あなた...小さなレストランの若きオーナー
揺れる思い
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オープンから間もなく一週間が経とうとしていた。
最初の頃は業者や仕入れ先などの来店があったが、そこから先が続かなかった。
もともと知り合いもいない町で商売を始めようと思ったのが甘かったかも知れない。
売上の帳簿を眺めながら、柚葵は小さな溜息を吐く。
「埼玉で良かったんじゃないの?」
アルバイトとして手伝ってくれている勇人が「だから言ったじゃん」と怖い顔をする。
「俺は誰も知らないところで店をやるなんて甘いって、何度も言ったよ」
勇人は埼玉の施設にいた頃から姉弟のように育ってきた中だ。
三つ下の彼は今年から弁護士になる為、1年遅れで東京の大学に通っていた。
自分の力で入学金を用意し、努力して勉強に励んだ勇人のことを柚葵は自慢の弟だと思っている。
「どうしても神室町が良かったの。…でも勇人のバイト代、しっかり出してあげれなかったらどうしよう」
学費を自分で稼ぎたいという勇人を店のアルバイトに誘ったのは柚葵だった。
自分の収入が減ったとしても、勇人に多めにバイト代を出してあげるつもりだった。
けれどこのままではお店の存続自体が危なくなってしまう。
「仕入れも抑えればいいのに。どうせお客さん来ないんだから」
「それはできないよ。だってもし来たら料理出せないじゃない」
「はぁ」と大きな溜息を吐いて、柚葵は頭を抱えた。
できるだけの宣伝広告費は叩いたつもりだった。
けれどこの店には徹底的に口コミが足りない。
食べてもらえれば絶対に納得させることができるのにと思う。
けれどそう思うのは、料理人のエゴなのかもしれない。
ふとレジ横に貼ってある黒い名刺が目に入った。
あの人は私のことをプロの料理人って言ってくれたっけ…
柚葵は真島の美味しそうに食べてくれる姿を思い出していた。
あの顔をもう一度見たい。
そう思った時のことだった。
「邪魔するでぇ!」
勢い良く店のドアが開くと、わらわらと強面の男たちが流れ込んでくる。
「いらっしゃいませ」を言う間も与えず、店内が人でいっぱいになった。
あっけに取られる柚葵の目に、ひと際派手な男の姿が目に入る。
「…真島さん?」
「おう、柚葵ちゃん。ちょっと飯、食わしてぇな」
その異様な光景に、隣にいた勇人が柚葵を突いた。
「おい、どう見たって全員ヤクザだろ。警察に電話するか?」
小声で呟く勇人に「大丈夫」と柚葵は笑う。
「おい、お前らボサッとせんと店のブラインド閉めぇ。
お前は入口の札『CLOSE』にせんか。
今からこの店貸し切りや」
真島の言葉にヤクザたちが忠実に動く。
それが店への配慮だと理解した柚葵はコック服を腕まくりした。
「何を召し上がりますか?」
「おい!」
柚葵の言葉に勇人は腕を引っ張り制止するが、その声はもう届かない。
「これだけの人数やさかい、柚葵ちゃんできるもん適当に見繕うて出してや。
こいつら酒も死ぬほど飲むからのぉ。バイトの兄ちゃん、覚悟しぃや」
ヒヒッと笑った真島はキッチンの見えるカウンター席にドカッと腰を下ろした。
「親父、こちらに」と奥のテーブル席を指す男に「わしはここでええ」と言う。
「あ、あのスパゲティは入れてや」
真島の言葉に柚葵は満面の笑みを見せる。
「はい、お客様。かしこまりました」
最初の頃は業者や仕入れ先などの来店があったが、そこから先が続かなかった。
もともと知り合いもいない町で商売を始めようと思ったのが甘かったかも知れない。
売上の帳簿を眺めながら、柚葵は小さな溜息を吐く。
「埼玉で良かったんじゃないの?」
アルバイトとして手伝ってくれている勇人が「だから言ったじゃん」と怖い顔をする。
「俺は誰も知らないところで店をやるなんて甘いって、何度も言ったよ」
勇人は埼玉の施設にいた頃から姉弟のように育ってきた中だ。
三つ下の彼は今年から弁護士になる為、1年遅れで東京の大学に通っていた。
自分の力で入学金を用意し、努力して勉強に励んだ勇人のことを柚葵は自慢の弟だと思っている。
「どうしても神室町が良かったの。…でも勇人のバイト代、しっかり出してあげれなかったらどうしよう」
学費を自分で稼ぎたいという勇人を店のアルバイトに誘ったのは柚葵だった。
自分の収入が減ったとしても、勇人に多めにバイト代を出してあげるつもりだった。
けれどこのままではお店の存続自体が危なくなってしまう。
「仕入れも抑えればいいのに。どうせお客さん来ないんだから」
「それはできないよ。だってもし来たら料理出せないじゃない」
「はぁ」と大きな溜息を吐いて、柚葵は頭を抱えた。
できるだけの宣伝広告費は叩いたつもりだった。
けれどこの店には徹底的に口コミが足りない。
食べてもらえれば絶対に納得させることができるのにと思う。
けれどそう思うのは、料理人のエゴなのかもしれない。
ふとレジ横に貼ってある黒い名刺が目に入った。
あの人は私のことをプロの料理人って言ってくれたっけ…
柚葵は真島の美味しそうに食べてくれる姿を思い出していた。
あの顔をもう一度見たい。
そう思った時のことだった。
「邪魔するでぇ!」
勢い良く店のドアが開くと、わらわらと強面の男たちが流れ込んでくる。
「いらっしゃいませ」を言う間も与えず、店内が人でいっぱいになった。
あっけに取られる柚葵の目に、ひと際派手な男の姿が目に入る。
「…真島さん?」
「おう、柚葵ちゃん。ちょっと飯、食わしてぇな」
その異様な光景に、隣にいた勇人が柚葵を突いた。
「おい、どう見たって全員ヤクザだろ。警察に電話するか?」
小声で呟く勇人に「大丈夫」と柚葵は笑う。
「おい、お前らボサッとせんと店のブラインド閉めぇ。
お前は入口の札『CLOSE』にせんか。
今からこの店貸し切りや」
真島の言葉にヤクザたちが忠実に動く。
それが店への配慮だと理解した柚葵はコック服を腕まくりした。
「何を召し上がりますか?」
「おい!」
柚葵の言葉に勇人は腕を引っ張り制止するが、その声はもう届かない。
「これだけの人数やさかい、柚葵ちゃんできるもん適当に見繕うて出してや。
こいつら酒も死ぬほど飲むからのぉ。バイトの兄ちゃん、覚悟しぃや」
ヒヒッと笑った真島はキッチンの見えるカウンター席にドカッと腰を下ろした。
「親父、こちらに」と奥のテーブル席を指す男に「わしはここでええ」と言う。
「あ、あのスパゲティは入れてや」
真島の言葉に柚葵は満面の笑みを見せる。
「はい、お客様。かしこまりました」