My everything
空欄の場合は”明菜”になります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
皆思い思いに酒を楽しむ中、春日は徐に立ち上がり趙の隣に席を移した。
「よぉ、趙。たまには二人で話さねぇか?」
「なぁに春日くん。さてはまた野暮なことでも聞く気だ」
僅かに酔っているのか、趙は上機嫌にそう答えた。
彼の横には、明菜と呼ばれる女が持ってきた袋がそのまま置かれている。
「それ、わざわざ買ってきてくれたのか?」
グラスを持ったまま春日が顎で袋を指すと、趙は満足そうに「そうだよ」と笑う。
「いい子じゃねぇか。わざわざお前のために買い物して、ここまで届けてくれたんだ。
あんな言い方、良くなかったんじゃねぇの」
春日には明菜の寂しそうな横顔が忘れられないでいた。
わざわざ心配してやってきてくれたであろう彼女に対して、趙は少し冷たすぎた。
彼はいつも飄々としており、なにを考えているか分からない男ではあったが、本心からあんな態度をとったとは思えない。
「出てくる時は気の身気のままって感じだったけど、
さすがに着替えが足りなくなってさ。
明菜なら俺の行きつけも趣味もわかるし、頼むならあいつしかいなかったんだよ」
「そういうことじゃなくてだなぁ、『明菜はさぁ』」
春日の言葉を遮るように、趙が口を開いた。
「明菜は、在日でも二世でもなんでもない。純粋な日本人なんだよ」
趙が人の発言を遮ることは珍しい。
春日は黙って続きを待つことにした。
「あいつは母親の連子でね。親の再婚で小さい時に急に在日マフィアのコミュニティに連れてこられた。
物心つく前から明菜は流氓の中で育っているけど、中国人ってわけじゃない。
たまたま親父さんが幹部だったからまだ良かったけど、あいつはガキの頃からカヤの外にいるんだよ」
趙の言葉に春日は苛立った。
血がなんだってんだ。
この男がまさかそんなものに拘っていたなんて。
表情が顔に出ていたのか、趙が笑いながら違う違うと首を振る。
「俺はそんなこと気にしちゃいないよ。小さい頃から兄妹みたいに過ごしたんだ。
問題は俺以外の奴らさ。春日くんもわかるでしょ?
在日の連中はそうゆうとこ、すーぐ拘っちゃうんだから」
「...まぁ、確かにな」
趙の言葉に安堵しながらも、春日はやり切れない気持ちになった。
彼女はずっと居場所がないと思いながら、この町で過ごしてきたんだろうか。
「極め付けは明菜の親だよ。あいつの母親は頑として明菜を再婚相手の籍に入れなかった。
いつか明菜がカタギとして生きれるように、マフィアの娘にはしたくなかったんだろうね。
だったら結婚するなって話だけど、一人娘だし心配だったんじゃないの」
グラスの中の氷を回しながら、趙は続ける。
「でもそれが決定打だった。表向きは幹部の娘だから邪険にはされない。
でも仲間でもない。いつかこっから出てっちゃうかも知れない明菜に、腹の中見せて心開くやつは一人もいなかったよ」
「...そうゆうもんかね」
「俺を除いては、ね」
悪戯っぽくニヤリと笑う趙の目には、口調と裏腹に哀愁が漂っていた。
「でも明菜は流氓の中しか知らない。お前は日本人なんだ、カタギなんだと言われても、
育ったのは異人町の中国マフィアの中さ。外にも中にも居場所がないまま、気づいたら俺の後ろくっついて歩くようになってた」
「だからって何言っても許されるわけじゃねぇだろ」
「...今はね、春日くん。明菜にとってチャンスなんだよ」
「チャンス?」
趙の言葉に春日は純粋に首を傾げた。
「肉の壁が崩れそうな今こそ、あいつはカタギになれるチャンスなの。
俺や他の奴らみたいに、この町じゃなきゃ生きられない訳じゃない。今なら出て行っても後ろ指さされないしね」
