ミレニアムタワーで会いましょう
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またこの時期がやってきた。繁忙期。
毎日クタクタになるまで残業して、今だって昼食を外に食べに行く時間さえ惜しくて。
せめてコーヒーでもと思い、同じビルに入っているコーヒーショップまで足を運んでいた。
あれから真島さんとは一度だけデートした。
結局焼肉だったけれど、東京で一番と言われているお店で。
夜景を見ながら個室で二人きりで食べる牛タンは、最高に美味しかった。
でも今は繁忙期。暫くオアズケ。
「絵梨じゃん」
コーヒーショップを出たところで、同期の青田に声を掛けられた。
見れば手に同じテイクアウト用のカップを持っていて、皆考えることは一緒だなと思った。
「久しぶり。異動してから会ってなかったね」
「そうだな。そっちも忙しいんだろ」
「うん、まぁね」
エレベーターまでの道のりを一緒に歩いていると、青田が突然私の頬を摘まんだ。
「お前、ちょっと丸くなった?」
「げ」
思い当たる節しかない。
真島さんとの焼肉生活のせいだ、絶対。
「そんな、やばい?」
痩せなきゃなとか、でも真島さんに会いたいしな、とかそんなことを考えているうちにエレベーターが到着した音がする。
前も見ずに開いた扉に進もうとするが、青田に腕を引っ張られた。
「あぶねぇって」
耳元でこっそり囁かれて前を見る。
そこには見慣れないスーツ姿の真島さんと、恐らくその組員だと思われる人たちが立っていた。
いつもと違う黒いスーツにワインレッドのワイシャツが映えていてちょっとドキッとした。
「ヤクザだぞ、気を付けろよ」
また耳元で青田が囁く。
うん、知ってる。
「ま……」
名前を呼ぼうとしたのに真島さんはこちらに軽い一瞥をくれると、無視するように行ってしまった。
異様なオーラを放つ黒いスーツの一行に、通行人が道を開ける。
「本当気を付けろよ」
青田に頭をポンと撫でられる。
この男は本当に昔から距離感が近い。
でも付き合いが5年にもなれば慣れたものだ。
それよりもさっきのは何だろう。
真島さんが一人じゃなかったからなのだろうか。
オフィスに着いてからも頭の中はそのことでいっぱいだった。
やっと一日の仕事の目処が立ったのはとっくに終電が出た後。
お昼の一件が災いし、全然身が入らなかったせいに違いない。
自分一人しかいないオフィスを出ると、エレベーターの到着を待った。
ポーン、という音の後で扉が開く。
開いた箱の中には、昼と同じ格好の真島さんが立っていた。
「今日はよぉ会うなぁ。残業か」
「はい」
ヨレヨレの化粧の自分を見られたくなくて俯く。
「わしも、残業」
極道の残業って何だろう、そんなことを考えながらエレベーターに乗った。
「タクシーやろ。乗り場まで送ったる」
「ありがとうございます」
変な空気が漂っていて、あれ、おかしいなと思った。
いつもこの人は飄々としていて、そのちょっと常人とは言えないペースに一方的に巻き込まれる。
それが心地良くなるくらいにはこの人に好意を抱いているのだけれど。
今日はそれがいつもと違って、格好のせいかななんて考えた。
「今日はスーツなんですね」
「本部行くときは着なあかんねん。だるいわ」
タクシー乗り場までの道のりを歩きながら、チラチラと真島さんの姿を見やる。
改めて見るとやっぱりちょっとカッコイイ。
でもやっぱり雰囲気がおかしくて私は戸惑った。
「あの、もしかして…機嫌悪いですか」
私の言葉に真島さんが立ち止まる。
一瞬地雷を踏んだのかと思った。
「昼の兄ちゃんはアレか、ちょっとええ仲なんか」
いつもと違うシリアスな顔。
「ただの同僚ですけど」
「絵梨ちゃんはただの同僚に、あんな体ベタベタ触らすんか」
