私の入院は4日間だけだったが、
その間真島さんは見舞いに来てくれなかった。
代わりに過去の事件も含めて警察からの事情聴取が何度もあって、
私は彼にお礼を言うどころが会う事すら出来ていない。
肝心の大橋はと言うと、余罪も含めてかなりの罪に問われるようで、裁判は長丁場になるらしい。
業務に復帰できたのは事件から10日目のことだった。


「あの…真島さんは…？」


久しぶりに出勤して開口一番そう口にすると、全員の顔が曇った。
さっきまで笑顔で私の快気を祝う言葉をくれていたのに、皆がもじもじと下を向く。


「いやぁ…親父は…今、休暇っすね」


そう言った西田さんの額には、びっしりと汗が滲んでいる。
左右に瞳が揺れ、時々視線が宙を見るのでそこに何か浮かんでいるのかと思った。


「休暇？いつから？」


「…えーと、3日前くらいからですかね……」


「急に？」


「…あー…急というか、なんというか…」


しどろもどろになる彼の前に、私はツカツカと歩み寄った。
もう少し上手くやればいいのに、正直者の西田さんの顔には、「嘘を付いています」と書いてある。


「何か、隠してますよね」


「…いや、そんなことは……」


「西田さん」


私は思わず彼の胸倉を掴んでいた。
こんなに感情を露わにしたことは、たぶん人生のうちで数えるほどもない。


「私は真島さんに救われたんです。お礼を言いたいんです。
今、真島さんは、どこにいるんですか」


怒気を含んだ私の言葉に西田さんは「ヒィ」と小さく悲鳴を上げる。
「でも」とか「いや」とかをブツブツ繰り返す彼を、私は思い切り睨み付けた。


「…親父は今、入院してます」


渋々と言った様子で発せられたその言葉に、
私の心臓は早鐘を打った。


「どうして？！どこに？！」


彼の胸倉を掴んだまま、私はブンブンと両手を振った。
「言いますから！」という西田さんの悲鳴はもう届かない。