「親父！親父！親父ぃぃぃいいいいい！」


制止を全力で振り切った西田が、柏木と真島が座る席まで一目散に駆けてくる。
そのままそこに滑り込むと、土下座よろしく床に頭を擦り付けた。
突然の騒ぎに店内にいた極道とホステスたちが騒然とする。


「親父！すんません！すんません！」


何度も床に頭を打ち付けそう絶叫する西田の髪の毛を、柏木の組員が掴んだ。


「てめぇどこの組のモンだ！」


「うちのや。離したってくれ」


真島の言葉に西田は解放されるが、その顔からは血が流れ趣味の悪いシャツは所々が破れていた。


「真島、祝いの席だぞ。事によっちゃあそいつの命はないと思え」


柏木にそうすごまれるが真島はそれすら右手で制した。



「親父！すんません！姐さんが！姐さんがぁぁぁああ！」


真島は「すんません、すんません」と嗚咽を漏らして土下座を続ける西田の胸倉を掴んだ。


「なんや！柚葵に何があった！はよ言えや！」


涙でぐしゃぐしゃの顔を更に歪めて、西田は絶叫する。


「姐さんが攫われましたぁぁぁああああああ！」


真島の全身に血が昇り、西田の顔面を思いきり殴った。


「ずんまぜん！ずんまぜん！」


口から血を流しながらも西田は何度も頭を下げる。


「ずんまぜん！目の前で姐ざんをざらわれまじだぁぁ！ずんまぜん！ずんまぜん！」


「倉木ぃ！全員集めろや！」


「はい」


真島の言葉にその場にいた組員が全員立ち上がる。


「待て！」


それを柏木の野太い声が制する。
真島は目の前にあるガラステーブルを思いきり蹴り上げた。
ガシャン！と大きな音の後で「キャア！」という女の悲鳴が木霊する。


「自分の女攫われて、酒なんか飲めるかぁ！」


真島のその剣幕に店内にいた全員の視線が突き刺さる。
ここにいる極道を全員敵に回したとしても、今はここから出なければならない。
痛いほどの非難の目を感じながら、真島組一行は店を後にする。




「おう、若いの。ちょっと詳しく話してみろ」



残された西田の髪の毛を柏木が掴んだ。

泣きじゃくる男は懸命に話し始める。