麒麟
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背中に描かれた鮮やかな麒麟を指でなぞった。
昨夜の情事で汗ばんだ筋肉が艶めかしい。
この人が極道だと知っても尚、嫌いになれないのは何故だろう。
「凪咲」
名前を呼ぶ声さえ愛しく感じ、その背中にそっと抱き着いた。
初めて出会った時のことを凪咲は昨日のことのように思い出す。
「お一人ですか?」
仕事終わり、たまに立ち寄ったBarで一人の男に声を掛けられた。
仕立ての良いスーツに身を包んだその男を値踏みするように凪咲は見る。
長身、筋肉質、薄い唇に高い鼻、色素の薄い目は細いけれどそれがまたセクシーで。
艶やかに撫でつけらえた髪型が清潔感を与えている。
モテそうな人。
「そうです…ね」
つい先月までは隣に「誰か」がいた。
決して一人で飲み歩くような性質ではない。
この店だってその「誰か」に教えてもらっただけだ。
「一杯、如何ですか」
静かな口調で男は言うと「彼女に同じものを」とバーテンダーに言った。
すっと目の前に差し出されたのは一杯のドライマティーニ。
「甘いものはお好きではないかと思って」
言葉の意味も深く理解しないまま「いただきます」と言って一口飲んだ。
辛口のショートカクテルが喉をキュッと絞める。
それから何度かこのBarで男と顔を合わせるようになり、
その度に一杯だけドライマティーニを奢ってもらう関係が続いた。
飲むことを強要されたこともないし、どこか別の場所に誘われたこともない。
不思議な関係だった。
男は「峯」というらしかった。
IT関係の会社を経営しており、普段は多忙を極めているという。
「たまに一人になりたくてここへ」
そう話す男としがないOLの自分では、生きる世界が違うのだと思っていた。
ここでこうして会わなければ関わることのなかった人種だと。
「…以前はよく、男性と来ていましたね」
峯のその唐突な質問に凪咲は何度か瞬きを繰り返した。
「実は以前から良くお見掛けしていたんですよ」
「そう…ですか…」
男の口からプライベートを詮索されたことはなく、戸惑った。
それに凪咲自身、初めて声を掛けられた以前に彼を意識したことはない。
「あなたはいつも甘いカクテルを苦手そうに飲んでいた」
そうだった、と思う。
いつも「誰か」が私の為に頼むカクテルは甘口で。
それがまるで彼の中の女性像を押し付けられているみたいで息苦しかった。
「あの男とは、切れたんですか」
目を細めてこちらを覗き込む顔に、不覚にもドキリとした。
この数か月色っぽい会話なんてしたことがなかったのに、急に核心に迫るような空気に飲まれそうになる。
「凪咲の好みも知らず、自分の理想を押し付けるようなあの男と、切れたのかと聞いているんだよ」
耳元でそう囁かれた後からは、もう覚えていない。
気付けば高級そうなシーツの上で、峯に組み伏せられていた。
糊の効いたシーツのパリッとした感触と、彼の鍛え上げられた筋肉と与えられる快感。
それを体に刻み込まれるだけで精一杯だった。
そしてそれは、今も。
峯とは体だけの関係だった。
愛の言葉を囁かれたこともなければ、デートをしたこともない。
落ち合うようにBarでドライマティーニを飲み、その後ホテルで朝まで過ごすだけ。
彼の背中に彫られた鮮やかな絵に気付かない訳はなかったが、
凪咲はもう峯という沼にすっかり嵌りきっていた。
「私のことをどう思っているんですか」
「こういう女性は他にもいるんですか」
聞きたいことは一度も聞けないまま、凪咲はただ峯からの質問に答えるだけた。
「俺が欲しいか?」
「俺がいないと生きていけないだろう?」
「俺にどうされたい?」
いつも耳元で囁かれる言葉に答えるので背一杯で、自分からは何も、聞けない。
聞いてはいけないのだと思っていた。
「明日、一日オフになった」
バスローブを羽織り、髪の毛も濡れたままの峯がそう言った。
「どこか出かけるか?」
それがデートの誘いだということに気付くまで時間がかかった。
「…デートということですか?」
「改まった言い方をするならば」
「…ルール違反では?」
凪咲の質問に峯が怪訝な顔をする。
改まったルールなど何もなかったが、期待させるようなことをされたら困ると思った。
「甘いものが苦手で、好きな食べ物は韓国料理。趣味は読書。犬を飼っていた」
唐突に自分のプロフフィールを読み上げられ、凪咲は瞬きを繰り返す。
「それから明日は凪咲の誕生日だ」
教えた訳ではなかったのに、知られていたことにただ素直に驚く。
「体だけの関係ならばこんなことは知らなくても構わない」
「…え?」
ベッドに座る凪咲の前に、峯が手をついて迫ってくる。
スプリングの軋む音がした。
「ずっと見ていたと言っただろう。初めてあのBarで凪咲を見た時から、お前が欲しいと考えていた」
「それくらい分かれ」と迫られて「そんなの分かりませんよ」と答えた。
「なら体で教えてやろう」
ニヤリと笑った峯の顔がセクシー過ぎて、流されるように快楽に溺れた。
けれど今日だけは、自分の聞きたいことが聞けそうだと思う。
「私が欲しい?」
「凪咲が欲しい」
「私がいないと…生きていけない?」
「凪咲がいないと生きていけない」
耳元で囁かれて全身が痺れた。
「もう俺は凪咲だけのものだ」
