夜の帝王
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事務所のドアをノックする。
「おう、入れや」
「支配人、お呼びですか?」
定期的な面談、というやつだろう。
応接間のソファに腰かけた真島吾朗が、向かいのソファを顎で指す。
「座ってや」
「はあい」
間延びした返事をして、それに従う。
蒼天堀にあるキャバレー「GRAND」は大型店だ。
老舗なだけあって設備も演出も古く、少し前までは赤字を垂れ流していたという。
それがどっこい。
若き片目の侍が、この店をあっという間に立て直してしまった。
オールバックにした前髪から伸びる髪の毛をポニーテールにし、
黒い眼帯を巻いたこの男を大阪の人は「夜の帝王」と呼んだ。
もう少しちゃんとすればかっこええのに
支配人を見るたびいつもそう思う。
半分しか見えないけれど色素の薄い目はエキゾチックだし、
身長も高くて筋肉質だ。
タキシードを着こなす姿は様になっていて、彼がフロアに出てくると空気が変わる。
けれど青白い不健康そうな顔にはいつも隈ができていて、
「仕事以外興味なし」と全身に書いてあるような気がした。
「おい、美沙希聞いとんのか」
名前を呼ばれハッと我に返った。
いけない、今は面談中だったんだ!と思う。
「すいません、聞いてませんでした」
「はぁ…」
盛大にため息をつかれ、ちょっと傷つく。
だって見とれてたんだもの、とは言えない。
「なんか悩んでんのか」
面倒くさそうに聞かれ口ごもる。
何十人といるホステスとこうして定期的に面談を繰り返すのは重労働に違いない。
けれど不満や愚痴を聞いてくれ、それを解消してくれる。
それだけで私たちのやる気は上がるし、さすが夜の帝王!と言いたくなる手腕だった。
「なんか言いたいことあんのやったら言うてみい」
「…支配人てどんな人がタイプなんですか?」
思わず口から滑り出た言葉に、自分自身で驚いた。
「はぁ?」
明らかに呆れかえった顔をされて、また傷つく。
そんな顔せんでもええやん。
「…だって気になって仕事手に付かへん」
潮らしく下唇を噛んでみるが、この男にそんな手は通用しないことくらい分かっている。
「俺を口説くんやなくて、客を口説け」
当たり前の説教をされてしゅんとなる。
これは演技ではなくて、本当の顔だ。
「ホステスは店の大事な商品や。
商品に手付けるんは俺の流儀に反する」
まるで言い慣れた言葉だなと思った。
この人に惚れてこんな風に断られた女の子は何人くらいいるんだろう。
「ほんなら、お店辞めたら相手してくれます?」
「…アホ抜かせ」
…ちょっと効いてる?
軽い脅しのつもりだったのに、支配人の目が左右に揺れて少し嬉しくなる。
「うち、支配人が女として見てくれんねやったら店辞める」
「それはあかん。というか辞めても変わらん」
少しは効いたと思ったのに、さらっと交わされてしまった。
まさに「暖簾に腕押し」「馬の耳に念仏」やな。
「客でもっとええ男おるやろ。話ないんやったら終わりにするで」
自分で呼び出した癖にと思うけれど、これ以上食い下がっても仕方ない。
「ほんならフロア戻りますね」
大人しく立ち上がって扉へと向かった。
だけどちょっと悔しくなって、少しくらい意識させてやろうと振り返る。
「支配人」
「なんや」
こっちも見ずに返事するもんだからちくしょうと思った。
そういう態度ならこっちも本気を出してやる。
「こないだお客さんに絡まれた時、私の代わりに殴られてくれたでしょう」
「そんなん多すぎて忘れたわ」
ちくしょうちくしょう
「私がお客さんに乳揉まれた時も、すぐに飛んできてくれはった」
「当たり前やろ」
「…他にも数え切れないくらい、助けてくれてはる。
その他大勢のホステスと一緒やって、わかってます。
せやけどほんまにうち、支配人のこと好きなんです」
「…お、おう」
やっと目が合った。
ちょっと照れているのか、支配人の目がまた左右に泳いでいる。
「うち、まだシたことないんです。
初めては支配人がええってずっと思ってるから」
「…な…なんやて?」
大成功、と思った。
こんな水商売の、それも擦れて見えるホステスが処女なわけないって思ってたんやろ。
心の中で舌を出した。
「初めては支配人がええんです。
いつかうちの初めて、もらってくださいね。
そういう目ぇで、うちのことこれから見てください」
「お…おい、美沙希」
名前を呼ばれてももう振り向かない。
いつか絶対あんたに抱かれてやんねん。
恋愛は勝ち負けやないけど、大阪の女は負けず嫌いなんやで。
それから数か月後の間、私と目が合う度にドギマギした態度の支配人が可笑しかった。
とりあえずは一旦、この勝負
うちの勝ちってことでええですか、支配人。
