あなた...小さなレストランの若きオーナー
逃避と覚悟
空欄の場合は"柚葵"になります
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「…邪魔するで」
その声に立ち上がることができない。
今の自分の顔を見られたくないと思った。
「誰もおらんのかいな」
カツカツとカウンターに近付く足音が聞こえる。
今は会いたくない
そう思うのと同時に「見つけて欲しい」とも願った。
「…柚葵?どうしたんや?」
カウンター越しに真島がこちらを覗き込んでいるのが分かった。
しゃがみ込む柚葵の姿に気付き、慌てたように厨房に入ってくる。
「どないしてん!具合でも悪いんか!」
隣に屈み肩を触られる。
真島の革靴の下で破片が砕ける音がした。
「…なんでも、ないんです。
お気に入りのお皿を割ってしまって…それで…」
「あかん」
拾おうと伸ばした手を真島に握られる。
一瞬で体温が上がっていくのを感じた。
「柚葵ちゃんは料理人やろ。手に怪我なんかしたらあかん。
わしが拾ったるわ」
そう言った真島が大きな破片を拾っていく。
そのゴツゴツとした指に目が行った。
あんなに綺麗だった皿の模様は跡形もない。
「やめて…ください」
精一杯出した声は震え、掠れた。
何に対しての制止なのか自分でもわからなかった。
「本当に…やめてください」
泣きたくない、と思った。
涙を見せたら今でも真島のことが好きだと、ばれてしまう。
会いたかったと知らしめてしまう。
「…わしは手の皮と面の皮だけは厚いからの。
こんなんで怪我したりせぇへんわ」
ヒヒ、と短い笑い声の後は無言だった。
ただカチャカチャと破片を片付ける音だけが響く。
「…ずっと待ってたのに…」
言ってはいけないと思うのに、言葉が勝手に口から滑り出ていく。
「あの日、追いかけてくれると思っていたのに…」
これ以上言ってはいけないと分かっている。
「もう会えないって、そう思っていたのに…
忘れようとしたのに、どうして…どうして来るんですか…」
鼻の奥にツンとした痛みが広がり、目頭が熱くなる。
堪えたいと思うのに、涙が一粒破片を拾う真島の指に落ちた。