神室町をただひたすらに走り抜け、目的のビルに辿り着いた時、
俺の頭には最高潮に血が昇っていた。
これ以上ないくらいに怒っていたし、怒髪天を突き抜けていたと思う。
けれど扉を蹴破った瞬間、目に映った光景がより一層俺の火に油を注いだ。
人生でそう何度もない、最高潮を超える怒りだった。


「美琴！」


名前を呼んで、美琴の上に馬乗りになる大橋の胸倉を掴んだ。


「お前、何やっとるんや！」


顔面を一発殴りつけると、男は床に尻もちを付くように倒れこむ。
その髪の毛を思いきり掴むと、もう一発力任せに殴った。


「…ザ風情が」

「あぁ？！」


鼻血を流しながら大橋が小さく何かを呟いた。
その顔にあった眼鏡は衝撃でどこかに飛び、育ちの良さそうな顔が歪んでいるのが良く見える。


「ヤクザ風情がって言ったんだよ」

「なんやと、コラァ！」


もう一発殴れば、鼻が折れる感触がした。
大橋は呻き声を上げて両手で顔を抑えるが、俺は容赦なく今度は体を蹴り上げる。


「…お、お前みたいなヤクザ上がりに…一体何ができる。
どうせ俺は捕まらない…金で解決するだけだ…
お前みたいな半端な奴が…俺に手を下そうなんて……」


もはや全身で息をする大橋の顔面を、俺は右手で掴んだ。


「あんま俺をナメとると、痛い目見るで」


そこから先はもうほとんど記憶がない。
たぶん俺は大橋を殺すつもりで殴り続けていたのだろう。
花屋が連絡していたらしい伊達の登場により、奴の命は救われた。
お陰で警察が到着する前に、俺はビルから姿を消した。
俺にはまだ大仕事が残っている。
今警察に捕まる訳にはいかなかった。