あなた...小さなレストランの若きオーナー
逃避と覚悟
空欄の場合は"柚葵"になります
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気が付いたらGRANDの近くに立っていた。
この数日、店の近くを通ることでさえ避けていたというのに。
未だ付かせている見張りの若衆からは「順調そうだ」という報告を受けていた。
この町に柚葵が根を張って商売していくことを喜ばしく思う反面、
ここに女がいる限り自分の中から存在が消えることはないのかも知れないと感じていた。
どうしたいねん
自分にそう問いかけるが、もちろん答えなど分かり切っている。
分かり切っているのに、分かりたくなかった。
わしは童貞のガキか、クソ
一人自問を繰り返していると、GRANDの扉が開いた。
中からウェイターの男が出ていくのが見える。
その顔には怒りが滲んでいるように見えた。
店の中には今柚葵が一人でいるのだろう。
会ってはいけないと思うのに、その事実が真島を突き動かした。
この店の扉はこんなに重かっただろうか。
そう思いながらそれを引いた。
「…邪魔するで」
店内は煌々と明るいのに人影がない。
落胆する自分と安堵する自分で揺れた。
「誰もおらんのかいな」
そう呟いてカウンターを覗き込むと、そこに蹲る柚葵を見つけた。
そこからはもう体が勝手に動いていた。
「もう会えないって、そう思っていたのに…
忘れようとしたのに、どうして…どうして来るんですか…」
破片を拾う真島の指に、涙が一粒零れた。
あとはもう衝動だった。
せっかく拾った陶器の欠片を放り出し、柚葵の体を抱き寄せる。
勢いで厨房の床に尻もちをついた。
レザーパンツ越しに、タイルの冷たさを感じる。
そのまま自分の膝の上に柚葵を抱きかかえた。
油とスパイスが混じった香りのするコック服、その上の柔らかい髪からはシャンプーの香りが漂ってくる。
そのまま頭に手を添え、強引に唇を奪った。
以前はあんなに躊躇ったのに…と思う。
一度付けられた火は簡単に消えず、貪るように柚葵を求めた。
「…んっ…やっ…」
柚葵の手が真島の胸板を抵抗するように押しのけた。
けれどその力は弱く、いとも簡単に両手の自由を奪えてしまう。
真島は柚葵の両手を掴むと、そのまま首筋に顔を埋めた。
「真島さ…や…やぁ…」
拒絶する声すら甘美に聞こえ、体が熱くなるのがわかる。
「やめて欲しいならもっと嫌がらんと」
耳元で囁くとそのまま耳たぶを噛んだ。
柔らかい食感が真島の興奮を更に高める。
「いや…いや!やめてください!」
その悲鳴にも似た声に、ハッと我に返った。
顔を上げれば可愛い顔をくしゃくしゃにして涙を流す柚葵がいる。
「…こんなこと…しないで…も…やめてください…」
膝の上で子犬のように柚葵が震えている。
罪悪感で真島の胸は痛いほどに締め付けられていた。
「…こんなこと…もうやめてください…」
顔を両手で覆って泣く女の背中を優しく撫でた。
その真島の仕草に柚葵がピクッと体を揺らす。
「怖がることは、もうせぇへんから」
嗚咽を漏らす女の額に唇を落とす。
拒絶されたことに心が傷つき、そして傷つけてしまったことに胸が締め付けられていた。
それでも尚、許されるならこのまま柚葵を抱いていたかった。
「…会いにきたらあかんかったな」
独り言のように呟いた。
輝くような笑顔に惹かれたはずなのに、今では泣かせてばかりいる。
自分の生き方では、大切なものは守れないのかも知れなかった。
「もうせぇへん…忘れてくれや」
「な?」と子供に言い聞かせるようにし、柚葵から体を離した。
「せっかく拾うたけど、破片ほっぽり出してしもうた。
絶対に素手で拾ったりしたらあかんで」
頭をポンポンと撫でると立ち上がる。
その瞬間、カウンターに転がった黒い紙きれに目が行った。
ぐちゃぐちゃに丸められた名刺と、自分自身が重なる。
もうここに来てはいけないと思った。
厨房で蹲る柚葵に目もくれず、真島は一歩を踏み出した。
