飢えた犬の如く
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大橋さんとの再会してから、私たちは良く会うようになっていた。
会うと言っても待ち合わせをしたり食事をする訳ではなくて、
帰り道に待ち伏せのように現れる彼の車に強引に乗せられているだけだ。
彼は会う度口癖みたいに「やり直したい」と何度も言った。
当然昔の男にまた恋心が再燃する訳もなく、会う度にその好意を断っている。
でもそう簡単に諦めてはくれない。
「…今の職場は、順調かい?」
自宅までの帰り道、大橋さんにそう聞かれた。
「嫌がらせは職場にもされているんだろう」
「今の職場の人たちは本当に良くしてくれて…
嫌がらせがあった後も、今まで通り接してくれているんです」
心配してくれた彼を安心させるつもりでそう答えただけだった。
けれど私の言葉に、大橋さんはピクリと眉を動かした。
一瞬見えたその怪訝な表情に首を傾げるが、彼はまたすぐに優しい笑顔になる。
「それは良い職場に巡り合えたんだね」
「…はい、とても」
真島建設のことを考えると、私の心は温かくなる。
それと同時に心苦しくもなった。
「その職場に誰か良い人でもいるのかな」
「…え?」
「いや、頑なに俺の告白に良い返事をくれないから、
もしかして他に好きな男でもいるのかなって思ってね」
「…そんなんじゃ……」
真島さんの顔が浮かんで、思わず頬が熱くなった。
私は彼に恋をしているけれど、それを口に出すべきでないことは分かっている。
「…顔に書いてあるよ」
優しい顔でそう指摘されて、罪悪感で一杯になる。
自分は彼の好意にただ甘えて、それを利用しているだけなのではとさえ思った。
「でも俺は諦めが悪いからね。もう後悔したくないんだ」
そっと手を握られるが、私はそれを押し返した。
私は彼にそんなことをしてもらう資格なんてない。
「本当に困ります。私たち、もう終わっているんです」
そう言った時には自宅が見えていて、私は逃げるように車から降りた。
ドアを閉めようと振り返れば、また優しい表情の大橋さんと目が合った。
「また迎えに来るよ」
そう言った彼の言葉を無視して、アパートの階段を駆け上がる。
玄関の扉を見た時、私は自分の体から力が抜けるのが分かった。
そこにはスプレーで直接、大きく殴り書きの文字がある。
"アバズレ"
一体誰がこんなことを…
終わらない悪夢に、身も心も引き裂かれそうだった。
会うと言っても待ち合わせをしたり食事をする訳ではなくて、
帰り道に待ち伏せのように現れる彼の車に強引に乗せられているだけだ。
彼は会う度口癖みたいに「やり直したい」と何度も言った。
当然昔の男にまた恋心が再燃する訳もなく、会う度にその好意を断っている。
でもそう簡単に諦めてはくれない。
「…今の職場は、順調かい?」
自宅までの帰り道、大橋さんにそう聞かれた。
「嫌がらせは職場にもされているんだろう」
「今の職場の人たちは本当に良くしてくれて…
嫌がらせがあった後も、今まで通り接してくれているんです」
心配してくれた彼を安心させるつもりでそう答えただけだった。
けれど私の言葉に、大橋さんはピクリと眉を動かした。
一瞬見えたその怪訝な表情に首を傾げるが、彼はまたすぐに優しい笑顔になる。
「それは良い職場に巡り合えたんだね」
「…はい、とても」
真島建設のことを考えると、私の心は温かくなる。
それと同時に心苦しくもなった。
「その職場に誰か良い人でもいるのかな」
「…え?」
「いや、頑なに俺の告白に良い返事をくれないから、
もしかして他に好きな男でもいるのかなって思ってね」
「…そんなんじゃ……」
真島さんの顔が浮かんで、思わず頬が熱くなった。
私は彼に恋をしているけれど、それを口に出すべきでないことは分かっている。
「…顔に書いてあるよ」
優しい顔でそう指摘されて、罪悪感で一杯になる。
自分は彼の好意にただ甘えて、それを利用しているだけなのではとさえ思った。
「でも俺は諦めが悪いからね。もう後悔したくないんだ」
そっと手を握られるが、私はそれを押し返した。
私は彼にそんなことをしてもらう資格なんてない。
「本当に困ります。私たち、もう終わっているんです」
そう言った時には自宅が見えていて、私は逃げるように車から降りた。
ドアを閉めようと振り返れば、また優しい表情の大橋さんと目が合った。
「また迎えに来るよ」
そう言った彼の言葉を無視して、アパートの階段を駆け上がる。
玄関の扉を見た時、私は自分の体から力が抜けるのが分かった。
そこにはスプレーで直接、大きく殴り書きの文字がある。
"アバズレ"
一体誰がこんなことを…
終わらない悪夢に、身も心も引き裂かれそうだった。