趙の言葉に納得しかけるも、春日はふと疑問に思う。
それならば何故、今更明菜に連絡したのか。
本当にそう思っているのなら、わざわざ呼び出す真似をする必要はなかったはずだ。
「そう思ってんならなんで中途半端なことしたんだよ。
服の趣味がどうとか、そんなん言い訳にならねぇだろ」
「さすが春日くんは野暮だなぁ。
そんなこと、わざわざ言わせないでよー。この話はもうお終いね。俺、眠くなっちゃった」
「おい、趙!」
グラスに残ったウィスキーを飲み干すと、趙は立ち上がりそのまま二階へ消えて行った。
相変わらず何考えてるかわかんねーなと、春日は小さく舌打ちする。
「我本來想和你說話的」
突然背後から中国語が聞こえ、春日が振り返った。
そこには冷静な表情のハン・ジュンギが立っている。
「私も中国語が完璧な訳ではありません。
ですが、最後に彼が言った言葉の意味はわかりました」
「なんだよ。どういう意味だ」
ハン・ジュンギはフッと笑うと、その低い声でこう呟いた。
「俺はお前と話がしたかったんだよ、というところでしょうか。
...彼も素直じゃありませんね」
「なんだよ、それが今の話とどう繋がるっていうんだ」
ハン・ジュンギの言葉に春日はますます混乱する。
わざわざ中国語でそんなこと言って一体何になるというのか。
「春日さんはこの手の話に疎いですね...つまり、彼は明菜さんにカタギに戻って欲しい気持ちと
側に置いておきたい気持ちの狭間で揺れているんでしょう。
これ以上の話は、また野暮だと叱られてしまいそうですから、やめておきます」
「あ、おい!」
ハン・ジュンギまでもが春日を残して、二階へ消えてしまった。
どいつもこいつもなんだってんだよ。
春日はモヤモヤした感情を消化しきれないまま、グラスに残った酒を飲み干した。
「よぉ、趙。たまには二人で話さねぇか?」
「なぁに春日くん。さてはまた野暮なことでも聞く気だ」
僅かに酔っているのか、趙は上機嫌にそう答えた。
彼の横には、明菜と呼ばれる女が持ってきた袋がそのまま置かれている。
「それ、わざわざ買ってきてくれたのか?」
グラスを持ったまま春日が顎で袋を指すと、趙は満足そうに「そうだよ」と笑う。
「いい子じゃねぇか。わざわざお前のために買い物して、ここまで届けてくれたんだ。
あんな言い方、良くなかったんじゃねぇの」
春日には明菜の寂しそうな横顔が忘れられないでいた。
わざわざ心配してやってきてくれたであろう彼女に対して、趙は少し冷たすぎた。
彼はいつも飄々としており、なにを考えているか分からない男ではあったが、本心からあんな態度をとったとは思えない。
「出てくる時は気の身気のままって感じだったけど、
さすがに着替えが足りなくなってさ。
明菜なら俺の行きつけも趣味もわかるし、頼むならあいつしかいなかったんだよ」
「そういうことじゃなくてだなぁ、『明菜はさぁ』」
春日の言葉を遮るように、趙が口を開いた。
「明菜は、在日でも二世でもなんでもない。純粋な日本人なんだよ」
趙が人の発言を遮ることは珍しい。
春日は黙って続きを待つことにした。
「あいつは母親の連子でね。親の再婚で小さい時に急に在日マフィアのコミュニティに連れてこられた。
物心つく前から明菜は流氓の中で育っているけど、中国人ってわけじゃない。
たまたま親父さんが幹部だったからまだ良かったけど、あいつはガキの頃からカヤの外にいるんだよ」
趙の言葉に春日は苛立った。
血がなんだってんだ。
この男がまさかそんなものに拘っていたなんて。
表情が顔に出ていたのか、趙が笑いながら違う違うと首を振る。
「俺はそんなこと気にしちゃいないよ。小さい頃から兄妹みたいに過ごしたんだ。
問題は俺以外の奴らさ。春日くんもわかるでしょ?
