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カランカラン
来客を知らせる音に春日は振り向いた。
見れば昨日とデジャヴ。
女がそこに立っていた。
「よぉ!明菜ちゃん...だっけ?」
春日が右手を上げ声をかけると明菜がペコリと頭を下げる。
「趙だろ?生憎今は俺以外全員出払ってんだ。
何か飲んで待ってりゃいい」
昨日と違う申し訳なさそうな顔で女が春日の横に座った。
「あの...春日さん?ですよね。昨日は挨拶も無しに、ごめんなさい」
気の強い女とばかり思っていたから、その言葉に春日は目を丸くする。
「あぁ、いや、んなこたぁ気にすんなよ。
それにしても随分昨日と印象違うなぁ」
そう言って苦笑した。
趙の横っ面を引っ叩いた女と同一人物とは思えない。
「母が礼儀には厳しかったので。それに...あぁなるのは趙の前でだけです」
節目がちにそう答えた彼女はまるで小さな子供のように見えた。
昨日は随分大人びて見えたが、思ったよりも若いのかも知れない。
「趙の前でだけかぁ...そりゃまた随分素直じゃないんじゃねぇの?」
春日の言葉に明菜の頬が赤く染まる。
また野暮なこと聞いちまったか?
内心自問しながら、趙の側にいるには随分初心な女だなと思う。
「趙は...強い女が好きだから。あの人みたいな」
そう言って女は悲しそうな顔を浮かべた。
まるで飼い主に叱られた子犬のようだ。
「あの人?」
「コミジュルの総帥。ソンヒさんです」
ソンヒかぁ...
そう言われれば確かに納得する。
昨日見た明菜は確かにソンヒのような雰囲気を纏っていた。
それに趙は彼女を随分買っているように見える。
「いやぁ、わかんねぇけど。あれは恋とかそう言うのとは違うんじゃねぇの?
なんつーかさ、組織を引っ張るもの同士分かり合うとこがある、みてーな」
俺はそっち方面随分疎いらしぃから。
そう付け加えて春日は笑った。
「流氓の総帥になって趙の口からソンヒさんの名前を聞くことが増えました。
あの子はすごいよ、いい女だよっていつも褒めちぎるんです。
でもその顔はいつも寂しそうで...叶わない恋をしてるんだなってずっとそう思ってました」
悲しそうな顔で寂しく笑う明菜の瞳が、春日を捉えた。
思わずドキリとする。
間近で顔を見れば見るほどべっぴんだ。
「いやぁ...ん?でもなんで明菜ちゃんがソンヒとの繋がりを知ってるんだ?
組織のNo.2だった馬淵ですら知らない情報だろ?
ソンヒの存在を知ってたとしても、二人が顔付き合わせてるなんてバレたら大騒ぎになる」
「私、恥ずかしいくらい趙にべったりだから。
偶然、知ってしまったんです。詳しいことは知らないけれど、異人三の共闘だけ。
趙はすごく怒りましたけどね。こんなこと知られたらお前を消さなきゃいけなくなるって。
父ですら知らないことを余所者の私が知ってしまったから」
趙がそんなヘマを進んでするとは思えない。
この子にだけは相当な隙を見せているのかも知れなかった。
「でも、消されることなくここにいる」
春日の言葉に明菜は肯く。
「私は殺されても良かったんです。マフィアがそういう場所なのは肌で感じてきたことだから。
でも趙はそうしなかった。変わりに誰にも言えない本音を私だけに言うようになって...」
「相当信頼されてたんだな」
「そうかも知れません。でも...あまり聞きたくなかった」
そう言った明菜の瞳が悲しみに揺れる。
趙がこの子を殺せなかった理由も、
趙にとってこの子がどういう存在だったかも、なんとなくだがわかる気がした。
「自分には到底敵わない人の話をされて。
聞いているうちにそんな女になれば、少しは振り向いてくれるかもって思ったんです。
本物のソンヒさんには会ったことないから、真似できてるかどうかわからないですけど」
「ソンヒっていうんなら、結構イイ線行ってると思うぜ?
