事務所で倒れた日、真島さんに送って貰った後、眠るまで彼が側にいてくれたことを覚えている。
目が覚めた時にはもう真島さんはいなくて、テーブルの上に薬とスポーツドリンクが置かれていた。
胸がじんわりと温かくなって、それでいて押し潰されそうに苦しくなる。
どうしてこんなに優しくしてくれるのか、私には分からない。
ただ一つ言えるのは、自分が真島さんを好きになってしまったということだけ。

今日は二日ぶりの出勤だった。
どんな顔で真島さんに会えばいいかなとか、皆に迷惑を掛けてしまったなとか、そんなことを考えてしまって足取りが重くなる。
けれど西公園の男子トイレの扉を開けた時、私を待っていたのは皆の笑顔だった。


「美琴ちゃん！もう体調は良いんすか」


西田さんと数名の従業員が駆け寄ってくる。
口々に私を心配する言葉を掛けてくれ、ちょっと泣きそうになった。


「美琴ちゃんがいないと現場の雰囲気が悪くて。親父はおセンチだし、麦茶はマズいし、待ちきれなかったっすよ！」


「だぁーれがおセンチやってぇ？！」


拡声器のキィーンという音と共に、真島さんの怒声が響く。
どこからともなく現れた真島さんは、西田さんの頭を叩くと「アァン？！」と凄んだ。


「ヒィッ！何でもありません！」


拍子抜けするほどいつも通りの真島建設で、私はホッとする。
あぁ、私はこの場所が堪らなく好きなんだ。


「もう体調はええんか」

「...はい」


私が微笑んでそう言うと「ほな朝礼始めるで」と真島さんが笑った。
今日も真島建設の1日が始まる。