ミレニアムタワーで会いましょう
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携帯を弄りながら、店内の列に並んだ。
ここ連日の残業で体はクタクタだった。
体に悪いとわかっていても、ジャンクなものを食べたくなる。
この後も会社に戻らなければならず、取引先からの途中にあるファストフード店に立ち寄っていた。
私の視界にチラチラと、前に並ぶ男性のパイソン柄のジャケットが映る。
随分派手だなと思ったが、ここは神室町だ。
こういう人がいてもおかしくはない。
あと一人で自分の番だな、と思っていた時だった。
「なんや、スマイルくれへんの?」
自分の目の前に立っている男の人の注文にギョッとする。
様子を伺うように前を見れば、引きつった顔の店員と目があった。
「スマイル0円!スマイルバーガー!とちゃうの?」
確かに笑顔を売りにした戦略ではあるが、本当にこんな注文をする人がいるんだと驚いた。
店員は必死に笑顔を作ろうとするが、引きつった顔はどう頑張ってもスマイルには見えず、終いには顔から血の気がどんどん引いていく。
「ま、ええわ」
「それではこちらにずれてお待ち下さい」という小さな声に従って、パイソンさんは右にずれる。
クレーマーじゃないことに安堵して前に進んだ。
「ダブルスマイルチーズバーガーセットで、ポテトLに変更してください。ドリンクはコーラで」
メニュー表を指差して手早く注文した後で、チラリと横を見た。
無茶な注文をしたのがどんな人なのか、ちょっとだけ興味があったからだ。
けれどすぐに見なければ良かったと思った。
派手なパイソン柄のジャケットの下は素肌で、そこから刺青が覗いていた。
店員が引きつった顔をしていた理由が分かり、今隣に並んでいることに冷や汗を掻いた。
見てはいけないと思うのに気になってしまうのは何故だろう。
臭いものを嗅ぎたくなると同じで、わかっているのに私はまたチラリと隣を見やった。
「おねぇちゃん、細いのによぉ食べるなぁ」
見なければ良かった、とまた思った。
バッチリ視線が合ってしまい、男にそう話しかけられる。
見れば顔に黒い眼帯をしており、反社会勢力の方であることは瞭然だった。
「ははは」
乾いた笑いでやり過ごすと、すぐさま携帯に目を落として商品が出てくるのを待った。
もしかしたら永遠に出てこないのでは?と不安になるほど時間が長く感じる。
「お待たせ致しました」
先に男の注文が揃い、「お先やで」と挨拶される。
ペコリ、と頭を下げると男は店から出て行った。
安心するのと同時に、空気ってこんなに美味しかったっけな?と思った。
息を吸うのを忘れていたらしい。
すぐに私の注文した物も揃い、それを受け取って店を後にした。
会社までの道のりを歩いていると、数歩先に先程の男がいる。
なんか嫌だなと思うけれど、男は全く自分と同じ道のりを歩いていく。
追い越す訳にもいかず、ひたすら後を歩いた。
やっと自分のオフィスが入ったビルが見えて安堵するが、まさかのパイソン男も同じビルの通用口に向かって進んでいくので、思わず「え」と口に出してしまった。
私の声に男が振り帰る。
「なんや、大食いのねぇちゃんやんか」
「ははは」
また乾いた笑い。
でもたぶん今回はやり過ごせない。
「えらい奇遇やなぁ。
自分このビルで働いてんの?」
「はい」
引きつった顔でそう答えると「わしも」と陽気に返された。
そうか、と思った。
以前からこのビルにはヤクザの事務所があると噂されていた。
表向きはそんな風に見えないからただの噂だと思っていたが、そうか本当だったのか。
「もう上がりやないの?」
「いえ、残業で」
必然的に同じエレベーターになった。
真っ直ぐ前を見て視線を合わせないよう意識するが、話しかけられるのでそうもいかない。
「えらいブラックやなぁ。それ、一人で食うんか」
「まぁ、そういうことになるかと」
やっと自分の目的階まで辿り着き、開いた扉に進もうとするが男に進行方向を塞がれた。
「あ」と言った時には"閉まる"のボタンを押されていた。
「わしも一人で晩飯なんや。
お互い一人で食うの寂しいやろ。ちょお付き合うて」
「ははは」
何度目かの乾いた笑いの後に、エレベーターは57階に到着した。
「むさ苦しいとこやけど」
「いえ、とんでもない」
赤を基調とした室内に、高そうな調度品。
むさ苦しいどころか、息苦しかった。
「そこ座ってな」
革張りのソファを指され、素直に従った。
合皮ではないその高級品は、丁度よく体重に合わせて沈む。
目の前にはやたらと大きなテレビと、その上に"真"の文字。
あれが代紋ってやつか、そうかと思った。
「さて、食べよ食べよ」
まさかと思ったが、当たり前のように隣に腰掛けられる。
ソファが二人の体重分沈んだ。
「えらい久しぶりに自分で買うたなぁ。
普段は若いモンに行かせとるから」
