あなた...小さなレストランの若きオーナー
交差点
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「姐さん!」
どこまで走ったのか。
背後からの声に、やっと気付いた。
「姐さん、待ってください!」
それが自分に向けての発言だと気付くのに時間がかかる。
振り返れば、見たことのある男が息を切らせて立っていた。
「送らせてください。親父に叱られますから」
派手なシャツを見に纏った男は、いつか店に真島と顔を出したことがある。
柚葵は涙を拭い「結構です」と答えた。
真島さんが追いかけてきてくれると思った
自分の期待に気付き、また涙が溢れる。
真島さんが来てくれるって思ったのに
「馬鹿みたい」と思った。
女と腕を組み、繁華街を歩く真島を思い出す。
自分とは違い、華やかな美しい人だった。
「送らせてください。親父に叱られます」
懇願するように男が言い、柚葵の隣に立った。
「姐さんの隣に並んで歩いたらもっと怒られます。先を歩いてください」
「姐さんて呼ばないで」
泣き顔を見られないように顔を背けた。
「すんません。他になんて呼んでいいかわかんなくて」
困ったように頭を掻く男の言葉に、仕方なく柚葵は先を歩いた。
「柚葵です。あなたたちの姐さんじゃありません」
「うっす」
無言で歩くのが気まずくて、思わず口を開いてしまう。
涙は枯れ、鈍い頭痛が柚葵を襲っていた。
「あの...姐さん」
「柚葵です」
「うっす。柚葵...さん。いや、たぶん名前で呼んだら、俺親父にシバかれます」
後ろに柄の悪い男を連れ、泣き腫らした顔の柚葵をすれ違う通行人が振り返っていく。
それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「綺麗な人でしたね、あの人」
真島とお似合いだったと思う。
思い返せば思い返すほどそう感じ、柚葵は下を向いた。
「あの柚葵...さん、いや、姐さん。
あれは遊びっすよ。自分はそう思います」
派手なシャツを着て、ガタイの良い強面の男だった。
そんな人が自分を慰めていることが尚可笑しかった。
そしてそれが同時に虚しい。
「やめてください」
「うっす...でも、親父、なんとも思ってなかったら、俺に送れなんて言わないっす。すいません」
「...なんとか思ってたら、自分で来てくれると思いませんか?」
思わず柚葵は振り返り男を見上げる。
枯れたと思った涙がまた溢れてきた。
「あの人綺麗でした。
私なんかより真島さんの隣を歩いててお似合いでした」
咄嗟に顔を覆う。
どうしてこんなに傷付いているのか。
分かっていても、分かりたくなかった。
「...姐さんの方が綺麗っすよ」
「...え?」
柚葵が顔を上げると、男が慌てたような表情をした。
「あ、いや!すんません!本当なんか勝手に口が開いたっつーか!すんません!」
ペコペコと頭を下げ男がさらに続ける。
「最初は親父にしては地味な女だなと思いましたけど、よく見たら姐さん美人じゃないっすか!」
「あ、いや、俺何言ってんだ」とあたふたする男に柚葵は「ありがとう」と微笑む。
「優しいんですね」
お世辞だと受け止め歩き出す柚葵に、男は尚も食い下がる。
「俺、本気で思ってますよ。
姐さん、綺麗っす。
あと飯も世界一うまいっす。
...親父いなかったら、俺が立候補するっす」
「ありがとう」
随分優しい極道だなと笑った。
この人が真島だったらいいのにと思う。
「俺は親父のこと尊敬してます。
世界で一番。
親父は極道だったら知らない人がいないくらい、すげぇ人っす。
喧嘩も馬鹿みてぇに強ぇし…時々怖くなるくらい。
でも女を物みたいに扱うことだけは絶対しない人なんです。
俺らもそう教わりました。
だから俺も女の涙に世界で一番弱いっす。
...また飯食わしてください」
気付けば家の前についていた。
「じゃあ」と頭を下げる柚葵に「自分、西田と言います」と男も頭を下げる。
「あんま落ち込まないでください」
男に見送られ、柚葵は階段を上がり部屋に入った。
オートロックでもなんでもない、小さな古いアパートの床が軋む音さえ虚しく響く。
早く明日が来ればいいと思う。
