あなた...小さなレストランの若きオーナー
狂犬の気まぐれ
空欄の場合は"柚葵"になります
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オープンまであと少し。
外観と内観はほぼ完成していた。
厨房や配管などはさすがに業者に任せたが、それ以外はほとんど自分で作業を行った。
古いビルの一角とは言え、ここは東京だ。
開店の為に用意した資金で全てを賄えるはずもなく、それは仕方ないことだった。
けれどインテリアを自分で選ぶことは楽しかったし、
何より好きなように店をいじれることは、この小さな城により一層の愛着を沸かせる。
「豪華絢爛にはほど遠いけど、こじんまりしてていいよね」
独りで悦に入るように呟くと、写真を撮るように両手の指で枠を作った。
その中から見る自分の店は、特別に思える。
「おう、姉ちゃん。この店のオーナーか?」
後ろから野太い声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは派手な柄のシャツを着た、ガタイの良い二人の男だった。
見るからに「アッチ」の人だ。
「誰に許可取ってこんなとこで商売しようとしてんだ?」
「あ?」とすごまれ、足がすくむ。
ここは天下の神室町だ。
こういう人たちに絡まれることは、想定していたつもりだった。
「許可なら役所に。水商売でもないですし…」
用意していた言葉を堂々と言ったつもりだったが、目が左右に揺れ声も震えた。
少しでも怯えたところを見せたら、付け込まれるとわかっていたのに…
「役所ぉ?そんなもん俺達には関係ねぇ。この町で商売したいなら
筋ってもん通してもらわなきゃ許可できねぇなぁ」
柚葵の恐怖心を読み取ったのか、男達がニヤニヤして詰め寄ってくる。
「あの、まだオープン前ですからお金なら、ありません」
精一杯の言葉に男達がケタケタと声を上げて笑った。
「あんなぁ、金がないんだったら作ればいいだけだろ。作り方教えてやろうか?」
そう言って一人の男が、店の前にある看板に手をかけた。
柚葵が一から作った、あの看板だ。
「随分安っぽいもんだな。今時小学生だってもっとまともなもん作るんじゃねぇの」
「やめてください!」
この一週間、店のロゴやデザインなど散々一人で頭を悩ませて作った力作のつもりだった。
馬鹿にされたことよりも壊されることへの恐怖心で一杯になる。
「あ?誰に向かって指図してんの?」
声を荒げた柚葵に向かって、男が歩み寄ってくる。
殴られる!
そう思って目を瞑った時だった。
「自分らどこの組のモンや?」
真新しい登場人物の声に、瞑っていた目を薄く開いた。
見れば二人の男の背後に、随分と派手な男が立っている。
「「あ?」」
勢い良く振り返った二人組は、その男を見るなり「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。
「この辺一帯はうちのシマやと思ってたけど、なんや勘違いやったかなぁ」
素肌に派手柄のジャケット、黒いレザーパンツ。
その顔には黒い眼帯がされ、胸元からは鮮やかな刺青がのぞいていた。
「「すんませんでした!」」
逃げ出すように走り出した二人組を見て「質問に答えてへんやん」と眼帯の男が笑う。
後には放り出した看板が転がる音がした。
この人も「アッチ」の人じゃん。
新しいヤクザの登場に、柚葵はどうしていいかわからなかった。
先ほどの二人組もかなり怖かったが、こちらの方がもっと怖い。
全身から出るオーラが全然違って見えた。
「自分、大丈夫か?」
目を白黒させながら立ちすくむ柚葵に向かって、男が口を開いた。
「それにしても不用心やで。神室町で商売するんやったら、女一人でやったらあかん」
投げられた手製の看板を広い上げると、男はそれをまじまじと眺めた。
「GRANDか。えらい名前に似つかわしくない店やのぉ」
ヒヒと笑いながらその看板を柚葵に手渡した。
「どこも壊れてへんで。せっかく作ったもん、壊されてしもたら台無しやった」
手渡された看板を受け取ると、途端に体の力が抜けるのがわかった。
「あ…あの…ありがとうございました」
引きつった顔で柚葵がお礼を言うと、ヒヒと男がまた笑う。
「安心しぃ。こんな成りやけど、わしは女子供には優しいんやで」
「怖がらせてすまんかった」と言って、踵を返す男に向かって柚葵は無意識に慌口を開く。
「あの!何かお礼を!」
言ってしまってから「しまった」と口を手で覆った。
「じゃぁ金や」とでも言われてしまったら、どうするつもりなのだろう。
