「まじ…ま…」

声にならない声が出た。
喉元を空気だけが抜けていく。
来てはダメだと、帰ってと今すぐに叫びたい。


「ああああああああああ！
やっと真島クンに会えたああああああ！」


まさに狂喜乱舞。
男は目をキラキラと輝かせて小躍りしている。

「もう遅いんやもん！
わし、もうちょっとでこのお姉ちゃん殺ってまうとこやったんやで！」

手に持った短刀をクルクルと回し、男はそれを柚葵の頬に近付けた。

「ちゅーかなんで真島クン一人やの？わし舐められとんの？」

「あんだけ組員侍（はべ）らせといてよく言うわ」


よく見れば真島の顔からは血が出ていて、見慣れないスーツも所々破れていた。


「あんなもん雑魚やん。手間取うようなもんとちゃうやん。ガッカリさせんといてよ」


目前でキラリと光る短刀が、柚葵の髪の毛を数本切った。
体が震えて当たるたび、パラパラと毛が舞っていく。
こんなに切れる刃物を柚葵は知らない。


「お前、何モンや」

「せやったせやった！
自己紹介もせんと真島クン真島クン言うて失礼やったなあ」

イーヒッヒッ！と男は笑う。


「近江連合鬼仁会、誉田（ほんだ）や」


男の言葉に真島の隻眼が見開かれる。
柚葵にはもう、二人のやり取りを見ている以外の術はなかった。