あなた...小さなレストランの若きオーナー
歯車
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人生とは時に面白い方に転がるものだ。
煙草を蒸し、勇人はそんなことを考えた。
「兄ちゃん、そんなに真島クンからその姉ちゃん取り戻したいん?」
目の前にいる男は、先日突如自分の前に現れた近江連合の組員の一人だと言う。
古びた神室町の一角にある喫茶店で、これまた昔ながらのパフェを頬張っている。
真っ赤なスーツに身を包み、どこか狂気じみた雰囲気を漂わせているこの男は、どこか自分に似ている気がした。
「黙って動けよ。じいさんが死んだらあんたらに報酬を払うって言ってんだ。真島の弱味も握らせてやってる。文句ないだろ」
こんな東城会のお膝元で白昼堂々と行動して良いものなのか。
勇人にはこの男の考えはわからない。
「真島クンと兄ちゃんが取り合うような女なんやろ。わし、ちょっと興味あるわぁ」
「柚葵に手は出すな」
「おう、こわぁ」
男は大袈裟に肩を竦めた。
「せやけど近江もアホやないでぇ。
兄ちゃんがサインしてくれた方が、事は丸く収まるんやけどなぁ」
冷めたコーヒーを啜り、勇人は黙って男を睨み付ける。
「こわぁ、ちびってまうわ」
男はイヒヒと笑って生クリームを口に押し込んだ。
「まぁ別に、わしはどっちでもええねん」
その言葉に嘘は感じられず、返す言葉に詰まった。
「わし、気持ち良くなれたらそれでええねん」
そう言うと男は立ち上がる。
「兄ちゃんここ払うといて。
よぉ見たらあんたちょっと母親に似とるなぁ」
その後ろ姿を見送りながら、朧げな記憶を掘り返した。
けれどどんなに深く掘ってみても、親に愛された記憶などない。
それが極道に踏みにじられた過去なのだとしたら、今からこの手で取り返すだけだ。
ましてやその存在が無ければ、自分の中の狂気じみた一面を知ることもなかっただろう。
ようやく自分の人生の歯車が回りだしたような気がした。