自室に篭るなり、ハイライトに火を付けた。
昇っていく煙を見ながら、あかんなぁと思う。


あんなアホに言われて気付くなんて…
全くアホはどっちや


自分ではない誰かの為に作られた柚葵の料理を見て、嫉妬した。
GRANDは飯屋だ。
一日に何人の客が柚葵の作った料理を食べているのか真島は知らない。
けれどあれは客に出すそれとは明らかに違った。
誰かの為を想って作られた、気持ちの篭った料理だった。
それが自分ではない誰かに向けられたのだと思い、嫉妬に駆られた。
西田が柚葵を名前で呼ぶのも気に食わなかった。
他の男が名前を呼ぶのさえ許せないほど、真島の中で柚葵の存在が大きくなっていく。


結局はそれが自分の為に作られたものだと知って、真島は苦笑する。
やめようやめようと思っているうちは、心の中に柚葵がいる証拠だ。
それをあのアホに言われて気付くなんて、情けない話だと思う。


「あのアホはほんま極道に向いてへんな」


そう言ってヒヒヒと笑う。
簡単な見張りもできない、嘘もつけない、頭も悪い。
けれどあのアホに一つ借りができたなと真島は思った。



覚悟を決めなければならないのだろう。
カタギの、この世界とはほど遠い、純粋無垢なあの存在を自分の道に引きずり込むのだ。
また泣かせてしまうかも知れない。
危険な目に遭わせてしまうかも知れない。
あの子のように、もしかしたら裏の世界で食い物にされてしまうかも知れない。
けれどその前に必ず自分が守るのだと真島は思った。



もう二度と失敗せぇへん
もう二度と離さへん
もう二度と傷つけへん

もう二度と…


幾度となく「もう二度と」と思い、腹を括ろうと覚悟を決めた。
この神室町で誰よりも狂ってやろうと決めたあの時、自分が弱くなる気がして
特定の存在を決して傍に置かないように決めた。
女を傍に置いて失敗したのは一度ではない。
愛する者に裏切られた過去だってある。
けれどもう良いのではないかとも思った。



欲しいものは手に入れてもええんちゃうか



ガラス細工みたいに繊細なものを扱うような真似はできないかも知れない。
けれどこの手で強く抱きしめることはできる気がした。





柚葵に会いに行こう
拒絶されても、振りほどかれても、もう二度とその手を離さないんや