虎と笹
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「大丈夫か?」
「ちょっと飲み過ぎました...
だいじょーぶじゃないです」
蹲って膝を抱える私の背中を、大きな手が優しく摩る。
「アカンか。スッキリするまでそうしといたらええ」
ポンポンと優しく肩甲骨の辺りを撫でられ、涙が溢れた。
頑張って隠したつもりだったけれど、上手くいかなかったみたい。
居酒屋の店先で泣きじゃくる私の肩に、冴島さんが自分のコートを掛けてくれる。
大きなフライトジャケットは、彼の温もりを纏って温かい。
「...すみません」
「もう冬やなぁ」
私の隣、コンクリートの地べたに直接腰を下ろした冴島さんが、タバコに火を付ける。
長丁場になりそうだと踏んでいるのかも知れなかった。
「深雪、このまま抜けよか」
「...へ...」
ぐしゅぐしゅと鼻を啜る私の頭を、大きな手がわしわしと撫でる。
「今日はもう泣き止まへんやろ。
俺ももう帰ろうと思てたとこや」
冷たくなった私の手を引くと、冴島さんは立ち上がった。
それに釣られて私も立ち上がる。
手を繋いだまま、歩き出す彼に従った。
肩には大きなコートがかかったままで、それを彼に返すことも、自分たちが放り出した宴の席を気にする余裕もない。
「だからやめとけ言うたやろ。
アレはな、ヤクザの中でも特に普通やないぞ」
「...ん」
口を開くと子供みたいにしゃくり上げそうで、私はただ頷く。
冴島さんに何度も忠告されたのに、あのヘンテコな大人を好きになったのは自分だ。
いつも飄々としていて、掴みどころがない。
情緒不安定にも見える言動に振り回されて、溺れた。
それも一方的に。
「深雪、家はどこやった?
タクシー捕まえたろか」
「まっ...かえ...」
「ん?なんやて?」
聞き取りにくい私の言葉に耳を傾けようと、冴島さんが体を丸める。
「まだっ...かえりた...くな...いです...」
彼の耳元でそうしゃくり上げると、困ったように頭を掻いているのが分かった。
でも帰りたくない。
今暗い部屋に一人で帰ったら、もう二度と立ち直れない気さえしてくる。
「もう一軒行こうにもその顔はアカンやろ」
「すみ..ません...やっ..やっぱり...かえり...」
やっぱり帰ります、と言い切る前に冴島さんがタクシーを止めた。
このままこれに乗って一人で帰るんだなと思ったのに、冴島さんは私をタクシーに押し込んだ後で自分も乗った。
左側に車体が少し傾く。
ドアが閉まる前に彼が言った住所に聞き覚えがなくて、私は思わず顔を見つめた。
「その顔で外歩かせる訳にいかんやろ」
それは何も答えになっていないけれど、なんとなく冴島さんの家に行くんだな、ということは想像できた。
でもこの人は弱った女の心の隙に付け込む、なんてことは絶対しないだろうし、きっと朝まで私の泣き言を聞いてくれるんだろう。
冴島さんを好きになれば良かったな。
心が弱っているからこの人の優しさが心に染みて、いっそ付け込んでくれてもいいのになんて、そんなずるいことを考えた。
「俺は弱ってる女に手出すほど落ちぶれてへんからな」
エスパーなんですか?と聞きたいくらい、ピシャリと先手を打たれる。
「うんと飲んで泣いて、はよ元気になれ」
左手をギュッと握られ、ちょっと心もキュッとなる。
「元気になるまで付き合うたるから、兄弟のこと忘れたらすぐ言えよ」
元気になった後はどうするんですか?
聞きたいのにさっきから横隔膜が痙攣していて、言葉にならない。
思えばずっとこの人は優しかった。
私にだけ優しい訳じゃないから、それを当たり前みたいに感じていたけれど、思い返せばサインはいくつも出ていた気がする。
「深雪が元気になったら、その後はもう遠慮する気ないで」
この人は本当にエスパーかも。
私が悲しい時はいつも側にいて、気付いたら一人で泣いた記憶はあまりない。
いつも私の気持ちを何も言わなくても理解してくれる。
それはつまり、それだけ私を見てくれているということ。
その超能力で、私の心を盗み出してくれないかな。
私、冴島さんのこと好きになれるかな、なりたいな。
「はよ俺に惚れろや」
...やっぱり、エスパーなんですね。
気付いたら涙はちょっと収まっていた。
「ちょっと飲み過ぎました...
