は呆気にとられる。


「誰に聞いたんや。内緒にしとけってあれほど言うたのに」


飄々とする彼は思ったより元気そうで、
けれど顔や体に生々しい傷跡が残っていた。
私は安心して、その場にしゃがみ込んだ。


「おいおい、どないしたんや。腹の調子でも悪いんか」


「…いい加減にしてください」


沸々と先ほどまでの怒りがまた込み上げてきて、
私は立ち上がると、ベッドに座る真島さんの胸元を拳で殴った。


「アイタ！何すんねん、怪我人に！」


痛がる真島さんを無視して、私はもう一度彼の体を叩く。
気付けば涙が溢れて来て、止められなかった。


「どうして無茶なことするんですか」


更にもう一発、グーを作って胸元を叩いた。
鍛えられた胸筋に拳が当たって、パチン！と音がする。
けれど真島さんはもう痛がらなかった。


「真島さんに…もしものことがあったら…
真島建設は、どうなるんですか」


「…そらあれや……西田とかその辺が上手くやるやろ」


戸惑ったようにそう答えられ、私は拳に力を込めてもう一発殴る。
涙が後から後から溢れ出してくる。


「じゃあ私は…私はどうすればいいんですか」


「……美琴」


「真島さんに何かあったら、もし死んじゃったら、
私は…私は、どうしたらいいんですか」


真島さんの右手にある大人の雑誌を、私は力任せに奪い取る。
それを思いきり床に投げつけた。
ちょっとエッチな雑誌は、パシン！と音を立てて、
勢い良くページが開かれる。
それは、丁度女の人が裸で足を広げている写真のページだった。


「あぁ！わしのキララが」


そう呟いた真島さんの頬を、今度は平手で思いきり叩いた。


「真島さんの馬鹿！」


そう叫んで、柄本医院を後にする。
あんな雰囲気でお礼も告白も、できたもんじゃない。
私は神室町を肩で風を切るようにして歩いた。