男はガサガサと袋を開け、中身を広げる。
私も諦めてそれに従った。
「そや、自分なんて言うん?」
質問に答える前に、首から下げていた社員証を摘まれる。
偽名を使うチャンスは永遠に来ない。
「絵梨ちゃんな。わし、真島」
「まじま、さん」
名前を反芻し、代紋を見上げる。
代紋の"真"と真島が重なった。
「絵梨ちゃん普段からそんな食うん?」
「いえ、たまたまです」
「絵梨ちゃんスマイルバーガーよく行くん?」
「いえ、たまたまです」
弾まない会話に内心焦るが、弾まないものは弾まない。
「さっきまでゾンビ映画観てたんやけど」
「はい?」
「ゾンビ映画観てたらハンバーガー食いたなってん」
「それは...」
「冗談に決まっとるやん」
さすがにちょっと笑ってしまった。
フフ、と笑う私に「スマイル頂き〜」と真島さんが戯けた。
「絵梨ちゃんずっと顔引きつってんねんもん。
わしかて傷つくんやで」
「ごめんなさい。初めてのことすぎて」
ヤクザの人と触れるのも、その事務所に入るのも、そこでご飯を食べるのも、当然初めてのことだった。
「男と飯食うんが?」
「いえ、ヤクザの人と...」
真島さんの冗談に思わず本音が出た。
しまった、と思うけれど真島さんは気にする素振りもない。
「そう、わしヤクザや。怖いか?」
「いえ、もう別に」
それも本音だった。
最初は怖くて仕方なかったが、真島の冗談にすっかり肩の力が抜けてしまった。
不思議な人だなと思う。
「絵梨ちゃん正直やなぁ。
わし、そういう子好きやで」
ヒヒヒ、と真島さんは笑ってハンバーガーを咀嚼する。
「いっつも仕事終わるの遅いんか?」
「今はちょうど繁忙期で。普段はそうでもないですよ。6時には帰れます」
「ふうん。ほな今度、ちゃんとした飯行こか」
「...はい」
ちょっとだけ考えて返事をした。
ちょっと考えてみたけど、別に嫌じゃない。
「さっきの顔可愛かったなぁ」
「え?」
「絵梨ちゃんが笑うてくれた時。またその顔見たなったわ」
可愛いなんて久しぶりに言われて顔が熱くなった。
残業続きでこんなにボロボロの自分なのに。
照れて押し黙る私を横目に、真島さんがテーブルの上のリモコンを手に取った。
電源がついた大型テレビに映し出されたのは、ゾンビ映画。
ちょうどマシンガンでゾンビの体が粉々にされてるシーンだった。
「ちょっと、冗談じゃないじゃないですか!」
私が笑ってそう言うと「スマイル頂きやな」と真島さんも笑った。
ここ連日の残業で体はクタクタだった。
体に悪いとわかっていても、ジャンクなものを食べたくなる。
この後も会社に戻らなければならず、取引先からの途中にあるファストフード店に立ち寄っていた。
私の視界にチラチラと、前に並ぶ男性のパイソン柄のジャケットが映る。
随分派手だなと思ったが、ここは神室町だ。
こういう人がいてもおかしくはない。
あと一人で自分の番だな、と思っていた時だった。
「なんや、スマイルくれへんの?」
自分の目の前に立っている男の人の注文にギョッとする。
様子を伺うように前を見れば、引きつった顔の店員と目があった。
「スマイル0円!スマイルバーガー!とちゃうの?」
確かに笑顔を売りにした戦略ではあるが、本当にこんな注文をする人がいるんだと驚いた。
店員は必死に笑顔を作ろうとするが、引きつった顔はどう頑張ってもスマイルには見えず、終いには顔から血の気がどんどん引いていく。
「ま、ええわ」
「それではこちらにずれてお待ち下さい」という小さな声に従って、パイソンさんは右にずれる。
クレーマーじゃないことに安堵して前に進んだ。
「ダブルスマイルチーズバーガーセットで、ポテトLに変更してください。ドリンクはコーラで」
メニュー表を指差して手早く注文した後で、チラリと横を見た。
無茶な注文をしたのがどんな人なのか、ちょっとだけ興味があったからだ。
けれどすぐに見なければ良かったと思った。
派手なパイソン柄のジャケットの下は素肌で、そこから刺青が覗いていた。
店員が引きつった顔をしていた理由が分かり、今隣に並んでいることに冷や汗を掻いた。
見てはいけないと思うのに気になってしまうのは何故だろう。
臭いものを嗅ぎたくなると同じで、わかっているのに私はまたチラリと隣を見やった。
「おねぇちゃん、細いのによぉ食べるなぁ」
見なければ良かった、とまた思った。
バッチリ視線が合ってしまい、男にそう話しかけられる。
見れば顔に黒い眼帯をしており、反社会勢力の方であることは瞭然だった。
「ははは」
乾いた笑いでやり過ごすと、すぐさま携帯に目を落として商品が出てくるのを待った。
もしかしたら永遠に出てこないのでは?と不安になるほど時間が長く感じる。
「お待たせ致しました」
先に男の注文が揃い、「お先やで」と挨拶される。
ペコリ、と頭を下げると男は店から出て行った。
