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一仕事終えた夕方のこと、
サバイバーのカウンターで、
春日たちが息抜きがてらグラスを傾けて
いたときのことだった。
カランカラン
扉が開いたことを知らせるベルの音に振り返る。
「ここに趙天佑はいる?」
「あ?...あぁ、趙ならそこに...」
ずいぶんべっぴんさんだなぁ
立ち尽くす女を見て、春日は思わず呆気にとられた。
眉下で切りそろえられた前髪の下から、くっきりとした意志の強そうな瞳がこちらを捉えている。
髪型がその切れ長の目をより印象づけ、
胸まで伸びるストレートの黒髪が、背後の夕陽に照らされ艶めいていた。
浅いVネックから覗く鎖骨は美しく、タイトな黒いスキニーは美しい脚線美を描いている。
かぁ〜、ほせーのに出るとこ出てらぁ
こりゃソンヒも負けず劣らずの美人だな
呑気にそう思った春日を他所に、女は指された趙のところまでツカツカと歩いて行く。
ピンヒールの似合う女だこと
そう思った瞬間、バシッ!という音と共に、女が趙の横っ面を思い切り叩いた。
それは目にも止まらぬ速さだった。
「何週間も連絡を寄越さないで、急に着替えを持ってこい?馬鹿にすんのも大概にしなさいよ」
ピアノに縁取られたカウンターに腰掛けていた趙は、驚くでもなくニヤニヤと笑っている。
「ご挨拶だねぇ、明菜ちゃん。そんな怒ることないじゃない」
まるで予測していたかのようだった。
女の威勢と趙の余裕に、その場にいた全員が呆気にとられる。
これはただの痴情の縺れなのだろうか。
ゴクリという誰かの生唾を飲む音が聞こえるほど、店内は静まり帰っていた。
「...私はあんたになんかあったんじゃないかってそう思ってた。
側近に聞いても誰もなにも言わない。馬淵は消えたし、あんたの家はもぬけの空...流氓は壊滅状態」
荒ぶるでもなく、静かな口調だったが、確かな怒りが空気を通して伝わってくる。
これは聞いていても良い内容なのかすらわからない。
野次馬たちの心配を他所に、当の趙自身は未だに余裕の笑みを見せていた。
「色々バタついててさぁー、明菜にもなかなか連絡できなかったワケ。
でも死んでないことぐらいなんとなくわかってたでしょ?」
そう言うと女の左手にある紙袋を奪い、中身を確認する。
「やっぱりお前に頼んで良かったよー。
他の奴らじゃ趣味の悪いもん持ってきそうでさぁ。さすが明菜だね。俺の趣味バッチリじゃん」
サンキューサンキューとあしらうように告げると、趙は「なんか飲むー?」と軽い口調で女に聞いた。
まるで待ち合わせた友人に語りかけるような口振りに、春日たちは内心の焦りを隠せない。
こりゃあダメだ。
趙のやつ、ますます女の怒りを買ってる!
火に油注いでどうすんだよ!
ところが心配を他所に女は激昂するどころか、大きな溜息を吐いた。
「...今日はもう帰る。また明日、来るから」
「你父親身體好嗎?」
(親父さんは元気?)
踵を返す女に向かって、趙は流暢な中国語で何かを聞いた。
「爸爸不喜歡那個女人當領導。
有人甚至離開橫濱」
(パパはあの女が指揮を取るのが気に入らないって。
横浜を出ていくって騒いでる)
背中を向けたまま、女が静かにそう答える。
バーカウンターに座る春日からは、寂しそうな女の表情がよく見えた。
「...そんなこと、気になるなら日本語で聞けばいいじゃない。
ココで中国語を話すのは、ちょっとルール違反なんじゃないの」
来た時とは違う静かな足取りで、女はドアまで歩むとノブに手をかけた。
「我本來想和你說話的」
立ち去ろうとする背中に趙が呟くと、女は振り返ることなく出て行ってしまった。
カランカラン、というベルの音だけが店内に残される。
「女ってのは難しいねぇ。あんなに怒ることかなぁ」
静寂を掻き消すように趙が口を開くと、となりで紗栄子が「サイテー」と口を尖らせた。
「そ、そうだぜ。あれはないぜ、趙。あの子お前を心配してくれてたんじゃねーの?」
「一番の言う通りだと思うけどな。お前、ありゃないぜ」
春日の言葉にナンバが賛同する。
今や足立やハンまでもが彼を白い目で見ていた。
その場にいる全員が敵だとわかると、趙はお手上げという風に両手を上げた。
「ハイハイ。悪いのは俺なんでしょー。もうわかったからさぁ。
そんな顔するのはやめてよ。楽しいお酒が台無しじゃーん」
「空気を壊したのはアンタでしょ!」
紗栄子の鋭い突っ込みに趙は惚けた顔をする。
「ところで誰なんだよ、あのイイ女」
野次馬精神丸出しの顔で、ナンバが身を乗り出してそう聞いた。
確かに全員がそれを気にしている。
「あれは明菜って言って、俺の幼馴染みみたいなもん。
父親が流氓の中じゃ5本の指に入る幹部だったんだよ。親父の代からのね。
だから俺たちは腐れ縁ってワケ。言っとくけど、俺の女とかじゃないよ」
「残念でしたー」と付け加え、趙はクククと笑った。
期待していた全員が落胆の溜息を吐く。
趙はあまり自身のことを話したがらない。
プライベートなことは特にだ。
てっきりそんな彼の貴重な一面を知れたと思っていただけに、残念な気がした。