...でも、明菜ちゃんは明菜ちゃんだろ?人の真似する必要なんかないんじゃねぇの」
目の前にいる明菜を見て、心の底から春日はそう思った。
昨日の大人びた彼女も確かに良いが、今自分の隣で等身大の自分を曝け出している方がずっと魅力的に見える。
趙だって明菜が無理をしていたことに気付いるんじゃないだろうか。
「私じゃダメなんです。どんなに近くにいても、趙は私を女として見てくれたことはありません。
隣にはいつも私よりずっと大人の女がいるんです。
...近くまで行けても隣には立てない。
ずっと列の最後尾に並んでるみたいなんです。どれだけ待っても目の前でどんどん横入りされてくみたい」
「春日さんって不思議ですね」そう付け加えて明菜はクスリと笑った。
昨日初めて見たときは表情の乏しい女かと思ったが、今日の彼女はくるくると表情が良く変わる。
「趙が良く言っていました。春日くんは不思議だ、嫌いになれないんだよって。
私もそう思います。私、人見知りだから。こんな風に自分のこと誰かに話したことないですよ」
それは恐らく、彼女を取り巻く環境のせいもあるのだろう。
昨日聞いた明菜の生い立ちを春日は思い出していた。
「なんだか、辛い思いをしてきたみてぇだな」
「聞いたんですね、私のこと。辛いというか、私にとってはそれが当たり前でした。
余所者扱いされることにはとっくに慣れてるんです。でも母は大変だったと思います。
幼い私を連れて、余所者扱いされる場所に身を寄せないといけなかった。
心労が祟って体を壊して、私が12歳の時にそのまま...」
「そりゃキツかったろ。俺も親父死んだときは荒れたよ。まぁ育ての親だったけどよ」
親のいない春日だが、肉親と呼べるものを亡くす痛みはわかっていた。
12歳なら自分が育ての親を亡くした時より幼い。
相当辛かっただろう。
「でも私には趙がいました」
そう言って笑う明菜の顔は、幼さが残りながらもしっかりと女の顔をしていた。
「趙が兄のように、父のように、時には母のように、私を守ってくれました。
組織の中ではみ出し者の私を、ずっと側においてくれた。
総帥の息子である趙と仲良くすることは、父にとっては有利なことでしたし、
それがあれば私には帰る家と居場所が保証されていたんです」
「だから全てなんです」と明菜は続ける。
「趙のいる場所が私の全てなんです。彼の側以外、私にはなんの意味もないんです。
いくらカタギの娘だって言われても、外に魅力なんて感じたことありません。
例え趙が私を選ばなくても、側にいれるならそれでいいんです」
「...嘘だな」
考えるより先に声が出る。
「え?」
「あんたはそうやって強がってるけど、ソンヒの真似してみたり、
本当は趙に意識してもらいたいんだろ?
それにさっきから明菜ちゃん、趙の話してる時は女の顔してるぜ」
春日の言葉に「...春日さんって本当に野暮ですね」と明菜は笑う。
その笑顔はとても寂しそうに見えた。
「私、そろそろ行きます。これ趙に渡してください」
昨日とは違う色の紙袋を手渡しながら、明菜が立ち上がる。
「もう少ししたら帰ってくると思うぜ?あんた趙に会いにきたんだろ」
明菜はふるふると首を横に振った。
「慣れてるんです、こういうの。たぶん今日はまだ趙は帰ってきません。
時々こういう避け方をされるから。
でも今日は春日さんと話せて良かった。他の皆さんにもよろしくお伝えください」
「趙のこと、よろしくお願いします」と頭を下げて、女はドアまで歩き出す。
何か気の利いたことを言いたいのに、春日には何も思いつかない。
カランカラン
という鈴の音がまた鳴り響いた時、春日がやっと口を開いた。
「俺も趙は嫌いじゃねぇよ。むしろあぁいう男、俺は好きだぜ。
いい男だよな、あいつ」
その言葉に明菜が振り返る。
逆光に照らされてはいるが、その顔は満面の笑みだった。
可愛い顔しちゃって