安心するのと同時に、空気ってこんなに美味しかったっけな?と思った。
息を吸うのを忘れていたらしい。
すぐに私の注文した物も揃い、それを受け取って店を後にした。
会社までの道のりを歩いていると、数歩先に先程の男がいる。
なんか嫌だなと思うけれど、男は全く自分と同じ道のりを歩いていく。
追い越す訳にもいかず、ひたすら後を歩いた。
やっと自分のオフィスが入ったビルが見えて安堵するが、まさかのパイソン男も同じビルの通用口に向かって進んでいくので、思わず「え」と口に出してしまった。
私の声に男が振り帰る。
「なんや、大食いのねぇちゃんやんか」
「ははは」
また乾いた笑い。
でもたぶん今回はやり過ごせない。
「えらい奇遇やなぁ。
自分このビルで働いてんの?」
「はい」
引きつった顔でそう答えると「わしも」と陽気に返された。
そうか、と思った。
以前からこのビルにはヤクザの事務所があると噂されていた。
表向きはそんな風に見えないからただの噂だと思っていたが、そうか本当だったのか。
「もう上がりやないの?」
「いえ、残業で」
必然的に同じエレベーターになった。
真っ直ぐ前を見て視線を合わせないよう意識するが、話しかけられるのでそうもいかない。
「えらいブラックやなぁ。それ、一人で食うんか」
「まぁ、そういうことになるかと」
やっと自分の目的階まで辿り着き、開いた扉に進もうとするが男に進行方向を塞がれた。
「あ」と言った時には"閉まる"のボタンを押されていた。
「わしも一人で晩飯なんや。
お互い一人で食うの寂しいやろ。ちょお付き合うて」
「ははは」
何度目かの乾いた笑いの後に、エレベーターは57階に到着した。
「むさ苦しいとこやけど」
「いえ、とんでもない」
赤を基調とした室内に、高そうな調度品。
むさ苦しいどころか、息苦しかった。
「そこ座ってな」
革張りのソファを指され、素直に従った。
合皮ではないその高級品は、丁度よく体重に合わせて沈む。
目の前にはやたらと大きなテレビと、その上に"真"の文字。
あれが代紋ってやつか、そうかと思った。
「さて、食べよ食べよ」
まさかと思ったが、当たり前のように隣に腰掛けられる。
ソファが二人の体重分沈んだ。
「えらい久しぶりに自分で買うたなぁ。
普段は若いモンに行かせとるから」
男はガサガサと袋を開け、中身を広げる。
私も諦めてそれに従った。
「そや、自分なんて言うん?」
質問に答える前に、首から下げていた社員証を摘まれる。
偽名を使うチャンスは永遠に来ない。
「絵梨ちゃんな。わし、真島」
「まじま、さん」
名前を反芻し、代紋を見上げる。
代紋の"真"と真島が重なった。
「絵梨ちゃん普段からそんな食うん?」
「いえ、たまたまです」
「絵梨ちゃんスマイルバーガーよく行くん?」
「いえ、たまたまです」
弾まない会話に内心焦るが、弾まないものは弾まない。
「さっきまでゾンビ映画観てたんやけど」
「はい?」
「ゾンビ映画観てたらハンバーガー食いたなってん」
「それは...」
「冗談に決まっとるやん」
さすがにちょっと笑ってしまった。
フフ、と笑う私に「スマイル頂き〜」と真島さんが戯けた。
「絵梨ちゃんずっと顔引きつってんねんもん。
わしかて傷つくんやで」
「ごめんなさい。初めてのことすぎて」
ヤクザの人と触れるのも、その事務所に入るのも、そこでご飯を食べるのも、当然初めてのことだった。
「男と飯食うんが?」
「いえ、ヤクザの人と...」
真島さんの冗談に思わず本音が出た。
しまった、と思うけれど真島さんは気にする素振りもない。
「そう、わしヤクザや。怖いか?」
「いえ、もう別に」
それも本音だった。
最初は怖くて仕方なかったが、真島の冗談にすっかり肩の力が抜けてしまった。
不思議な人だなと思う。
「絵梨ちゃん正直やなぁ。
わし、そういう子好きやで」
ヒヒヒ、と真島さんは笑ってハンバーガーを咀嚼する。
「いっつも仕事終わるの遅いんか?」
「今はちょうど繁忙期で。普段はそうでもないですよ。6時には帰れます」
「ふうん。ほな今度、ちゃんとした飯行こか」
「...はい」
ちょっとだけ考えて返事をした。
ちょっと考えてみたけど、別に嫌じゃない。
「さっきの顔可愛かったなぁ」
「え?」
「絵梨ちゃんが笑うてくれた時。またその顔見たなったわ」
可愛いなんて久しぶりに言われて顔が熱くなった。
残業続きでこんなにボロボロの自分なのに。
照れて押し黙る私を横目に、真島さんがテーブルの上のリモコンを手に取った。
電源がついた大型テレビに映し出されたのは、ゾンビ映画。
ちょうどマシンガンでゾンビの体が粉々にされてるシーンだった。
「ちょっと、冗談じゃないじゃないですか!」
私が笑ってそう言うと「スマイル頂きやな」と真島さんも笑った。
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