そして明後日がきて、明々後日がくればいい。
早く時間が経てばいいのに。
もう忘れたい。
柚葵はその場で蹲り膝を抱えた。
どこまで走ったのか。
背後からの声に、やっと気付いた。
「姐さん、待ってください!」
それが自分に向けての発言だと気付くのに時間がかかる。
振り返れば、見たことのある男が息を切らせて立っていた。
「送らせてください。親父に叱られますから」
派手なシャツを見に纏った男は、いつか店に真島と顔を出したことがある。
柚葵は涙を拭い「結構です」と答えた。
真島さんが追いかけてきてくれると思った
自分の期待に気付き、また涙が溢れる。
真島さんが来てくれるって思ったのに
「馬鹿みたい」と思った。
女と腕を組み、繁華街を歩く真島を思い出す。
自分とは違い、華やかな美しい人だった。
「送らせてください。親父に叱られます」
懇願するように男が言い、柚葵の隣に立った。
「姐さんの隣に並んで歩いたらもっと怒られます。先を歩いてください」
「姐さんて呼ばないで」
泣き顔を見られないように顔を背けた。
「すんません。他になんて呼んでいいかわかんなくて」
困ったように頭を掻く男の言葉に、仕方なく柚葵は先を歩いた。
「柚葵です。あなたたちの姐さんじゃありません」
「うっす」
無言で歩くのが気まずくて、思わず口を開いてしまう。
涙は枯れ、鈍い頭痛が柚葵を襲っていた。
「あの...姐さん」
「柚葵です」
「うっす。柚葵...さん。いや、たぶん名前で呼んだら、俺親父にシバかれます」
後ろに柄の悪い男を連れ、泣き腫らした顔の柚葵をすれ違う通行人が振り返っていく。
それが可笑しくて思わず笑ってしまった。
「綺麗な人でしたね、あの人」
真島とお似合いだったと思う。
思い返せば思い返すほどそう感じ、柚葵は下を向いた。
「あの柚葵...さん、いや、姐さん。
あれは遊びっすよ。自分はそう思います」
派手なシャツを着て、ガタイの良い強面の男だった。
そんな人が自分を慰めていることが尚可笑しかった。
そしてそれが同時に虚しい。
「やめてください」
「うっす...でも、親父、なんとも思ってなかったら、俺に送れなんて言わないっす。すいません」
「...なんとか思ってたら、自分で来てくれると思いませんか?」
思わず柚葵は振り返り男を見上げる。
枯れたと思った涙がまた溢れてきた。
「あの人綺麗でした。
私なんかより真島さんの隣を歩いててお似合いでした」
咄嗟に顔を覆う。
どうしてこんなに傷付いているのか。
分かっていても、分かりたくなかった。
「...姐さんの方が綺麗っすよ」
「...え?」
柚葵が顔を上げると、男が慌てたような表情をした。
「あ、いや!すんません!本当なんか勝手に口が開いたっつーか!すんません!」
ペコペコと頭を下げ男がさらに続ける。
「最初は親父にしては地味な女だなと思いましたけど、よく見たら姐さん美人じゃないっすか!」
「あ、いや、俺何言ってんだ」とあたふたする男に柚葵は「ありがとう」と微笑む。
「優しいんですね」
お世辞だと受け止め歩き出す柚葵に、男は尚も食い下がる。
「俺、本気で思ってますよ。
姐さん、綺麗っす。
あと飯も世界一うまいっす。
...親父いなかったら、俺が立候補するっす」
「ありがとう」
随分優しい極道だなと笑った。
この人が真島だったらいいのにと思う。
「俺は親父のこと尊敬してます。
世界で一番。
親父は極道だったら知らない人がいないくらい、すげぇ人っす。
喧嘩も馬鹿みてぇに強ぇし…時々怖くなるくらい。
でも女を物みたいに扱うことだけは絶対しない人なんです。
俺らもそう教わりました。
だから俺も女の涙に世界で一番弱いっす。
...また飯食わしてください」
気付けば家の前についていた。
「じゃあ」と頭を下げる柚葵に「自分、西田と言います」と男も頭を下げる。
「あんま落ち込まないでください」
男に見送られ、柚葵は階段を上がり部屋に入った。
オートロックでもなんでもない、小さな古いアパートの床が軋む音さえ虚しく響く。
早く明日が来ればいいと思う。
そして明後日がきて、明々後日がくればいい。
早く時間が経てばいいのに。
もう忘れたい。
柚葵はその場で蹲り膝を抱えた。