「え」
真島さんの言葉にちょっと瞬きして考える。
この人、ヤキモチ妬いてるんだ。
そう分かってちょっと嬉しくなった。
「誰にでもあぁいう人なんです。嫌ですか、私が誰かに触られるの」
私はちょっと得意になっていたと思う。
仕事の疲れと浮かれで、思考回路が麻痺していたのかも知れない。
「別にええんちゃう。イケメンやったやろ、あの兄ちゃん」
そう言って真島さんはまた歩き出してしまった。
期待していたリアクションではなくて、それがまた自分で思っていたよりショックだった。
押したら引いていくさざ波みたいに、この人との距離は縮まらない。
もう十分餌付けされたっていうのに。
「私は」
先を歩いて行く背中に声を掛ける。
「私は真島さんに触られたいですよ」
慌てて「どちらかというと」と付け加えた。
顔から火が出そうなくらい熱かった。
真島さんは振り返り、そのまま怖い顔でこちらに向かって歩いてくる。
調子に乗り過ぎたかも知れない。
怒られる、と思った。
けれど真島さんは何も言わない。
代わりに私の腕を取ると、強引にそれを引っ張った。
グン!と引かれた体は、そのまま神室町のビルとビルの隙間に押し込まれた。
ふらついた腰は真島さんの腕に抱き留められ、そのまま強引に唇を奪われる。
それは本当に一瞬の出来事だった。
目を瞑る余裕も、言葉を発する間も与えてくれない。
「絵梨ちゃん、わしに触られるいうんはこういうことやで」
真島さんはそれだけ言って、呆然とする私の腕を再び引いた。
そのまま無言でタクシー乗り場まで。
「今日は、帰り」
トン、と黄色い車体に押し込まれる。
運転手に一万円札を渡し、手動でドアを閉められた。
「お客さん、どちらまで」
「え…あ…はい…えっと」
私がしどろもどろで住所を言う前に真島さんは行ってしまった。
私はただ奪われた唇の感触を思って、家に着くまでの間ぼうっとした。
身体中が痺れるくらいに熱い。
私、完全に恋してる
毎日クタクタになるまで残業して、今だって昼食を外に食べに行く時間さえ惜しくて。
せめてコーヒーでもと思い、同じビルに入っているコーヒーショップまで足を運んでいた。
あれから真島さんとは一度だけデートした。
結局焼肉だったけれど、東京で一番と言われているお店で。
夜景を見ながら個室で二人きりで食べる牛タンは、最高に美味しかった。
でも今は繁忙期。暫くオアズケ。
「絵梨じゃん」
コーヒーショップを出たところで、同期の青田に声を掛けられた。
見れば手に同じテイクアウト用のカップを持っていて、皆考えることは一緒だなと思った。
「久しぶり。異動してから会ってなかったね」
「そうだな。そっちも忙しいんだろ」
「うん、まぁね」
エレベーターまでの道のりを一緒に歩いていると、青田が突然私の頬を摘まんだ。
「お前、ちょっと丸くなった?」
「げ」
思い当たる節しかない。
真島さんとの焼肉生活のせいだ、絶対。
「そんな、やばい?」
痩せなきゃなとか、でも真島さんに会いたいしな、とかそんなことを考えているうちにエレベーターが到着した音がする。
前も見ずに開いた扉に進もうとするが、青田に腕を引っ張られた。
「あぶねぇって」
耳元でこっそり囁かれて前を見る。
そこには見慣れないスーツ姿の真島さんと、恐らくその組員だと思われる人たちが立っていた。
いつもと違う黒いスーツにワインレッドのワイシャツが映えていてちょっとドキッとした。
「ヤクザだぞ、気を付けろよ」
また耳元で青田が囁く。
うん、知ってる。
「ま……」
名前を呼ぼうとしたのに真島さんはこちらに軽い一瞥をくれると、無視するように行ってしまった。
異様なオーラを放つ黒いスーツの一行に、通行人が道を開ける。
「本当気を付けろよ」
