一釘一釘の積み重ね
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美琴が言った住所の先には、こじんまりとしたアパートがあった。
体を支え、鉄製の階段を上がる。
古い作りの階段は、一段一段上がる度に全体を震わせた。
「鍵出しや。開けたるわ」
美琴はポケットから小さなキーホルダーのついた鍵を取り出すと、素直に俺に預けた。
まるで警戒心も何もあったものではないが、恐らく相当体が辛いのだろう。
鍵穴にそれを差し込んで、扉を開けた。
小さな玄関に足を踏み入れ靴を脱ぐ。
美琴が脱ぐのを待って、支えたまま部屋に入った。
そこはとても簡素なワンルームだった。
女の一人暮らしとは思えないほど物が少ない。
辛うじてテレビはあるが、あとは最低限の家電製品とベッドだけ。
まるで病室みたいな部屋に、この女は暮らしている。
「随分と物が少ないな」
美琴をベッドに座らせると、俺はそう呟いた。
「...すぐに引っ越せるように」
静かな部屋で、その小さな囁きを聞き逃すはずもなく、俺はただ美琴の体からコートを脱がした。
「着替えはどこにあるんや。汗掻いたやろ」
「タンスに部屋着が」
指差されたのは、これまたこじんまりとした洋服箪笥だった。
指定された引き出しを開ければ、綺麗に洋服が畳まれている。
けれどびっくりするくらい洋服が少ない。
「わしの方がまだ服持っとるんちゃうか」
「...真島さん、いっつも裸みたいなのに」
そんだけ口が聞けたら大丈夫やなと、着替えを渡す。
けれども美琴の指は、もどかしそうにブラウスのボタンを外していて、見ている方が辛くなるくらいだった。
「何もせぇへんから、貸してみ」
力ない指を退けて、ボタンを一つずつ外していく。
しっかりと顔は横に背けた。理性との戦いでもある。
「シャツ脱いで着替えたら布団入り。
水持ってきたるから、薬も飲めよ」
子供に言うみたいやな、と思う。
台所から水を持って戻れば、美琴はもう着替えて横になっていた。
首に手を添えて少し体を起こしてやり、口に薬を入れてやる。
コップから水を飲ませると、口の端からそれが少し伝って溢れた。
美琴の頬を伝う水がどこか艶かしく、思わず唾を飲んだ。
「真島さん」
「なんや」
名前を呼ばれ、顔を覗き込めば潤んだ瞳と目が合った。
それはアカンやろ、とは口にしない。
「ありがとうございます」
「かまへん。どや、寝れそうか」
「...はい、大丈夫です」
少し寂しそうな顔をされて戸惑った。
甘え下手なのだなと思うと、余計愛しくなる。
「寝るまで側にいたるわ。
せやから、安心して眠り」
頭を撫でてやると美琴はホッとしたように目を瞑る。
そのまま彼女が寝息を立てるまで、俺は側を離れなかった。
この女が堪らなく愛しいのだと、気付かざる負えない。