飢えた犬の如く
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言葉の通り、真島さんは暫く事務所に顔を出していなかった。
いない方が仕事が捗るのだが、正直言ってしまうと少し寂しい。
私はため息を一つ吐くと、パソコンの電源を落とした。
外はもうすっかり暗くなっていて、事務所はしんとしていて音がしない。
いつもはここに、うるさいくらいの真島さんが行儀悪く座っているのに。
プレハブ小屋を施錠し、私は帰路に着いた。
神室町を駅に向かって歩きながら、このお店は以前真島さんと来たな、
ここで強引ナンパから助けてもらったな、この道を一緒に歩いたなとか
そんなことばかり考えてしまう。
もうすぐ駅、という所で黒塗りの高級車が目に留まった。
「美琴」
後部座席の窓が静かに空いて、名前を呼ばれる。
その声と姿に、時が止まったような錯覚を覚えた。
「…大橋…さん」
「久しぶりだな」
車の中から笑う彼の顔は以前と同じで、もう4年も前の事なのに
体ごと過去に引き戻されるような気がした。
「家まで送るよ。良ければ乗って」
運転手が降りてきて、後部座席のドアを開けられる。
奥側にずれた大橋さんが私を手招きした。
「…いえ…私は……」
「いいから、乗って」
優しく言われて、私はもう従うしかなかった。
大人しく彼の隣に乗り込めば、革張りのシートが軋む音がする。
「どちらまでお送りしましょうか」
運転手の問いに躊躇いながらも住所を告げた。
車が滑らかに進み始める。
「…あの…どうして……」
「たまたまね、見かけたんだ。
懐かしくて思わず声を掛けてしまった。それだけだよ」
戸惑いを隠せない私に比べて、大橋さんは冷静だった。
私より3つほど年上のこの人は、いつも大人で余裕があって、優しかった。
私はこの人のそういう所に惹かれ、恋をした。もう4年も前の話だ。
社内に流れる空気は重く、会話と言えば当り障りのない世間話だけ。
車は私の混乱を他所にスムーズに車道を進み、あっと言う間に自宅まで進んだ。
アパートが見えて、この場から解放されることに私はただ安堵する。
「ん…あれは、なんだ」
停車した車の窓を覗き込み、大橋さんがポツリと呟いた。
視線の先には私の部屋の扉がある。
街灯に薄っすらと照らされたそこには、派手な色の張り紙が何枚もされていた。
私はハッと息を飲み、次の瞬間には全身が震えた。
「…まさか、まだあんな嫌がらせを?」
眉間に皺を寄せた大橋さんが私を見る。
何も答えることができずに俯くと、膝の上で握りしめた拳を上から握られた。
「ずっと耐えてきたのか?一人で?」
彼に握られた手を振りほどくこともできず、ただ下唇を噛み締める。
こんなところは見られたくなかったと思う。
「…俺に人のことが言えた義理じゃないかも知れない。
4年前、親に言われるがまま君を見捨てた。けれど、こんなのは酷すぎる」
「俺に君を守らせてくれないか」と言われ、思わず顔を上げる。
そこには4年前と同じ、優しい眼差しが待っていた。
どうして今になってと、私は思わずにいられない。
いない方が仕事が捗るのだが、正直言ってしまうと少し寂しい。
私はため息を一つ吐くと、パソコンの電源を落とした。
外はもうすっかり暗くなっていて、事務所はしんとしていて音がしない。
いつもはここに、うるさいくらいの真島さんが行儀悪く座っているのに。
プレハブ小屋を施錠し、私は帰路に着いた。
神室町を駅に向かって歩きながら、このお店は以前真島さんと来たな、
ここで強引ナンパから助けてもらったな、この道を一緒に歩いたなとか
そんなことばかり考えてしまう。
もうすぐ駅、という所で黒塗りの高級車が目に留まった。
「美琴」
後部座席の窓が静かに空いて、名前を呼ばれる。
その声と姿に、時が止まったような錯覚を覚えた。
「…大橋…さん」
「久しぶりだな」
車の中から笑う彼の顔は以前と同じで、もう4年も前の事なのに
体ごと過去に引き戻されるような気がした。
「家まで送るよ。良ければ乗って」
運転手が降りてきて、後部座席のドアを開けられる。
奥側にずれた大橋さんが私を手招きした。
「…いえ…私は……」
「いいから、乗って」
優しく言われて、私はもう従うしかなかった。
大人しく彼の隣に乗り込めば、革張りのシートが軋む音がする。
「どちらまでお送りしましょうか」
運転手の問いに躊躇いながらも住所を告げた。
車が滑らかに進み始める。
「…あの…どうして……」
「たまたまね、見かけたんだ。
懐かしくて思わず声を掛けてしまった。それだけだよ」
戸惑いを隠せない私に比べて、大橋さんは冷静だった。
私より3つほど年上のこの人は、いつも大人で余裕があって、優しかった。
私はこの人のそういう所に惹かれ、恋をした。もう4年も前の話だ。
社内に流れる空気は重く、会話と言えば当り障りのない世間話だけ。
車は私の混乱を他所にスムーズに車道を進み、あっと言う間に自宅まで進んだ。
アパートが見えて、この場から解放されることに私はただ安堵する。
「ん…あれは、なんだ」
停車した車の窓を覗き込み、大橋さんがポツリと呟いた。
視線の先には私の部屋の扉がある。
街灯に薄っすらと照らされたそこには、派手な色の張り紙が何枚もされていた。
私はハッと息を飲み、次の瞬間には全身が震えた。
「…まさか、まだあんな嫌がらせを?」
眉間に皺を寄せた大橋さんが私を見る。
何も答えることができずに俯くと、膝の上で握りしめた拳を上から握られた。
「ずっと耐えてきたのか?一人で?」
彼に握られた手を振りほどくこともできず、ただ下唇を噛み締める。
こんなところは見られたくなかったと思う。
「…俺に人のことが言えた義理じゃないかも知れない。
4年前、親に言われるがまま君を見捨てた。けれど、こんなのは酷すぎる」
「俺に君を守らせてくれないか」と言われ、思わず顔を上げる。
そこには4年前と同じ、優しい眼差しが待っていた。
どうして今になってと、私は思わずにいられない。