ーーーーー負けず嫌い
「おう、入れや」
「支配人、お呼びですか?」
定期的な面談、というやつだろう。
応接間のソファに腰かけた真島吾朗が、向かいのソファを顎で指す。
「座ってや」
「はあい」
間延びした返事をして、それに従う。
蒼天堀にあるキャバレー「GRAND」は大型店だ。
老舗なだけあって設備も演出も古く、少し前までは赤字を垂れ流していたという。
それがどっこい。
若き片目の侍が、この店をあっという間に立て直してしまった。
オールバックにした前髪から伸びる髪の毛をポニーテールにし、
黒い眼帯を巻いたこの男を大阪の人は「夜の帝王」と呼んだ。
もう少しちゃんとすればかっこええのに
支配人を見るたびいつもそう思う。
半分しか見えないけれど色素の薄い目はエキゾチックだし、
身長も高くて筋肉質だ。
タキシードを着こなす姿は様になっていて、彼がフロアに出てくると空気が変わる。
けれど青白い不健康そうな顔にはいつも隈ができていて、
「仕事以外興味なし」と全身に書いてあるような気がした。
「おい、美沙希聞いとんのか」
名前を呼ばれハッと我に返った。
いけない、今は面談中だったんだ!と思う。
「すいません、聞いてませんでした」
「はぁ…」
盛大にため息をつかれ、ちょっと傷つく。
だって見とれてたんだもの、とは言えない。
「なんか悩んでんのか」
面倒くさそうに聞かれ口ごもる。
何十人といるホステスとこうして定期的に面談を繰り返すのは重労働に違いない。
けれど不満や愚痴を聞いてくれ、それを解消してくれる。
それだけで私たちのやる気は上がるし、さすが夜の帝王!と言いたくなる手腕だった。
「なんか言いたいことあんのやったら言うてみい」
「…支配人てどんな人がタイプなんですか?」
思わず口から滑り出た言葉に、自分自身で驚いた。
「はぁ?」
明らかに呆れかえった顔をされて、また傷つく。
そんな顔せんでもええやん。
「…だって気になって仕事手に付かへん」
潮らしく下唇を噛んでみるが、この男にそんな手は通用しないことくらい分かっている。
「俺を口説くんやなくて、客を口説け」
当たり前の説教をされてしゅんとなる。
これは演技ではなくて、本当の顔だ。
「ホステスは店の大事な商品や。
商品に手付けるんは俺の流儀に反する」
まるで言い慣れた言葉だなと思った。
この人に惚れてこんな風に断られた女の子は何人くらいいるんだろう。
「ほんなら、お店辞めたら相手してくれます?」
「…アホ抜かせ」
…ちょっと効いてる?
軽い脅しのつもりだったのに、支配人の目が左右に揺れて少し嬉しくなる。
「うち、支配人が女として見てくれんねやったら店辞める」
「それはあかん。というか辞めても変わらん」
少しは効いたと思ったのに、さらっと交わされてしまった。
まさに「暖簾に腕押し」「馬の耳に念仏」やな。
「客でもっとええ男おるやろ。話ないんやったら終わりにするで」
自分で呼び出した癖にと思うけれど、これ以上食い下がっても仕方ない。
「ほんならフロア戻りますね」
大人しく立ち上がって扉へと向かった。
だけどちょっと悔しくなって、少しくらい意識させてやろうと振り返る。
「支配人」
「なんや」
こっちも見ずに返事するもんだからちくしょうと思った。
そういう態度ならこっちも本気を出してやる。
「こないだお客さんに絡まれた時、私の代わりに殴られてくれたでしょう」
「そんなん多すぎて忘れたわ」
ちくしょうちくしょう
「私がお客さんに乳揉まれた時も、すぐに飛んできてくれはった」
「当たり前やろ」
「…他にも数え切れないくらい、助けてくれてはる。
その他大勢のホステスと一緒やって、わかってます。
せやけどほんまにうち、支配人のこと好きなんです」
「…お、おう」
やっと目が合った。
ちょっと照れているのか、支配人の目がまた左右に泳いでいる。
「うち、まだシたことないんです。
初めては支配人がええってずっと思ってるから」
「…な…なんやて?」
大成功、と思った。
こんな水商売の、それも擦れて見えるホステスが処女なわけないって思ってたんやろ。
心の中で舌を出した。
「初めては支配人がええんです。
いつかうちの初めて、もらってくださいね。
そういう目ぇで、うちのことこれから見てください」
「お…おい、美沙希」
名前を呼ばれてももう振り向かない。
いつか絶対あんたに抱かれてやんねん。
恋愛は勝ち負けやないけど、大阪の女は負けず嫌いなんやで。
それから数か月後の間、私と目が合う度にドギマギした態度の支配人が可笑しかった。
とりあえずは一旦、この勝負
うちの勝ちってことでええですか、支配人。
ーーーーー負けず嫌い
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