あなた...小さなレストランの若きオーナー
罪と罰
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「勇人!」
駆け寄ろうとする柚葵の腕を倉木が掴んだ。
「離して!」
抵抗しようとするが、倉木はピクリとも動かない。
「姐さんを嵌めたのはあの青年ですよ」
「え…?」
倉木の言葉に柚葵は耳を疑った。
彼の言う意味が全く理解できない。
「はぁー…しゃあないのぉ。わしから説明したろかぁ?」
心底面倒臭いと言うように誉田がため息を吐く。
その口から語られたのは、勇人が近江連合相談役の孫であるという事実だった。
そして莫大な遺産の受取人になるかも知れない、と誉田は続ける。
「せやけど近江としては、その兄ちゃんに黙って金持ってかれるんは面白うない。
身内のいない逢坂の遺産は組の資金として回されるはずやった。
それが急に出てきた若造に、逢坂は金を遺すと言いよったんや。
反発する近江の会長にその兄ちゃんが出した条件が、報酬として遺産を半分出す代わりに、真島クン潰すことやった」
誉田がまともに話すことよりも、話の内容の方が衝撃だった。
「そして姉ちゃんのことを情報として売ってきたんや。
真島吾朗のカタギの女やて。
こないシビれる話はそうそうないもんなぁ。
あとは東城会でも力のある真島吾朗が、組織を無視して近江と戦争するようにこっち、で仕向けるだけやった。
そして東城会は内部から崩れて近江に外から崩される」
ドーン!と効果音をつけて、誉田は両の拳を突き合わせる。
「涎が出るようなその絵に、近江の幹部は浮き足だった。
東城会さえなくなれば、あとは近江の天下やからな。
そっからは暫く兄ちゃんの思惑通り動いたやろなぁ。
でっかい組織を自分の顎で使うんは気持ち良かったやろ。
せやけどちぃーとばかし極道舐めてたなぁ」
誉田はイーヒッヒッ!とまた気味の悪い笑い声を木霊させる。
「極道っちゅーんは金も力も全て手に入れようとするもんや。
兄ちゃんうまく使うて真島クンの情報引き出したら、手っ取り早く遺産放棄の書類にサインさせるか、逢坂が悪くなってから海に沈めるかどっちかやった。けど...」
誉田は両手に顔を埋め、「おぉ、可哀想に!」と泣き真似して見せた。
「逢坂が兄ちゃんをいらなくなったんが先やった。
逢坂のお嬢さん、小雪さんなぁ、お前の他に優秀な子ぉ産んどったんやてぇ」
「ほんま可哀想になぁ」誉田は言うが、その顔は笑っていた。
「なんや兄ちゃん小雪さんがいらんて放り出した子だったみたいやんか。
好きでもない男との間にできた息子よりも、後から好きな男との間にできた子の方が可愛かったんやろ。
しかもなんと相手は近江の幹部やった。
当時はご法度やったから黙ってたみたいやけど、どこの馬の骨かわからん血筋のクソガキよりも逢坂はそっちを選んだんや」
「めでたし、めでたし」と誉田が両手を叩く。
「今の近江は意外と穏健派ばっかりやからな。
喧嘩好きのわしに真島クンとのタイマンの話が降って湧いた時は、ほんまに夢精したわ。
こっちでわしが真島クンと絡み合っとるうちに、今頃近江の連中が東城会の本部にカチコミかけとる。
今日は幹部会で主要連中がみぃーんな酒飲んでることも、近江はしっかり掴んでたんやで。
戦争はいつの時代も変わらへんなぁ。
相手の陣地取ったら勝ちや!」
誉田の言葉に真島が動く気配がした。
その仕草に倉木が慌てて柚葵を離し、外に駆けて行く。
「姉ちゃんのお陰で真島クンと楽しくお突き合いでけたし、東城会も崩れたかもやし、お礼にわしのおかずにしたるわ。
兄ちゃんに手ぇ出すなって言われとったけど、そんくらいのかすり傷ご愛嬌やろ。
別にわしは殺ってもよかったんやし」
誉田の言葉に柚葵はただ絶句する。
それが本当に事実なのだとしたら、自分のせいで勇人に罪を犯させ、真島を危険な目に遭わせてしまった。
そして東城会という、想像もつかない大きな組織を潰してしまったかも知れない。
自分はとてつもない罪を犯してしまったと、全身が先程とは違う恐怖で震えた。
「わしは別に近江がどうなろうと関係あらへんけどな。近江の組員名簿にわしの名前なんかあらへん。わしは逢坂の個人的なお抱えやさかい。
なぁ、自分らいつまでここにおんの?
コンパはもう終わりや。解散しよぉ」
誉田がパンパンと両手を叩いた、その瞬間だった。
床に膝をついていた勇人が素早く立ち上がる気配がした。
目の前にあった誉田の小刀を手に、一直線に真島に向かって行くのが見える。
あとはもう無意識に駆け出していた。