だいじょーぶじゃないです」
蹲って膝を抱える私の背中を、大きな手が優しく摩る。
「アカンか。スッキリするまでそうしといたらええ」
ポンポンと優しく肩甲骨の辺りを撫でられ、涙が溢れた。
頑張って隠したつもりだったけれど、上手くいかなかったみたい。
居酒屋の店先で泣きじゃくる私の肩に、冴島さんが自分のコートを掛けてくれる。
大きなフライトジャケットは、彼の温もりを纏って温かい。
「...すみません」
「もう冬やなぁ」
私の隣、コンクリートの地べたに直接腰を下ろした冴島さんが、タバコに火を付ける。
長丁場になりそうだと踏んでいるのかも知れなかった。
「深雪、このまま抜けよか」
「...へ...」
ぐしゅぐしゅと鼻を啜る私の頭を、大きな手がわしわしと撫でる。
「今日はもう泣き止まへんやろ。
俺ももう帰ろうと思てたとこや」
冷たくなった私の手を引くと、冴島さんは立ち上がった。
それに釣られて私も立ち上がる。
手を繋いだまま、歩き出す彼に従った。
肩には大きなコートがかかったままで、それを彼に返すことも、自分たちが放り出した宴の席を気にする余裕もない。
「だからやめとけ言うたやろ。
アレはな、ヤクザの中でも特に普通やないぞ」
「...ん」
口を開くと子供みたいにしゃくり上げそうで、私はただ頷く。
冴島さんに何度も忠告されたのに、あのヘンテコな大人を好きになったのは自分だ。
いつも飄々としていて、掴みどころがない。
情緒不安定にも見える言動に振り回されて、溺れた。
それも一方的に。
「深雪、家はどこやった?
タクシー捕まえたろか」
「まっ...かえ...」
「ん?なんやて?」
聞き取りにくい私の言葉に耳を傾けようと、冴島さんが体を丸める。
「まだっ...かえりた...くな...いです...」
彼の耳元でそうしゃくり上げると、困ったように頭を掻いているのが分かった。
でも帰りたくない。
今暗い部屋に一人で帰ったら、もう二度と立ち直れない気さえしてくる。
「もう一軒行こうにもその顔はアカンやろ」
「すみ..ません...やっ..やっぱり...かえり...」
やっぱり帰ります、と言い切る前に冴島さんがタクシーを止めた。
このままこれに乗って一人で帰るんだなと思ったのに、冴島さんは私をタクシーに押し込んだ後で自分も乗った。
左側に車体が少し傾く。
ドアが閉まる前に彼が言った住所に聞き覚えがなくて、私は思わず顔を見つめた。
「その顔で外歩かせる訳にいかんやろ」
それは何も答えになっていないけれど、なんとなく冴島さんの家に行くんだな、ということは想像できた。
でもこの人は弱った女の心の隙に付け込む、なんてことは絶対しないだろうし、きっと朝まで私の泣き言を聞いてくれるんだろう。
冴島さんを好きになれば良かったな。
心が弱っているからこの人の優しさが心に染みて、いっそ付け込んでくれてもいいのになんて、そんなずるいことを考えた。
「俺は弱ってる女に手出すほど落ちぶれてへんからな」
エスパーなんですか?と聞きたいくらい、ピシャリと先手を打たれる。
「うんと飲んで泣いて、はよ元気になれ」
左手をギュッと握られ、ちょっと心もキュッとなる。
「元気になるまで付き合うたるから、兄弟のこと忘れたらすぐ言えよ」
元気になった後はどうするんですか?
聞きたいのにさっきから横隔膜が痙攣していて、言葉にならない。
思えばずっとこの人は優しかった。
私にだけ優しい訳じゃないから、それを当たり前みたいに感じていたけれど、思い返せばサインはいくつも出ていた気がする。
「深雪が元気になったら、その後はもう遠慮する気ないで」
この人は本当にエスパーかも。
私が悲しい時はいつも側にいて、気付いたら一人で泣いた記憶はあまりない。
いつも私の気持ちを何も言わなくても理解してくれる。
それはつまり、それだけ私を見てくれているということ。
その超能力で、私の心を盗み出してくれないかな。
私、冴島さんのこと好きになれるかな、なりたいな。
「はよ俺に惚れろや」
...やっぱり、エスパーなんですね。
気付いたら涙はちょっと収まっていた。
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