在日の連中はそうゆうとこ、すーぐ拘っちゃうんだから」
「...まぁ、確かにな」
趙の言葉に安堵しながらも、春日はやり切れない気持ちになった。
彼女はずっと居場所がないと思いながら、この町で過ごしてきたんだろうか。
「極め付けは明菜の親だよ。あいつの母親は頑として明菜を再婚相手の籍に入れなかった。
いつか明菜がカタギとして生きれるように、マフィアの娘にはしたくなかったんだろうね。
だったら結婚するなって話だけど、一人娘だし心配だったんじゃないの」
グラスの中の氷を回しながら、趙は続ける。
「でもそれが決定打だった。表向きは幹部の娘だから邪険にはされない。
でも仲間でもない。いつかこっから出てっちゃうかも知れない明菜に、腹の中見せて心開くやつは一人もいなかったよ」
「...そうゆうもんかね」
「俺を除いては、ね」
悪戯っぽくニヤリと笑う趙の目には、口調と裏腹に哀愁が漂っていた。
「でも明菜は流氓の中しか知らない。お前は日本人なんだ、カタギなんだと言われても、
育ったのは異人町の中国マフィアの中さ。外にも中にも居場所がないまま、気づいたら俺の後ろくっついて歩くようになってた」
「だからって何言っても許されるわけじゃねぇだろ」
「...今はね、春日くん。明菜にとってチャンスなんだよ」
「チャンス?」
趙の言葉に春日は純粋に首を傾げた。
「肉の壁が崩れそうな今こそ、あいつはカタギになれるチャンスなの。
俺や他の奴らみたいに、この町じゃなきゃ生きられない訳じゃない。今なら出て行っても後ろ指さされないしね」
趙の言葉に納得しかけるも、春日はふと疑問に思う。
それならば何故、今更明菜に連絡したのか。
本当にそう思っているのなら、わざわざ呼び出す真似をする必要はなかったはずだ。
「そう思ってんならなんで中途半端なことしたんだよ。
服の趣味がどうとか、そんなん言い訳にならねぇだろ」
「さすが春日くんは野暮だなぁ。
そんなこと、わざわざ言わせないでよー。この話はもうお終いね。俺、眠くなっちゃった」
「おい、趙!」
グラスに残ったウィスキーを飲み干すと、趙は立ち上がりそのまま二階へ消えて行った。
相変わらず何考えてるかわかんねーなと、春日は小さく舌打ちする。
「我本來想和你說話的」
突然背後から中国語が聞こえ、春日が振り返った。
そこには冷静な表情のハン・ジュンギが立っている。
「私も中国語が完璧な訳ではありません。
ですが、最後に彼が言った言葉の意味はわかりました」
「なんだよ。どういう意味だ」
ハン・ジュンギはフッと笑うと、その低い声でこう呟いた。
「俺はお前と話がしたかったんだよ、というところでしょうか。
...彼も素直じゃありませんね」
「なんだよ、それが今の話とどう繋がるっていうんだ」
ハン・ジュンギの言葉に春日はますます混乱する。
わざわざ中国語でそんなこと言って一体何になるというのか。
「春日さんはこの手の話に疎いですね...つまり、彼は明菜さんにカタギに戻って欲しい気持ちと
側に置いておきたい気持ちの狭間で揺れているんでしょう。
これ以上の話は、また野暮だと叱られてしまいそうですから、やめておきます」
「あ、おい!」
ハン・ジュンギまでもが春日を残して、二階へ消えてしまった。
どいつもこいつもなんだってんだよ。
春日はモヤモヤした感情を消化しきれないまま、グラスに残った酒を飲み干した。