あなた...小さなレストランの若きオーナー
逃避と覚悟
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事務所の戸を開くなり、良い匂いが鼻孔を掠めた。
時計を見ればもうすぐ20時。
残っている若衆が晩飯を食っていてもおかしくない時間だ。
「お疲れ様です!」
慌てふためくように若い奴らが何人か立ち上がった。
机の上にはモダンな風呂敷と、綺麗に詰められた料理が並んでいた。
見覚えのある盛り付けに眉を顰める。
「きょ…今日はもうお戻りにならないかと思いまして」
「別に、かまへん」
食事を取っていたことの無礼を詫びる言葉だと思いそう口にするが、
一人明らかに動揺している奴がいた。
そのおかしな態度に何か後ろめたいことがあるとすぐに気付く。
男はチラチラと料理と真島の顔を見比べ、見る見る青くなっていった。
「おう西田、どないしてん」
「…い…いや…いえ…」
額にどっと冷や汗をかき、西田は「何でもありません」と蚊の鳴くような声で言った。
その態度に苛立ち、真島はもう一度机の上の料理を見やる。
何品か見覚えのあるおかずが並び、綺麗な握り飯まで置いてあった。
ドンッ!
鈍い音が事務所に響く。
それは真島が西田の頭を掴み、机に叩きつけた音だった。
「なんや、見たことあるもん食うてるなぁ」
「…す…すんません」
「何が、すんませんなんや」
ドンッ!
もう一度額から打ち付ける。
「うっ」といううめき声の後、机の上に少量の血が滲んだ。
「おうお前ら、ちょおこいつくくれや」
こうなれば西田はまな板の上のなんちゃらだ。
同じ組員とは言え、親に逆らった極道に味方はいない。
何かを言わせる時間もないほどの早さで、半裸にされ椅子に縛り付けられた。
真島は引きつった顔で椅子に縛られ座る西田の前で、ブンブンとバットを振り回す。
「なんでお前がGRANDの飯食うてるんや」
「…すんません!」
西田の返答に苛立ち、舌打ちする。
真島はその鼻先すれすれで思いきりバットを振った。
「ヒッ…すんません!!!!!」
喉を鳴らすと同時に、西田は悲鳴に似た謝罪の言葉を口にする。
「俺が聞きたいんは、すんませんやない。
理由や」
もう一度鼻先でバットを振る。
「なんでお前がGRANDの飯を食うてるんか聞いとんのやで」
「…すんま……せ…う"…」
ほぼ泣きっ面の西田をバットで小突いた。
「言えへんのか、あ?
それやったらお前の頭、これでカチ割るだけや」
バットを床にコンコン、と打ち付けた後西田の頭にそれを添える。
「うぅ…」と声にならない嗚咽を漏らし、西田の目から涙が零れた。
「いーち、にーーーーーーーい」
バットを軽く振りながら最後は思いきり振りかぶる。
「さーーーーーーーーーー」
「すんません!見張り、失敗しましたぁあああああ!」
西田の絶叫と共に、バットを盛大に壁に投げつけた。
ガシャン!と壺の割れる音が事務所に響く。
「…どういうことか、説明してもらおか」
西田の顔を掴むと顔面を思いきり近付ける。
「親父…すんません…すんません」と西田は泣くが容赦しない。
殺してやろうか、そう思うほど真島は怒っていた。