もう質問なんかしていないのに、と思った。
ーーーーードライマティーニ
昨夜の情事で汗ばんだ筋肉が艶めかしい。
この人が極道だと知っても尚、嫌いになれないのは何故だろう。
「凪咲」
名前を呼ぶ声さえ愛しく感じ、その背中にそっと抱き着いた。
初めて出会った時のことを凪咲は昨日のことのように思い出す。
「お一人ですか?」
仕事終わり、たまに立ち寄ったBarで一人の男に声を掛けられた。
仕立ての良いスーツに身を包んだその男を値踏みするように凪咲は見る。
長身、筋肉質、薄い唇に高い鼻、色素の薄い目は細いけれどそれがまたセクシーで。
艶やかに撫でつけらえた髪型が清潔感を与えている。
モテそうな人。
「そうです…ね」
つい先月までは隣に「誰か」がいた。
決して一人で飲み歩くような性質ではない。
この店だってその「誰か」に教えてもらっただけだ。
「一杯、如何ですか」
静かな口調で男は言うと「彼女に同じものを」とバーテンダーに言った。
すっと目の前に差し出されたのは一杯のドライマティーニ。
「甘いものはお好きではないかと思って」
言葉の意味も深く理解しないまま「いただきます」と言って一口飲んだ。
辛口のショートカクテルが喉をキュッと絞める。
それから何度かこのBarで男と顔を合わせるようになり、
その度に一杯だけドライマティーニを奢ってもらう関係が続いた。
飲むことを強要されたこともないし、どこか別の場所に誘われたこともない。
不思議な関係だった。
男は「峯」というらしかった。
IT関係の会社を経営しており、普段は多忙を極めているという。
「たまに一人になりたくてここへ」
そう話す男としがないOLの自分では、生きる世界が違うのだと思っていた。
ここでこうして会わなければ関わることのなかった人種だと。
「…以前はよく、男性と来ていましたね」
峯のその唐突な質問に凪咲は何度か瞬きを繰り返した。
「実は以前から良くお見掛けしていたんですよ」
「そう…ですか…」
男の口からプライベートを詮索されたことはなく、戸惑った。
それに凪咲自身、初めて声を掛けられた以前に彼を意識したことはない。
「あなたはいつも甘いカクテルを苦手そうに飲んでいた」
そうだった、と思う。
いつも「誰か」が私の為に頼むカクテルは甘口で。
それがまるで彼の中の女性像を押し付けられているみたいで息苦しかった。
「あの男とは、切れたんですか」
目を細めてこちらを覗き込む顔に、不覚にもドキリとした。
この数か月色っぽい会話なんてしたことがなかったのに、急に核心に迫るような空気に飲まれそうになる。
「凪咲の好みも知らず、自分の理想を押し付けるようなあの男と、切れたのかと聞いているんだよ」
耳元でそう囁かれた後からは、もう覚えていない。
気付けば高級そうなシーツの上で、峯に組み伏せられていた。
糊の効いたシーツのパリッとした感触と、彼の鍛え上げられた筋肉と与えられる快感。
それを体に刻み込まれるだけで精一杯だった。
そしてそれは、今も。
峯とは体だけの関係だった。
愛の言葉を囁かれたこともなければ、デートをしたこともない。
落ち合うようにBarでドライマティーニを飲み、その後ホテルで朝まで過ごすだけ。
彼の背中に彫られた鮮やかな絵に気付かない訳はなかったが、
凪咲はもう峯という沼にすっかり嵌りきっていた。
「私のことをどう思っているんですか」
「こういう女性は他にもいるんですか」
聞きたいことは一度も聞けないまま、凪咲はただ峯からの質問に答えるだけた。
「俺が欲しいか?」
「俺がいないと生きていけないだろう?」
「俺にどうされたい?」
いつも耳元で囁かれる言葉に答えるので背一杯で、自分からは何も、聞けない。
聞いてはいけないのだと思っていた。
「明日、一日オフになった」
バスローブを羽織り、髪の毛も濡れたままの峯がそう言った。
「どこか出かけるか?」
それがデートの誘いだということに気付くまで時間がかかった。
「…デートということですか?」
「改まった言い方をするならば」
「…ルール違反では?」
凪咲の質問に峯が怪訝な顔をする。
改まったルールなど何もなかったが、期待させるようなことをされたら困ると思った。
「甘いものが苦手で、好きな食べ物は韓国料理。趣味は読書。犬を飼っていた」
唐突に自分のプロフフィールを読み上げられ、凪咲は瞬きを繰り返す。
「それから明日は凪咲の誕生日だ」
教えた訳ではなかったのに、知られていたことにただ素直に驚く。
「体だけの関係ならばこんなことは知らなくても構わない」
「…え?」
ベッドに座る凪咲の前に、峯が手をついて迫ってくる。
スプリングの軋む音がした。
「ずっと見ていたと言っただろう。初めてあのBarで凪咲を見た時から、お前が欲しいと考えていた」
「それくらい分かれ」と迫られて「そんなの分かりませんよ」と答えた。
「なら体で教えてやろう」
ニヤリと笑った峯の顔がセクシー過ぎて、流されるように快楽に溺れた。
けれど今日だけは、自分の聞きたいことが聞けそうだと思う。
「私が欲しい?」
「凪咲が欲しい」
「私がいないと…生きていけない?」
「凪咲がいないと生きていけない」
耳元で囁かれて全身が痺れた。
「もう俺は凪咲だけのものだ」
もう質問なんかしていないのに、と思った。
ーーーーードライマティーニ