趙のやつ、相当罪作りだな
ドアが閉まってからも暫く、春日は視線をそこから離せなかった。
来客を知らせる音に春日は振り向いた。
見れば昨日とデジャヴ。
女がそこに立っていた。
「よぉ!明菜ちゃん...だっけ?」
春日が右手を上げ声をかけると明菜がペコリと頭を下げる。
「趙だろ?生憎今は俺以外全員出払ってんだ。
何か飲んで待ってりゃいい」
昨日と違う申し訳なさそうな顔で女が春日の横に座った。
「あの...春日さん?ですよね。昨日は挨拶も無しに、ごめんなさい」
気の強い女とばかり思っていたから、その言葉に春日は目を丸くする。
「あぁ、いや、んなこたぁ気にすんなよ。
それにしても随分昨日と印象違うなぁ」
そう言って苦笑した。
趙の横っ面を引っ叩いた女と同一人物とは思えない。
「母が礼儀には厳しかったので。それに...あぁなるのは趙の前でだけです」
節目がちにそう答えた彼女はまるで小さな子供のように見えた。
昨日は随分大人びて見えたが、思ったよりも若いのかも知れない。
「趙の前でだけかぁ...そりゃまた随分素直じゃないんじゃねぇの?」
春日の言葉に明菜の頬が赤く染まる。
また野暮なこと聞いちまったか?
内心自問しながら、趙の側にいるには随分初心な女だなと思う。
「趙は...強い女が好きだから。あの人みたいな」
そう言って女は悲しそうな顔を浮かべた。
まるで飼い主に叱られた子犬のようだ。
「あの人?」
「コミジュルの総帥。ソンヒさんです」
ソンヒかぁ...
そう言われれば確かに納得する。
昨日見た明菜は確かにソンヒのような雰囲気を纏っていた。
それに趙は彼女を随分買っているように見える。
「いやぁ、わかんねぇけど。あれは恋とかそう言うのとは違うんじゃねぇの?
なんつーかさ、組織を引っ張るもの同士分かり合うとこがある、みてーな」
俺はそっち方面随分疎いらしぃから。
そう付け加えて春日は笑った。
「流氓の総帥になって趙の口からソンヒさんの名前を聞くことが増えました。
あの子はすごいよ、いい女だよっていつも褒めちぎるんです。
でもその顔はいつも寂しそうで...叶わない恋をしてるんだなってずっとそう思ってました」
悲しそうな顔で寂しく笑う明菜の瞳が、春日を捉えた。
思わずドキリとする。
間近で顔を見れば見るほどべっぴんだ。
「いやぁ...ん?でもなんで明菜ちゃんがソンヒとの繋がりを知ってるんだ?
組織のNo.2だった馬淵ですら知らない情報だろ?
ソンヒの存在を知ってたとしても、二人が顔付き合わせてるなんてバレたら大騒ぎになる」
「私、恥ずかしいくらい趙にべったりだから。
偶然、知ってしまったんです。詳しいことは知らないけれど、異人三の共闘だけ。
趙はすごく怒りましたけどね。こんなこと知られたらお前を消さなきゃいけなくなるって。
父ですら知らないことを余所者の私が知ってしまったから」
趙がそんなヘマを進んでするとは思えない。
この子にだけは相当な隙を見せているのかも知れなかった。
「でも、消されることなくここにいる」
春日の言葉に明菜は肯く。
「私は殺されても良かったんです。マフィアがそういう場所なのは肌で感じてきたことだから。
でも趙はそうしなかった。変わりに誰にも言えない本音を私だけに言うようになって...」
「相当信頼されてたんだな」
「そうかも知れません。でも...あまり聞きたくなかった」
そう言った明菜の瞳が悲しみに揺れる。
趙がこの子を殺せなかった理由も、
趙にとってこの子がどういう存在だったかも、なんとなくだがわかる気がした。
「自分には到底敵わない人の話をされて。
聞いているうちにそんな女になれば、少しは振り向いてくれるかもって思ったんです。
本物のソンヒさんには会ったことないから、真似できてるかどうかわからないですけど」
「ソンヒっていうんなら、結構イイ線行ってると思うぜ?