サバイバーのカウンターで、
春日たちが息抜きがてらグラスを傾けて
いたときのことだった。
カランカラン
扉が開いたことを知らせるベルの音に振り返る。
「ここに趙天佑はいる?」
「あ?...あぁ、趙ならそこに...」
ずいぶんべっぴんさんだなぁ
立ち尽くす女を見て、春日は思わず呆気にとられた。
眉下で切りそろえられた前髪の下から、くっきりとした意志の強そうな瞳がこちらを捉えている。
髪型がその切れ長の目をより印象づけ、
胸まで伸びるストレートの黒髪が、背後の夕陽に照らされ艶めいていた。
浅いVネックから覗く鎖骨は美しく、タイトな黒いスキニーは美しい脚線美を描いている。
かぁ〜、ほせーのに出るとこ出てらぁ
こりゃソンヒも負けず劣らずの美人だな
呑気にそう思った春日を他所に、女は指された趙のところまでツカツカと歩いて行く。
ピンヒールの似合う女だこと
そう思った瞬間、バシッ!という音と共に、女が趙の横っ面を思い切り叩いた。
それは目にも止まらぬ速さだった。
「何週間も連絡を寄越さないで、急に着替えを持ってこい?馬鹿にすんのも大概にしなさいよ」
ピアノに縁取られたカウンターに腰掛けていた趙は、驚くでもなくニヤニヤと笑っている。
「ご挨拶だねぇ、明菜ちゃん。そんな怒ることないじゃない」
まるで予測していたかのようだった。
女の威勢と趙の余裕に、その場にいた全員が呆気にとられる。
これはただの痴情の縺れなのだろうか。
ゴクリという誰かの生唾を飲む音が聞こえるほど、店内は静まり帰っていた。
「...私はあんたになんかあったんじゃないかってそう思ってた。
側近に聞いても誰もなにも言わない。馬淵は消えたし、あんたの家はもぬけの空...流氓は壊滅状態」
荒ぶるでもなく、静かな口調だったが、確かな怒りが空気を通して伝わってくる。
これは聞いていても良い内容なのかすらわからない。
野次馬たちの心配を他所に、当の趙自身は未だに余裕の笑みを見せていた。
「色々バタついててさぁー、明菜にもなかなか連絡できなかったワケ。
でも死んでないことぐらいなんとなくわかってたでしょ?」
そう言うと女の左手にある紙袋を奪い、中身を確認する。
「やっぱりお前に頼んで良かったよー。
他の奴らじゃ趣味の悪いもん持ってきそうでさぁ。さすが明菜だね。俺の趣味バッチリじゃん」
サンキューサンキューとあしらうように告げると、趙は「なんか飲むー?」と軽い口調で女に聞いた。
まるで待ち合わせた友人に語りかけるような口振りに、春日たちは内心の焦りを隠せない。
こりゃあダメだ。
趙のやつ、ますます女の怒りを買ってる!
火に油注いでどうすんだよ!
ところが心配を他所に女は激昂するどころか、大きな溜息を吐いた。
「...今日はもう帰る。また明日、来るから」
「你父親身體好嗎?」
(親父さんは元気?)
踵を返す女に向かって、趙は流暢な中国語で何かを聞いた。
「爸爸不喜歡那個女人當領導。
有人甚至離開橫濱」
(パパはあの女が指揮を取るのが気に入らないって。
横浜を出ていくって騒いでる)
背中を向けたまま、女が静かにそう答える。
バーカウンターに座る春日からは、寂しそうな女の表情がよく見えた。
「...そんなこと、気になるなら日本語で聞けばいいじゃない。
ココで中国語を話すのは、ちょっとルール違反なんじゃないの」
来た時とは違う静かな足取りで、女はドアまで歩むとノブに手をかけた。
「我本來想和你說話的」
立ち去ろうとする背中に趙が呟くと、女は振り返ることなく出て行ってしまった。
カランカラン、というベルの音だけが店内に残される。
「女ってのは難しいねぇ。あんなに怒ることかなぁ」
静寂を掻き消すように趙が口を開くと、となりで紗栄子が「サイテー」と口を尖らせた。
「そ、そうだぜ。あれはないぜ、趙。あの子お前を心配してくれてたんじゃねーの?」
「一番の言う通りだと思うけどな。お前、ありゃないぜ」
春日の言葉にナンバが賛同する。
今や足立やハンまでもが彼を白い目で見ていた。
その場にいる全員が敵だとわかると、趙はお手上げという風に両手を上げた。
「ハイハイ。悪いのは俺なんでしょー。もうわかったからさぁ。
そんな顔するのはやめてよ。楽しいお酒が台無しじゃーん」
「空気を壊したのはアンタでしょ!」
紗栄子の鋭い突っ込みに趙は惚けた顔をする。
「ところで誰なんだよ、あのイイ女」
野次馬精神丸出しの顔で、ナンバが身を乗り出してそう聞いた。
確かに全員がそれを気にしている。
「あれは明菜って言って、俺の幼馴染みみたいなもん。
父親が流氓の中じゃ5本の指に入る幹部だったんだよ。親父の代からのね。
だから俺たちは腐れ縁ってワケ。言っとくけど、俺の女とかじゃないよ」
「残念でしたー」と付け加え、趙はクククと笑った。
期待していた全員が落胆の溜息を吐く。
趙はあまり自身のことを話したがらない。
プライベートなことは特にだ。
てっきりそんな彼の貴重な一面を知れたと思っていただけに、残念な気がした。
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