ミレニアムタワーの事務所に着いた後、よく分からないままソファに座らされ、よく分からないマッサージを受けた。

「試してみたいことがあんねん」

と言われてちょっとドキドキしたのに、私を襲ったのは強烈な痛みだった。
お陰で今も足が痛い。
私はそれを引きずるように真島さんと冴島さんの後に続いて歩いた。

急にカラオケに行こうと言われ連れて来られたのは、"ヒロイン"という名前の小さなスナックだった。
失礼だけれど普段だったら絶対に立ち寄らない。

「お久しぶりですね」

昔から顔馴染みなのか真島さんはマスターから歓迎を受けていた。

「キープしてたボトルはもうないですよ。新しいのを是非」

「ほな山崎入れてや」

真島さんは私でも知っている高価なウィスキーをボトルで入れると、早速カラオケのリクエストをし始める。

「マスター、あれや。わしの十八番！」

「はいはい」

聞いたこともないイントロが流れたと思ったら、真島さんはマイクを手にノリノリで歌い始めた。


"すぅなおにアイラヴユ〜！とどけよう！"


「...これ、いつの歌ですか？」

私が顔を見ると「バブルの頃のやろ」と冴島さんが言った。

「バブル...」

"おいでめしませ　お姫さま
　毒のリンゴを食べて眠っちゃいそうな"


「聞いたことありません」

「俺もそんなに詳しないわ」


私たちはママの作ってくれた水割りを飲みながら、ノリノリの真島さんをひたすら眺めた。
この人って本当勝手だな。


「次はアレやアレ！」

「GET TO THE TOPですね」


"愛想笑い　ドタキャン　土下座
　行き交う日常　繰り返しやでぇ！"


狂ったように歌う真島さんを見て、私は少し固まる。
それを見かねた冴島さんが「ちょお付き合えや」と私を外に誘った。


「持ち込みええやろ？ちょお買い出し行ってくるわ」


冴島さんはマスターにそう告げると私の腕を引いた。


「すまんなぁ、なんか」

「いや、冴島さんが謝ることは...」


外に出るなり謝られるが、むしろ冴島さんも被害者みたいなものだと思う。

「のう、子鹿。何べんも聞くけど、お前なんでアレといるんや」

「どうしてでしょう」

私たちはコンビニまで共に歩き出した。