...でも、明菜ちゃんは明菜ちゃんだろ?人の真似する必要なんかないんじゃねぇの」
目の前にいる明菜を見て、心の底から春日はそう思った。
昨日の大人びた彼女も確かに良いが、今自分の隣で等身大の自分を曝け出している方がずっと魅力的に見える。
趙だって明菜が無理をしていたことに気付いるんじゃないだろうか。
「私じゃダメなんです。どんなに近くにいても、趙は私を女として見てくれたことはありません。
隣にはいつも私よりずっと大人の女がいるんです。
...近くまで行けても隣には立てない。
ずっと列の最後尾に並んでるみたいなんです。どれだけ待っても目の前でどんどん横入りされてくみたい」
「春日さんって不思議ですね」そう付け加えて明菜はクスリと笑った。
昨日初めて見たときは表情の乏しい女かと思ったが、今日の彼女はくるくると表情が良く変わる。
「趙が良く言っていました。春日くんは不思議だ、嫌いになれないんだよって。
私もそう思います。私、人見知りだから。こんな風に自分のこと誰かに話したことないですよ」
それは恐らく、彼女を取り巻く環境のせいもあるのだろう。
昨日聞いた明菜の生い立ちを春日は思い出していた。
「なんだか、辛い思いをしてきたみてぇだな」
「聞いたんですね、私のこと。辛いというか、私にとってはそれが当たり前でした。
余所者扱いされることにはとっくに慣れてるんです。でも母は大変だったと思います。
幼い私を連れて、余所者扱いされる場所に身を寄せないといけなかった。
心労が祟って体を壊して、私が12歳の時にそのまま...」
「そりゃキツかったろ。俺も親父死んだときは荒れたよ。まぁ育ての親だったけどよ」
親のいない春日だが、肉親と呼べるものを亡くす痛みはわかっていた。
12歳なら自分が育ての親を亡くした時より幼い。
相当辛かっただろう。
「でも私には趙がいました」
そう言って笑う明菜の顔は、幼さが残りながらもしっかりと女の顔をしていた。
「趙が兄のように、父のように、時には母のように、私を守ってくれました。
組織の中ではみ出し者の私を、ずっと側においてくれた。
総帥の息子である趙と仲良くすることは、父にとっては有利なことでしたし、
それがあれば私には帰る家と居場所が保証されていたんです」
「だから全てなんです」と明菜は続ける。
「趙のいる場所が私の全てなんです。彼の側以外、私にはなんの意味もないんです。
いくらカタギの娘だって言われても、外に魅力なんて感じたことありません。
例え趙が私を選ばなくても、側にいれるならそれでいいんです」
「...嘘だな」
考えるより先に声が出る。
「え?」
「あんたはそうやって強がってるけど、ソンヒの真似してみたり、
本当は趙に意識してもらいたいんだろ?
それにさっきから明菜ちゃん、趙の話してる時は女の顔してるぜ」
春日の言葉に「...春日さんって本当に野暮ですね」と明菜は笑う。
その笑顔はとても寂しそうに見えた。
「私、そろそろ行きます。これ趙に渡してください」
昨日とは違う色の紙袋を手渡しながら、明菜が立ち上がる。
「もう少ししたら帰ってくると思うぜ?あんた趙に会いにきたんだろ」
明菜はふるふると首を横に振った。
「慣れてるんです、こういうの。たぶん今日はまだ趙は帰ってきません。
時々こういう避け方をされるから。
でも今日は春日さんと話せて良かった。他の皆さんにもよろしくお伝えください」
「趙のこと、よろしくお願いします」と頭を下げて、女はドアまで歩き出す。
何か気の利いたことを言いたいのに、春日には何も思いつかない。
カランカラン
という鈴の音がまた鳴り響いた時、春日がやっと口を開いた。
「俺も趙は嫌いじゃねぇよ。むしろあぁいう男、俺は好きだぜ。
いい男だよな、あいつ」
その言葉に明菜が振り返る。
逆光に照らされてはいるが、その顔は満面の笑みだった。
可愛い顔しちゃって
趙のやつ、相当罪作りだな
ドアが閉まってからも暫く、春日は視線をそこから離せなかった。