花屋からの連絡の後、俺は急いでエレベーターに飛び乗った。
奴の切羽詰まった声が頭から離れない。
50階までの時間が、永遠かと思うほど長く感じる。


「来たか。ちょっとこれを見てくれ」


扉を開けるとすぐに、前置きもなく会話が始まった。
花屋の指示で画面に美琴の姿が映し出される。
どうやら男と会っている映像のようだが、その顔に見覚えがあった。
俺は思わず「どないなっとんねん」と声を上げる。


「どうやらお嬢さんは大橋と会っているらしい」


「これいつのや」


「2日ばかし前の映像だが、調べたらここ最近頻繁に接触している」


俺は画面を食い入るように見つめた。
親しい友人というようには見えないが、それでも十分距離が近い。
二人は初対面には見えなかった。
嫌がらせの黒幕である大橋は、嘘のような笑顔を美琴に向けている。


「そういや捜査資料は見たか」


「あぁ。なんや容疑者は他にもいたみたいやな」


「ちょっとコネで調べてもらったところによると、
その時の容疑者にはまだ10代だった大橋の名前があったらしい」


「…なんやて」


花屋の言葉に俺は耳を疑った。
まるで点と点が、一本の線で繋がったような気がしてくる。


「今回の件、単なる嫌がらせって訳でもなさそうだぞ」


背中に冷や汗がどっと流れるのを感じた。
俺はいてもたってもいられなくなり、思わず大声を張り上げる。


「おい！今美琴がどこにおるか調べられるか！」


「ちょっと待て」


花屋の指示でその部下たちが一斉にパソコンをいじり始める。
神室町中の防犯カメラの映像が目まぐるしく画面に映り、
「出ます」という一人の男の声の後で、それは一つの映像に絞られた。


「こりゃまずいな」


そこに映し出されたのは、古びた雑居ビルに入っていく美琴と大橋の姿だった。
俺の心臓は、今や早鐘のように鳴っている。


「これどこや！」


「ピンク通り裏の杉山ビルです」


その言葉に、俺は弾かれたように走り出した。
何が起きているのか事の全てはまだ把握できていない。
けれど美琴の無事だけを祈り、俺は神室町を必死に駆けた。