My everything 0.5
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「天佑?いるの?」
明菜は登りなれた階段を駆け上がる。
昨日の夜急に映画が観たいとメールしてきたから、早起きして借りてきたのにずっと趙と連絡がつかない。
10年前のあの日、趙に「いつでも好きな時にきていいよ」と言われてから、明菜は本当にそうするようになっていた。
朝でも夜でも天佑は部屋に入ることを許してくれたし、「俺がルール」と言った通り、誰にも咎められなかった。
唯一心配したのは母だけだったが、そんな母が数年前に他界してしまうと自分の居場所は本当にここしかないようにさえ思える。
部屋の前まで来ると物音と話し声が聞こえてきた。
人の気配を感じて明菜は声を掛ける。
「天佑?誰か来てるの?」
いつものようにノックするわけでもなくドアを開ける。
「あっ...やっ...あぁん...」
目の前に広がる光景に言葉を失った。
幾度となく自分も眠った趙の広いベッドで、彼が女と絡み合っている。
説明されなくても何をしているかわかった。
「きゃっ、やだー、だれー?」
明菜に気付いた女は布団で体を隠し、自分に覆いかぶさる趙を揺すってこちらを指刺した。
「あー、明菜じゃん。ちょっとごめんね、今取り込み中なの」
悪びれるでもなく趙にそう言われ、明菜は「わかった」と踵を返した。
趙に女がいることは薄々気付いていた。
それも複数。
時折朝帰りしては毎回違う香水の香りを纏わせ、明菜が先に眠るベッドに潜り込んでくる。
酒とタバコと移り香の匂いがする趙は嫌いだった。
けれどそれ以上に彼が恋しくて、毎日のように部屋で帰りを待った。
時々まっすぐ帰って来た時だけ感じる趙の匂いが、明菜を安心させてくれる。
けれどこんなことは初めてだった。
趙があの部屋に女を連れ込んだことはない。
だからずっとここだけは自分の居場所なんだと鷹を括っていたのだ。
逃げ出すように慶錦飯店を飛び出した後から、あの光景が離れない。
涙が次々と溢れ、歩きながら嗚咽を漏らした。
趙が自分のことを妹としか見ていないことは理解しているつもりでいた。
けれど恋心は淡い期待を抱かせるもので、いつかはこちらを見てくれるに違いないと勘違いしていたのかも知れない。
実際兄と呼ぶことを止め、名前で呼ぶようになっても趙の態度は変わらなかったのだ。
「も...やだぁ...」
趙によって色を取り戻した世界が、今度は彼によってまた閉ざされた気がした。
またこの町に居場所がなくなったら、どうすれば良いというのか。