久しぶりに真島さんに会えたと思ったのに、
私は心の底から喜ぶことが出来なかった。
自宅への嫌がらせは日に日にエスカレートしていて、
もうすぐにでも引っ越しを考えなければならないだろう。
きっともう東京にはいられないかも知れない。
そう思えば真島建設を辞めなければならず、
真島さんとももう会う事は無くなってしまう。
もう恋をすることなんてないと思っていたのに、
この人の飄々として読めない癖に、ただ優しく私を
受け入れてくれたところに簡単に恋に落ちた。
自分の中に芽生えてしまった恋心への対処が分からず、
胸が締め付けらるように辛く、苦しかった。
本当は食事に誘われた時、一瞬でも嬉しかったというのに。


「なんや、デートか。ええ仲の男でもできたんか」


「そんなことないですよ」と言ってしまえば良いだけなのに、
私は何も言い返せない。
まるで何でもないことのように言われて、正直傷ついた。


「ま、ええけどな。美琴に男がおるんやったら、わしの出番はないな」


それはまるで冗談みたいな口調だった。
私が好きなのには真島さんなのに…
そう言えたらどんなに良いだろう。
少し不貞腐れたみたいな表情をして、
真島さんは事務所を出て行ってしまった。
本当はあのパイソン柄のジャケットの裾を掴んで、引き留めたい。
けれど引き留めた後の言葉が思い付かず、私はただ下唇を噛み締める。


その後私は、自分の携帯電話から大橋さんに連絡をした。
自分から連絡を取るのは、最初で最後だ。
私はきちんと彼に会って、話をしなければならない。