蛇の道駆け抜けろ
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真島さんの指示によって、張り紙は全て剥がされた。
いたちごっこだと訴えたけれど、真島さんは私が会社を辞めることを了承してくれない。
あの日、真島さんの胸の中で泣いてから数日、私は今も真島建設で働いている。
あんな風に接したことなんて忘れたみたいに、真島さんの態度は以前のまま。
私も、なるべく普通に過ごしている。
けれど嫌がらせは止まないもので、今日は朝から非通知のFAXが鳴り止まなかった。
「暇なやっちゃなー」
次から次へと紙を吐き出す機械を眺め、真島さんが興味なさ気に呟いた。
FAXには私を齧る罵詈雑言が書かれているはずで、内容を見る気になれない。
たぶん明日には、私の実名が入った張り紙が貼られているかも知れない。
「...何も、聞かないんですか」
「そやかて言いたないんやろ。
誰にだって言いたないことの一つや二つあるやろ」
辞めたいと言った理由も、FAXのことも、真島さんは何も聞かなかった。
けれど実名入りの嫌がらせが始まってしまえば、皆からどう思われるか分かっている。
優しく接してくれた人たちから白い目で見られるのは、いつも身が切られる程辛かった。
「どうしても辞めさせてもらえないんですか」
「何べんも言うてるやろ、あかん」
私はもう何も言う気になれず、俯いた。
胃がキリキリと痛んで、目の前がチカチカする。
「美琴」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
真島さんはあの日と同じ優しい顔をしていた。
「訳を言いたないんやったら無理に言わんでええ。
せやけどお前を守る言うたんは嘘やない。
もし美琴がわしを信頼しとるんやったら、気が向いた時に話してくれや」
聞かないって言ったくせに、そう思うのに口に出せなかった。
代わりに今まで誰にも話したことのない身の上話を、ポツリポツリと聞かせてしまう。
この人は人生で初めて、私の心を解してしまった。
「私が小学生の時に、父が人を殺しました」
口に出してしまえば、より一層現実味を帯びて、過去が背中にのし掛かってくる。
それはずっしりと重く、ねっとりと身体中に纏わりついて離れない。
息をするのが、苦しかった。
いたちごっこだと訴えたけれど、真島さんは私が会社を辞めることを了承してくれない。
あの日、真島さんの胸の中で泣いてから数日、私は今も真島建設で働いている。
あんな風に接したことなんて忘れたみたいに、真島さんの態度は以前のまま。
私も、なるべく普通に過ごしている。
けれど嫌がらせは止まないもので、今日は朝から非通知のFAXが鳴り止まなかった。
「暇なやっちゃなー」
次から次へと紙を吐き出す機械を眺め、真島さんが興味なさ気に呟いた。
FAXには私を齧る罵詈雑言が書かれているはずで、内容を見る気になれない。
たぶん明日には、私の実名が入った張り紙が貼られているかも知れない。
「...何も、聞かないんですか」
「そやかて言いたないんやろ。
誰にだって言いたないことの一つや二つあるやろ」
辞めたいと言った理由も、FAXのことも、真島さんは何も聞かなかった。
けれど実名入りの嫌がらせが始まってしまえば、皆からどう思われるか分かっている。
優しく接してくれた人たちから白い目で見られるのは、いつも身が切られる程辛かった。
「どうしても辞めさせてもらえないんですか」
「何べんも言うてるやろ、あかん」
私はもう何も言う気になれず、俯いた。
胃がキリキリと痛んで、目の前がチカチカする。
「美琴」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
真島さんはあの日と同じ優しい顔をしていた。
「訳を言いたないんやったら無理に言わんでええ。
せやけどお前を守る言うたんは嘘やない。
もし美琴がわしを信頼しとるんやったら、気が向いた時に話してくれや」
聞かないって言ったくせに、そう思うのに口に出せなかった。
代わりに今まで誰にも話したことのない身の上話を、ポツリポツリと聞かせてしまう。
この人は人生で初めて、私の心を解してしまった。
「私が小学生の時に、父が人を殺しました」
口に出してしまえば、より一層現実味を帯びて、過去が背中にのし掛かってくる。
それはずっしりと重く、ねっとりと身体中に纏わりついて離れない。
息をするのが、苦しかった。