「わかった」



明菜は短くそう答えると、逃げ出すように去っていった。



「もーびっくりした。何あの子、妹？」



目の前の女が小首を傾げる。

深夜クラブでナンパした時は可愛いかと思ったけど、今改めて見るとそーでもない。



「まーそんなとこ」



「続きしよ」


そう言って首に絡まる腕を解く。
「ごめんねー、萎えちゃった。帰ってくんない？」と突き放した。



「は？何それ？」


怒りを露わにする女に、舌打ちして見せる。


「ここどこかわかってるー『慶錦飯店』の中だよ。そんなにヤリたいんなら、他にいくらでも男呼んであげるよ。
　俺よりゴツいの死ぬほどいるから」


趙の言葉に、女が慌てて服を纏い出ていった。
一人残されると、横になり大きなため息を吐いた。


こうなるとわかって、自分で女をここに連れ込んだのだ。
けれど実際に明菜の傷ついたあの顔を見ると、胸が締め付けられた。



「...泣いちゃってるよねぇ」



今頃、道端で明菜が泣いているに違いないと少しソワソワする。



昔から明菜の涙に趙は弱い。
でもこうでもしないと、あの子は自分への思いを断ち切れないだろう。



いや、断ち切れないのは俺自身か。






自分の弱さに自嘲し、目を瞑る。
一人で眠るベッドはこんなに広かっただろうか。
そんなことを考えながら、ウトウトと眠りに落ちていった。
朝方まで飲んだ酒が体に重く残っている。