青田に頭をポンと撫でられる。
この男は本当に昔から距離感が近い。
でも付き合いが5年にもなれば慣れたものだ。
それよりもさっきのは何だろう。
真島さんが一人じゃなかったからなのだろうか。
オフィスに着いてからも頭の中はそのことでいっぱいだった。
やっと一日の仕事の目処が立ったのはとっくに終電が出た後。
お昼の一件が災いし、全然身が入らなかったせいに違いない。
自分一人しかいないオフィスを出ると、エレベーターの到着を待った。
ポーン、という音の後で扉が開く。
開いた箱の中には、昼と同じ格好の真島さんが立っていた。
「今日はよぉ会うなぁ。残業か」
「はい」
ヨレヨレの化粧の自分を見られたくなくて俯く。
「わしも、残業」
極道の残業って何だろう、そんなことを考えながらエレベーターに乗った。
「タクシーやろ。乗り場まで送ったる」
「ありがとうございます」
変な空気が漂っていて、あれ、おかしいなと思った。
いつもこの人は飄々としていて、そのちょっと常人とは言えないペースに一方的に巻き込まれる。
それが心地良くなるくらいにはこの人に好意を抱いているのだけれど。
今日はそれがいつもと違って、格好のせいかななんて考えた。
「今日はスーツなんですね」
「本部行くときは着なあかんねん。だるいわ」
タクシー乗り場までの道のりを歩きながら、チラチラと真島さんの姿を見やる。
改めて見るとやっぱりちょっとカッコイイ。
でもやっぱり雰囲気がおかしくて私は戸惑った。
「あの、もしかして…機嫌悪いですか」
私の言葉に真島さんが立ち止まる。
一瞬地雷を踏んだのかと思った。
「昼の兄ちゃんはアレか、ちょっとええ仲なんか」
いつもと違うシリアスな顔。
「ただの同僚ですけど」
「絵梨ちゃんはただの同僚に、あんな体ベタベタ触らすんか」
「え」
真島さんの言葉にちょっと瞬きして考える。
この人、ヤキモチ妬いてるんだ。
そう分かってちょっと嬉しくなった。
「誰にでもあぁいう人なんです。嫌ですか、私が誰かに触られるの」
私はちょっと得意になっていたと思う。
仕事の疲れと浮かれで、思考回路が麻痺していたのかも知れない。
「別にええんちゃう。イケメンやったやろ、あの兄ちゃん」
そう言って真島さんはまた歩き出してしまった。
期待していたリアクションではなくて、それがまた自分で思っていたよりショックだった。
押したら引いていくさざ波みたいに、この人との距離は縮まらない。
もう十分餌付けされたっていうのに。
「私は」
先を歩いて行く背中に声を掛ける。
「私は真島さんに触られたいですよ」
慌てて「どちらかというと」と付け加えた。
顔から火が出そうなくらい熱かった。
真島さんは振り返り、そのまま怖い顔でこちらに向かって歩いてくる。
調子に乗り過ぎたかも知れない。
怒られる、と思った。
けれど真島さんは何も言わない。
代わりに私の腕を取ると、強引にそれを引っ張った。
グン!と引かれた体は、そのまま神室町のビルとビルの隙間に押し込まれた。
ふらついた腰は真島さんの腕に抱き留められ、そのまま強引に唇を奪われる。
それは本当に一瞬の出来事だった。
目を瞑る余裕も、言葉を発する間も与えてくれない。
「絵梨ちゃん、わしに触られるいうんはこういうことやで」
真島さんはそれだけ言って、呆然とする私の腕を再び引いた。
そのまま無言でタクシー乗り場まで。
「今日は、帰り」
トン、と黄色い車体に押し込まれる。
運転手に一万円札を渡し、手動でドアを閉められた。
「お客さん、どちらまで」
「え…あ…はい…えっと」
私がしどろもどろで住所を言う前に真島さんは行ってしまった。
私はただ奪われた唇の感触を思って、家に着くまでの間ぼうっとした。
身体中が痺れるくらいに熱い。
私、完全に恋してる