あなた...小さなレストランの若きオーナー
歯車
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「クソ」
胸元のネクタイを緩め、舌打ちをする。
ここ最近の真島は機嫌が悪かった。
組の人間を使い近江の動きを探らせる。
そして別の情報を手に入れる為に足繁く本部に通った。
連日の目まぐるしい忙しさ、慣れないスーツ、柚葵に会えないもどかしさ。
そのどれもが真島の全身から尖ったオーラを放たせる。
本当は無理をすれば5分でも10分でも彼女に会う時間を作ることは容易い。
けれどそうしてしまう事さえあの男の罠に嵌るような気がしてならなかった。
柚葵がまた危害を加えられでもしたら、もう自分にあの男を生かしておくことはできないだろう。
「親父、近江にまた動きが」
倉木に差し出された資料を無言で受け取った。
そこに書かれているのはじわじわと近江の勢力が神室町に侵入していることを示す証拠で、
けれどどれも今すぐ抗争を起こすほど緊迫した数字に見えない。
「なんやねんこいつらまどろっこしい」
やるならさっさと動き出せば良いものを。
どちらかが一歩を踏み出せば事態は大きく進展するだろうに、互いに二の足を踏んでいる。
この時間が長くなればなるほど柚葵に会えないのだと苛々した。
一日中彼女といられるなら、あの男の魔の手から全力で守ってやれるというのに。
「何かを企んでいるのは確かです。今冴島組と情報交換を」
「東城会も東城会やで。何がこんな時に幹部会やねん」
煙草を咥えるとすかさず倉木がライターに火を灯した。
今夜行われる「行事」を思い出し、真島は更に殺気立つ。
極道は祭りや祝いを重んじる。
今夜は三次団体の若頭就任を祝う宴だった。
「姐さんの方は毎日見張りをつけていますが、特に動きはないようです。今夜の送りは西田でも問題はないでしょう」
「あのアホ毎回なんかやらかすからな。念押しとけや」
「はい」
今夜の幹部会には倉木を連れていくことになっていた。
一見物静かで大人しい男だが、真島はこの男の腕っぷしと頭の切れに一目を置いている。
だからこそ柚葵の護衛に付かせていたと言うのに、今夜はそれが適わない。
あの兄ちゃん一人やったら西田でも問題ないやろうけどな…
自分の取り越し苦労だと、紫煙を燻らせ真島は笑った。
好きな女には昔から弱いのだ。
夕刻から始まった宴は、気付けば二次会に突入していた。
高級料亭の後は、お決まりの高級クラブの貸し切りだった。
以前は楽しんで通っていた女遊びも、今はさして面白くない。
同じ席に座る柏木は怪訝な表情で真島を見ていた。
「お前、随分と機嫌悪いな。祝いの席だぞ」
それが説教だということも真島には分かっているが、不貞腐れた子供同然返事をしない。
「親父、遅れました」
車を停めに行っていた倉木が店に戻ると、柏木は「おう」と口を開く。
「久しぶりだな、真島の猛犬」
「お久しぶりです」
通称で呼ばれた倉木が一礼する。
「見た目はただのインテリだが、喧嘩の腕はピカイチだとか。一度見てみたいもんだ」
上機嫌になった柏木が琥珀色の液体を喉に流した。
あー、くっそおもんないわ
ここ暫くの不機嫌がたった一日で良くなるはずもなく、真島は苛立ちを隠そうともしない。
近江の目的がなんなのか、何かが喉元に引っかかっているような気持ち悪さを覚えていた。
「...騒がしいな」
柏木の言葉に我に返った。
店の入口の方から、押し問答のような声が聞こえてくる。
「おい、こいつ通すなや!」
店に入ってこようとする人間を、若い見張りたちが押しとどめているようだった。
「入ってくんな!」
ガヤガヤと騒がしい方向に、全員の視線が注がれる。
「親父!親父!親父ぃぃぃぃぃぃいいいい!」
その聞き覚えのある声に、真島の耳がピクリと動いた。
「通してくれ!親父に用があるんだ!通してくれ!」
西田だった。
他の極道に羽交い絞めにされているが、それを振り切るようにもがいている。
