「恋っすね」

そう呟く西田は、一丁前に腕組みをして顎に手を当てている。
その仕草が釈に触るので、俺は一発蹴りを入れた。

「アイタッ！なんすか！」

「なんすかちゃうわボケ！お前の恋なんかどうでもええ！働かんかい！」


もう一発蹴りを入れると、「俺じゃないっす！美琴ちゃんっすよ！」と西田が叫んだ。
その名前にピクリと眉が動く。


「あ？美琴チャンがどないしたんや」

「いや、今事務所に桐生の叔父貴が来てるんすけど、美琴ちゃん恋してますよ、あれは」

「あぁ？！桐生チャンにとでもいうんか！」


思い切り蹴りを入れると、西田はヒィ！と悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。


「だって叔父貴が来たら顔真っ赤になるんすよ！そわそわしてるし、恋じゃないですか！」


「アアアアン？！」


俺は西田の頭を思い切り叩く。
「アイテッ！」と西田は頭を押さえて丸まった。
なんやっちゅうねん、と思う。
「あないムッツリのスケコマシのどこがええんじゃ！」と西田を蹴るが、こいつは「えぇぇぇ？」と声を上げるだけで話にならない。
全くおもろない、なんやねん皆んなして桐生チャン桐生チャンて。
あのべっぴんの刑事のネェチャンはどないなっとるんや、美琴チャンまで手ェ出そうなんて虫が良すぎるやろ！


俺はイライラを隠さないままプレハブ小屋に向かう。
そこには案の定楽しそうに笑う二人の姿があって、余計怒りに火が付いた。
その後ろで西田が「親父、恋してるんだな」と呟いていたことは、もちろん知らない。