あなた...小さなレストランの若きオーナー
揺れる思い
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「はい、お客様。かしこまりました」
柚葵の満面の笑みに、真島は思わず見とれていた。
キッチンが見えるカウンター席に腰を下ろすと手際良く料理する女を眺める。
時折汗を拭いながらフライパンを振っている横顔が、とびきり美しく思えた。
「相変わらず、ええ顔しよるわ」
楽しそうに料理する柚葵を眺めながらハイライトを咥える。
慌てて差し出される部下の火に近付けようとした時だった。
「禁煙」
声の方を見ればアルバイトの青年が立っていた。
「禁煙ですからやめてください」
真島を恐れるそぶりも見せず、不機嫌に言う。
「あん?なんだてめぇ!」
掴みかかろうとする部下を真島は制止した。
「ほうか。そら失礼したなぁ」
「ちょっと勇人!禁煙なんて嘘つかないの!」
煙草を仕舞おうとする真島に慌てて柚葵が灰皿を差し出した。
「ごめんなさい真島さん。この子、煙草が少し苦手なんです。ほら!早くこの料理持って行って」
「苦手なのは柚葵だろ」
ぶっきらぼうに答え、青年は出された料理を配膳しに消える。
「煙草苦手やったんか。なら、吸うのはやめとこ」
真島はそう言って差し出された灰皿を断った。
「昔苦手だっただけなんです。今はもう平気ですから。どうぞ吸ってください」
そう笑って柚葵は灰皿をカウンターの付け台に置くと、料理に戻った。
真島は煙草を吸うことも忘れ、ただその姿を眺める。
これだけの人数分をこなすのは大変だろうに、実に楽しそうに見えた。
あないほっそい腕で、ようあんなフライパン振りよる
時折味見をしては「うん」と小さく呟いて笑みをこぼす。
その顔から目が離せなかった。
あかんて。あないカタギの子。ほんまにフッツーの子やん
「お待たせしました。こちら真島さんのです」
気が付けば目の前に満面の笑みの柚葵がいた。
真島に料理を差し出し、「どうぞ」と言う。
「…おぉ、こらまたえらい美味そうやなぁ」
真島が前回褒めたパスタともう一皿、いくつかの料理が綺麗に盛り付けられたものが出てきた。
盛り付けは華がある訳でないが美しく、美味しそうな匂いが鼻先をくすぐった。
出された料理をフォークで掬い口へ運ぶ。
「相変わらずうっまいのぉ」
真島の顔に思わず笑みが零れる。
この一週間、柚葵の料理が食べたくて仕方なかった。
立場上、普段から値段も格式も高い店でばかり食事をしている。
だが、値段が高いものが好物とは限らない。
自分の舌には自信がある方だが、どこぞの高い店より柚葵の料理は美味しく感じられた。
それはおそらく彼女の腕だけではなく、自分の為に作られたものであるからだろう。
お袋の飯が旨いっちゅーのと一緒やな
「うまいうまい」と言って食べる真島の顔を柚葵がニコニコと眺めてくる。
「なんや。わしの顔になんかついとるんか?」
柚葵の視線に気付いた真島がそう聞くと、女は頬を赤らめ首を横に振った。
「ごめんなさい。あんまり美味しそうに食べてくださるから、つい…嬉しくなっちゃって。
私、真島さんに食べて頂くの好きみたいです」
「…柚葵ちゃん、やらしぃなぁ」
…あかんやん、この子。天然で言うてんねやったら相当タチ悪いで
思わずドギマギして、精一杯の冗談を返す。
そこから先は柚葵に見られていることを意識しないようにし、料理を頬張った。