「頼んます!親父に会わせてください!親父ぃぃぃいい!!」
真島は胸騒ぎを覚えた。
胸元のネクタイを緩め、舌打ちをする。
ここ最近の真島は機嫌が悪かった。
組の人間を使い近江の動きを探らせる。
そして別の情報を手に入れる為に足繁く本部に通った。
連日の目まぐるしい忙しさ、慣れないスーツ、柚葵に会えないもどかしさ。
そのどれもが真島の全身から尖ったオーラを放たせる。
本当は無理をすれば5分でも10分でも彼女に会う時間を作ることは容易い。
けれどそうしてしまう事さえあの男の罠に嵌るような気がしてならなかった。
柚葵がまた危害を加えられでもしたら、もう自分にあの男を生かしておくことはできないだろう。
「親父、近江にまた動きが」
倉木に差し出された資料を無言で受け取った。
そこに書かれているのはじわじわと近江の勢力が神室町に侵入していることを示す証拠で、
けれどどれも今すぐ抗争を起こすほど緊迫した数字に見えない。
「なんやねんこいつらまどろっこしい」
やるならさっさと動き出せば良いものを。
どちらかが一歩を踏み出せば事態は大きく進展するだろうに、互いに二の足を踏んでいる。
この時間が長くなればなるほど柚葵に会えないのだと苛々した。
一日中彼女といられるなら、あの男の魔の手から全力で守ってやれるというのに。
「何かを企んでいるのは確かです。今冴島組と情報交換を」
「東城会も東城会やで。何がこんな時に幹部会やねん」
煙草を咥えるとすかさず倉木がライターに火を灯した。
今夜行われる「行事」を思い出し、真島は更に殺気立つ。
極道は祭りや祝いを重んじる。
今夜は三次団体の若頭就任を祝う宴だった。
「姐さんの方は毎日見張りをつけていますが、特に動きはないようです。今夜の送りは西田でも問題はないでしょう」
「あのアホ毎回なんかやらかすからな。念押しとけや」
「はい」
今夜の幹部会には倉木を連れていくことになっていた。
一見物静かで大人しい男だが、真島はこの男の腕っぷしと頭の切れに一目を置いている。
だからこそ柚葵の護衛に付かせていたと言うのに、今夜はそれが適わない。
あの兄ちゃん一人やったら西田でも問題ないやろうけどな…
自分の取り越し苦労だと、紫煙を燻らせ真島は笑った。
好きな女には昔から弱いのだ。
夕刻から始まった宴は、気付けば二次会に突入していた。
高級料亭の後は、お決まりの高級クラブの貸し切りだった。
以前は楽しんで通っていた女遊びも、今はさして面白くない。
同じ席に座る柏木は怪訝な表情で真島を見ていた。
「お前、随分と機嫌悪いな。祝いの席だぞ」
それが説教だということも真島には分かっているが、不貞腐れた子供同然返事をしない。
「親父、遅れました」
車を停めに行っていた倉木が店に戻ると、柏木は「おう」と口を開く。
「久しぶりだな、真島の猛犬」
「お久しぶりです」
通称で呼ばれた倉木が一礼する。
「見た目はただのインテリだが、喧嘩の腕はピカイチだとか。一度見てみたいもんだ」
上機嫌になった柏木が琥珀色の液体を喉に流した。
あー、くっそおもんないわ
ここ暫くの不機嫌がたった一日で良くなるはずもなく、真島は苛立ちを隠そうともしない。
近江の目的がなんなのか、何かが喉元に引っかかっているような気持ち悪さを覚えていた。
「...騒がしいな」
柏木の言葉に我に返った。
店の入口の方から、押し問答のような声が聞こえてくる。
「おい、こいつ通すなや!」
店に入ってこようとする人間を、若い見張りたちが押しとどめているようだった。
「入ってくんな!」
ガヤガヤと騒がしい方向に、全員の視線が注がれる。
「親父!親父!親父ぃぃぃぃぃぃいいいい!」
その聞き覚えのある声に、真島の耳がピクリと動いた。
「通してくれ!親父に用があるんだ!通してくれ!」
西田だった。
他の極道に羽交い絞めにされているが、それを振り切るようにもがいている。
「頼んます!親父に会わせてください!親父ぃぃぃいい!!」
真島は胸騒ぎを覚えた。