このまま店を出て、赤の他人に戻るんや
自分には一人の女を愛する覚悟ができていないのだと真島は悟っていた。
この数日、店の近くを通ることでさえ避けていたというのに。
未だ付かせている見張りの若衆からは「順調そうだ」という報告を受けていた。
この町に柚葵が根を張って商売していくことを喜ばしく思う反面、
ここに女がいる限り自分の中から存在が消えることはないのかも知れないと感じていた。
どうしたいねん
自分にそう問いかけるが、もちろん答えなど分かり切っている。
分かり切っているのに、分かりたくなかった。
わしは童貞のガキか、クソ
一人自問を繰り返していると、GRANDの扉が開いた。
中からウェイターの男が出ていくのが見える。
その顔には怒りが滲んでいるように見えた。
店の中には今柚葵が一人でいるのだろう。
会ってはいけないと思うのに、その事実が真島を突き動かした。
この店の扉はこんなに重かっただろうか。
そう思いながらそれを引いた。
「…邪魔するで」
店内は煌々と明るいのに人影がない。
落胆する自分と安堵する自分で揺れた。
「誰もおらんのかいな」
そう呟いてカウンターを覗き込むと、そこに蹲る柚葵を見つけた。
そこからはもう体が勝手に動いていた。
「もう会えないって、そう思っていたのに…
忘れようとしたのに、どうして…どうして来るんですか…」
破片を拾う真島の指に、涙が一粒零れた。
あとはもう衝動だった。
せっかく拾った陶器の欠片を放り出し、柚葵の体を抱き寄せる。
勢いで厨房の床に尻もちをついた。
レザーパンツ越しに、タイルの冷たさを感じる。
そのまま自分の膝の上に柚葵を抱きかかえた。
油とスパイスが混じった香りのするコック服、その上の柔らかい髪からはシャンプーの香りが漂ってくる。
そのまま頭に手を添え、強引に唇を奪った。
以前はあんなに躊躇ったのに…と思う。
一度付けられた火は簡単に消えず、貪るように柚葵を求めた。
「…んっ…やっ…」
柚葵の手が真島の胸板を抵抗するように押しのけた。
けれどその力は弱く、いとも簡単に両手の自由を奪えてしまう。
真島は柚葵の両手を掴むと、そのまま首筋に顔を埋めた。
「真島さ…や…やぁ…」
拒絶する声すら甘美に聞こえ、体が熱くなるのがわかる。
「やめて欲しいならもっと嫌がらんと」
耳元で囁くとそのまま耳たぶを噛んだ。
柔らかい食感が真島の興奮を更に高める。
「いや…いや!やめてください!」
その悲鳴にも似た声に、ハッと我に返った。
顔を上げれば可愛い顔をくしゃくしゃにして涙を流す柚葵がいる。
「…こんなこと…しないで…も…やめてください…」
膝の上で子犬のように柚葵が震えている。
罪悪感で真島の胸は痛いほどに締め付けられていた。
「…こんなこと…もうやめてください…」
顔を両手で覆って泣く女の背中を優しく撫でた。
その真島の仕草に柚葵がピクッと体を揺らす。
「怖がることは、もうせぇへんから」
嗚咽を漏らす女の額に唇を落とす。
拒絶されたことに心が傷つき、そして傷つけてしまったことに胸が締め付けられていた。
それでも尚、許されるならこのまま柚葵を抱いていたかった。
「…会いにきたらあかんかったな」
独り言のように呟いた。
輝くような笑顔に惹かれたはずなのに、今では泣かせてばかりいる。
自分の生き方では、大切なものは守れないのかも知れなかった。
「もうせぇへん…忘れてくれや」
「な?」と子供に言い聞かせるようにし、柚葵から体を離した。
「せっかく拾うたけど、破片ほっぽり出してしもうた。
絶対に素手で拾ったりしたらあかんで」
頭をポンポンと撫でると立ち上がる。
その瞬間、カウンターに転がった黒い紙きれに目が行った。
ぐちゃぐちゃに丸められた名刺と、自分自身が重なる。
もうここに来てはいけないと思った。
厨房で蹲る柚葵に目もくれず、真島は一歩を踏み出した。
このまま店を出て、赤の他人に戻るんや
自分には一人の女を愛する覚悟ができていないのだと真島は悟っていた。