蛇の道駆け抜けろ
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真島建設で働いてもうすぐ二か月が経とうとしていた。
今までの職歴で言えばこれはかなり長い方で、ちょっぴりヘンテコなところにも慣れてきていたから、私は油断していたんだと思う。
ここならずっと続けられるかも、という淡い期待は連休明けの月曜日の朝、見事に打ち砕かれた。
職場である西公園の前に、人だかりが出来ている。
人混みを掻き分けるように前に進めば、公園の囲い中に張り紙がしてあった。
内容は見なくても分かる。サッと血の気が引いた。
「あ!美琴ちゃん!」
どこからともなく西田さんが駆け寄ってくる。
私は彼と目を合わせることができなくて、俯いた。
「タチの悪い悪戯っすね。親父キレてんだろうな」
西田さんは張り紙を一枚剥がすと、「行きましょう」と声を掛けてくる。
私はそれに答えず、黙って彼の後に続いた。
全身から出る汗が、体を芯から冷やしていく。
建設現場は、悪戯によってどこか浮き足立っていた。
血の気の多い従業員が口々に、「許せねぇ」と漏らしている。
私はフラフラと事務所に入ると、力なく椅子に座った。
言わなくちゃ、と思う。
早く、迷惑をかける前に、自分から言い出さなくてはならない。
「どえらい喧嘩売られたもんやな」
肩で風を切るような仕草で、真島さんが事務所に入ってきた。
手には先程西田さんが剥がしたと思われる紙が握られている。
「誰の仕業なんすかね」
「思い当たる節しかないやろ」
いつものようにドカッとデスクに足を投げ出し、真島さんが椅子に座った。
その側には、困り顔の西田さん。
「でも"人殺しの子"っすよ。"人殺し"なら分かりますけど」
「どっちもあんまり変わらへんやろ。心当たりある奴いないか、きっちり聞いて回れや」
西田さんは短く返事をすると、プレハブを出て行った。
後にはいつも通り、真島さんと私が残される。
「美琴、どないしたんや。今日はえらい静かやな」
「.........あの」
私が顔を上げると、真島さんは弾かれたように立ち上がった。
そのままの勢いで私のデスクに駆けてくる。
「どうしたんや、顔真っ青やないか!」
心配そうに顔を覗き込んだ真島さんは、慌てたように「具合悪いんか」「医者行くか」と矢継ぎ早に聞いてくる。
「どこが悪いんや」と聞かれたところで、その優しい顔がぼやけた。
この人の側で、もう少し働いていたかった。
そう思うと、涙が溢れる。
「辞めさせて...ください」
「なんやて」
「真島建設を...辞めさせて、ください」
溢れ出る涙を堪えることが出来ず、私は両手で顔を覆った。
この会社で困惑しながらも、皆と楽しく働いた日々が脳裏に浮かぶ。
こんなに楽しく働けたこと自体、私には奇跡みたいなことだった。
今までの職歴で言えばこれはかなり長い方で、ちょっぴりヘンテコなところにも慣れてきていたから、私は油断していたんだと思う。
ここならずっと続けられるかも、という淡い期待は連休明けの月曜日の朝、見事に打ち砕かれた。
職場である西公園の前に、人だかりが出来ている。
人混みを掻き分けるように前に進めば、公園の囲い中に張り紙がしてあった。
内容は見なくても分かる。サッと血の気が引いた。
「あ!美琴ちゃん!」
どこからともなく西田さんが駆け寄ってくる。
私は彼と目を合わせることができなくて、俯いた。
「タチの悪い悪戯っすね。親父キレてんだろうな」
西田さんは張り紙を一枚剥がすと、「行きましょう」と声を掛けてくる。
私はそれに答えず、黙って彼の後に続いた。
全身から出る汗が、体を芯から冷やしていく。
建設現場は、悪戯によってどこか浮き足立っていた。
血の気の多い従業員が口々に、「許せねぇ」と漏らしている。
私はフラフラと事務所に入ると、力なく椅子に座った。
言わなくちゃ、と思う。
早く、迷惑をかける前に、自分から言い出さなくてはならない。
「どえらい喧嘩売られたもんやな」
肩で風を切るような仕草で、真島さんが事務所に入ってきた。
手には先程西田さんが剥がしたと思われる紙が握られている。
「誰の仕業なんすかね」
「思い当たる節しかないやろ」
いつものようにドカッとデスクに足を投げ出し、真島さんが椅子に座った。
その側には、困り顔の西田さん。
「でも"人殺しの子"っすよ。"人殺し"なら分かりますけど」
「どっちもあんまり変わらへんやろ。心当たりある奴いないか、きっちり聞いて回れや」
西田さんは短く返事をすると、プレハブを出て行った。
後にはいつも通り、真島さんと私が残される。
「美琴、どないしたんや。今日はえらい静かやな」
「.........あの」
私が顔を上げると、真島さんは弾かれたように立ち上がった。
そのままの勢いで私のデスクに駆けてくる。
「どうしたんや、顔真っ青やないか!」
心配そうに顔を覗き込んだ真島さんは、慌てたように「具合悪いんか」「医者行くか」と矢継ぎ早に聞いてくる。
「どこが悪いんや」と聞かれたところで、その優しい顔がぼやけた。
この人の側で、もう少し働いていたかった。
そう思うと、涙が溢れる。
「辞めさせて...ください」
「なんやて」
「真島建設を...辞めさせて、ください」
溢れ出る涙を堪えることが出来ず、私は両手で顔を覆った。
この会社で困惑しながらも、皆と楽しく働いた日々が脳裏に浮かぶ。
こんなに楽しく働けたこと自体、私には奇跡みたいなことだった。