けれど振り返った男は穏やかな笑顔を見せると
「ほんなら飯。飯食わしてぇな」と言った。
思わぬ返答に柚葵は返事をするのを忘れてしまった。
いや、その笑顔に見とれてしまったといった方が正しかったかもしれない。
外観と内観はほぼ完成していた。
厨房や配管などはさすがに業者に任せたが、それ以外はほとんど自分で作業を行った。
古いビルの一角とは言え、ここは東京だ。
開店の為に用意した資金で全てを賄えるはずもなく、それは仕方ないことだった。
けれどインテリアを自分で選ぶことは楽しかったし、
何より好きなように店をいじれることは、この小さな城により一層の愛着を沸かせる。
「豪華絢爛にはほど遠いけど、こじんまりしてていいよね」
独りで悦に入るように呟くと、写真を撮るように両手の指で枠を作った。
その中から見る自分の店は、特別に思える。
「おう、姉ちゃん。この店のオーナーか?」
後ろから野太い声をかけられ、振り返る。
そこにいたのは派手な柄のシャツを着た、ガタイの良い二人の男だった。
見るからに「アッチ」の人だ。
「誰に許可取ってこんなとこで商売しようとしてんだ?」
「あ?」とすごまれ、足がすくむ。
ここは天下の神室町だ。
こういう人たちに絡まれることは、想定していたつもりだった。
「許可なら役所に。水商売でもないですし…」
用意していた言葉を堂々と言ったつもりだったが、目が左右に揺れ声も震えた。
少しでも怯えたところを見せたら、付け込まれるとわかっていたのに…
「役所ぉ?そんなもん俺達には関係ねぇ。この町で商売したいなら
筋ってもん通してもらわなきゃ許可できねぇなぁ」
柚葵の恐怖心を読み取ったのか、男達がニヤニヤして詰め寄ってくる。
「あの、まだオープン前ですからお金なら、ありません」
精一杯の言葉に男達がケタケタと声を上げて笑った。
「あんなぁ、金がないんだったら作ればいいだけだろ。作り方教えてやろうか?」
そう言って一人の男が、店の前にある看板に手をかけた。
柚葵が一から作った、あの看板だ。
「随分安っぽいもんだな。今時小学生だってもっとまともなもん作るんじゃねぇの」
「やめてください!」
この一週間、店のロゴやデザインなど散々一人で頭を悩ませて作った力作のつもりだった。
馬鹿にされたことよりも壊されることへの恐怖心で一杯になる。
「あ?誰に向かって指図してんの?」
声を荒げた柚葵に向かって、男が歩み寄ってくる。
殴られる!
そう思って目を瞑った時だった。
「自分らどこの組のモンや?」
真新しい登場人物の声に、瞑っていた目を薄く開いた。
見れば二人の男の背後に、随分と派手な男が立っている。
「「あ?」」
勢い良く振り返った二人組は、その男を見るなり「ヒッ」と短い悲鳴を上げた。
「この辺一帯はうちのシマやと思ってたけど、なんや勘違いやったかなぁ」
素肌に派手柄のジャケット、黒いレザーパンツ。
その顔には黒い眼帯がされ、胸元からは鮮やかな刺青がのぞいていた。
「「すんませんでした!」」
逃げ出すように走り出した二人組を見て「質問に答えてへんやん」と眼帯の男が笑う。
後には放り出した看板が転がる音がした。
この人も「アッチ」の人じゃん。
新しいヤクザの登場に、柚葵はどうしていいかわからなかった。
先ほどの二人組もかなり怖かったが、こちらの方がもっと怖い。
全身から出るオーラが全然違って見えた。
「自分、大丈夫か?」
目を白黒させながら立ちすくむ柚葵に向かって、男が口を開いた。
「それにしても不用心やで。神室町で商売するんやったら、女一人でやったらあかん」
投げられた手製の看板を広い上げると、男はそれをまじまじと眺めた。
「GRANDか。えらい名前に似つかわしくない店やのぉ」
ヒヒと笑いながらその看板を柚葵に手渡した。
「どこも壊れてへんで。せっかく作ったもん、壊されてしもたら台無しやった」
手渡された看板を受け取ると、途端に体の力が抜けるのがわかった。
「あ…あの…ありがとうございました」
引きつった顔で柚葵がお礼を言うと、ヒヒと男がまた笑う。
「安心しぃ。こんな成りやけど、わしは女子供には優しいんやで」
「怖がらせてすまんかった」と言って、踵を返す男に向かって柚葵は無意識に慌口を開く。
「あの!何かお礼を!」
言ってしまってから「しまった」と口を手で覆った。
「じゃぁ金や」とでも言われてしまったら、どうするつもりなのだろう。
けれど振り返った男は穏やかな笑顔を見せると
「ほんなら飯。飯食わしてぇな」と言った。
思わぬ返答に柚葵は返事をするのを忘れてしまった。
いや、その笑顔に見とれてしまったといった方が正しかったかもしれない。